総トップページ にジャンプ
この資料に関するコメント

 新約聖書から抜粋(2)



2 ルカによる文書(二)
  (Actus Apostolorum・使徒行伝・聖霊の福音書) 全



第一章


【冒頭の言葉】

01 尊敬するテオフィロ閣下、私は最初の『文書(一)』で、イエスが行ない、教え始めたすべての事柄について、
02 ご自分が選んだ使徒たちに聖霊によって命令を与えたのち、迎え上げられた日までのことを書き記しました。

03 イエスは、十字架にかかった後も、四十日にわたって弟子たちに現われ、神の王国について語りました。そして、ご自分が苦しみを受けたのちにも、生きていることを、多くの証拠によって使徒たちに示したのです。

【イエスの昇天】

04 イエスは、使徒らとともにいたときに「エルサレムから離れることなく、私が言った『父が約束されたもの』を待っていなさい。
05 ヨハネは、確かに水で洗礼を与えた。しかし、あなたたちは今から幾日もたたないうちに、聖霊によって洗礼を受けることになる」と命じました。

06 それで、弟子たちはイエスに尋ねた「主よ、今こそイスラエルに王国を復興するのですか?」

07 イエスは、弟子たちに言った「父が、ご自分の権威によって定めた時のことは、あなたたちの知るところではない。
08 だが、聖霊があなたたちの上に臨むとき、力を受けるだろう。あなたたちはエルサレム・ユダヤ・サマリアの全土、そして地の最も遠い所まで、私の証人となるだろう」

09 そう言った後、弟子たちが見ている間に、イエスは天に引き上げられ、雲の間に見えなくなった。
10 イエスが上って行く間、彼らは天をじっと見つめたままであった。すると、白い衣を着た二人の人が彼らのそばに立って、
11 「ガリラヤの人たちよ、なぜ天を見つめて立っているのか。あなたたちから迎え上げられたイエスは、天に上って行くのと同じ仕方で、再び来るだろう」と言った。

【弟子たち】

12 弟子たちは、オリーブ山からエルサレムに帰った。その山は、エルサレムに近く、安息日に許可されている距離のうちにある。
13 ペトロ・ヨハネ・ヤコブ・アンデレ・フィリポ・トマス・バルトロマイ・マタイ・アルファイオスの子ヤコブ・熱心党のシモン・そしてヤコブの子ユダの十一人は、泊まっていた家の二階に上がった。
14 彼らは、女たちやイエスの母マリア、イエスの兄弟たちとともに、心を合わせて、祈りと嘆願をし続けていた。

【ユダの補欠にマティアが籤(くじ)で当たる】

15 ペトロは、弟子たちの真ん中に立って言った。集まった人々は、百二十人ほどである。
16 「兄弟たち、イエスを捕らえた者たちを手引きしたユダについては、聖霊がダビデの口によって預言した聖句を実現する必要がありました。
17 彼は、私たちとともに数えられ、奉仕役に加わっていたからです。
18 そのユダは、不正に対する報酬で畑を手に入れたが、まっさかさまに落ちて、その腹は張り裂け、腸は飛び出てしまった。
19 それがエルサレムすべての人に知れ渡り、その畑は『アケルダマ』つまり『血の畑』と呼ばれるようになりました。

20 詩編には、こう書いてあります『彼の住まいは、荒れ果てるように。そこに住む者は、いなくなるように。彼の職は、他の者が引き継ぐように』
21 ですから、主イエスが私たちの間を行き来した全期間中、
22 ヨハネの洗礼から、イエスが迎え上げられた日に至るまで、私たちと一緒にいた人々のうち、誰か一人を主の復活の証人にしなければなりません」

23 彼らは、バルサバスまたはユストゥスとも呼ばれているヨセフと、マティアとの二人を推薦した。
24 そして、祈って言った「万人の心をご存じである主よ、あなたがこの二人の中から一人をお示しください。
25 ユダが、自分の場所に行くために離れてしまったので、奉仕役と使徒職に加わるためです」
26 二人が籤(くじ)を引くと、籤はマティアに当たった。そこで、マティアは十一人の使徒たちに加えられた。


第二章


【聖霊が下って各自が異なる言語を話す】

01 五旬祭の日が来たときに、使徒たちは一緒に集まっていた。
02 突然、激しい風が吹きつけるような音が天から起こり、彼らが座っていた家全体に満ちた。
03 火のような舌が現われ、一人一人の上に止(とど)まった。
04 皆は聖霊に満たされ、話す能力を霊が与えるままに、さまざまな異なる言語で話し始めたのである。

05 エルサレムには、あらゆる国から来た敬虔なユダヤ人たちが住んでいた。
06 この音を聞いて、群衆が集まって来たが、自分の国の言語が話されているのを聞いて、皆がびっくりした。
07 驚き、不思議に思って互いに言った「話をしているこの人たちは、皆ガリラヤ人ではないか。
08 私たちが、ここで自分の生まれ故郷の言語で聞くとは、いったいどういうことだろう。
09 私たちは、パルティア人・メディア人・エラム人・そして、メソポタミア・ユダヤ・カッパドキア・ポントス・アジア、
10 フリュギア・パンフィリア・エジプト・キュレネに近いリビア地方からの者たち、ローマからの訪問者であって、ユダヤ人もいれば改宗者もおり、
11 クレタ人もいればアラビア人もいるのに、彼らが私たちの言葉で神の強力な業について話すのを聞いているのだ!」

12 皆は驚き、当惑して互いに言った「これは、どういうことだろう?」
13 他の者たちは、嘲(あざけ)って言った「彼らは、新しいブドウ酒に満たされているのだ」

【ペトロが演説を始める】

14 ペトロは、他の十一人とともに立ち上がり、声を張り上げて彼らに語りかけた「ユダヤの人たち、またエルサレムに住むすべての人たち。このことを知ってください。そして、私の言葉に耳を傾けてください。
15 まだ朝の九時なのですから、この人たちは、あなたたちが考えるように、酒に酔っているのではありません。
16 そうではなく、これは預言者ヨエルを通して語られていたことなのです。

17 『神は言う。終わりの日々に、私はすべての肉なる者の上に私の霊を注ぐ。あなたたちの息子たちや娘たちは、預言をするだろう。若者たちは、幻を見るだろう。老人たちは、夢を見るだろう。
18 実に、その日々には、私の召使いたちと女召使いたちにも、私の霊を注ぐ。すると、彼らは預言をするだろう。

19 私は、上では天に不思議な業を、下では地に徴(しるし)を示す。すなわち、血と火と立ちのぼる煙とを。
20 主の偉大な輝かしい日が来る前に、太陽は闇に、月は血に変わるだろう。
21 主の名を呼び求める者はみな救われるだろう』」

【ペトロがイエスについて述べる】

22 「イスラエルの人たち、この言葉を聞きなさい! ナザレのイエス、あなたたちが知っているように、神が彼を通してあなたたちの間で行なわれた数々の強力な業と不思議な業と徴とによって、神からあなたたちに認証されたこの人を。
23 神のお定めになった考えと予知とによって引き渡されたこの人を。あなたたちは不法な者たちの手を借りて、十字架にかけて殺しました。
24 神はイエスを死の苦痛から解放して、生き返らせたのです。彼が死に支配されたままでいることは、あり得ないからです。
25 ダビデは彼について、こう言っている『私が揺り動かされないように、私の右にいてくださるから、いつも目の前に主を見た。

26 だから、私の心は楽しみ、私の舌は喜んだ。さらに、私の肉体も希望のうちに住むでしょう。
27 あなたは、私の魂をハデスに捨て置かず、聖なる者は腐敗を見ることも許しません。
28 命の道を私に知らせてくださいました。あなたのみ前で私を喜びに満たしてくださるでしょう』」

【ダビデの予見したキリストの復活】

29 「兄弟たち、ダビデが死んで葬られ、その墓は今日まで私たちのところにあると、率直に言うことができます。
30 彼は預言者であって、神が自分に、子孫によってキリストを起こし、王座に着かせると誓ってくださったことを知っていて、
31 キリストの復活について予見し、その魂がハデスに捨て置かれることなく、その肉体が腐敗をしないとも語りました。
32 このイエスを神は生き返らせました。私たちは皆、そのことの証人なのです。
33 この方は、神の右に上げられて、父から約束の聖霊を受け、それを注いでくださいました。今あなたたちが見聞きしているのは、それなのです。
34 ダビデは、もろもろの天に上りませんでしたが、自らこう言っています。
   「主は私の主に言われた『私の右に座っていなさい、
35    私があなたの敵たちをあなたの足台とするまで』」

36 ですから、イスラエルのすべての人は、はっきりと知っておきなさい。あなたたちが十字架につけたイエスを、神は主ともキリストともされたのです」

【最初に洗礼を受けた改宗者三千人】

37 これを聞くと、人々は心を刺された。そして、ペトロと他の使徒たちに言った「兄弟たち、私たちはどうしたらよいのでしょうか?」

38 ペトロは、言った「悔い改めなさい。そして、それぞれ罪の許しのためにイエス・キリストの名において洗礼を受けなさい。そうすれば、聖霊を贈り物として受けるでしょう。
39 この約束は、私たちの神なる主が招く人々、つまり、あなたたちと、あなたたちの子ら、そして遠くにいるすべての人たちに対するものなのです」
40 彼は多くの言葉で証言し、彼らに勧めて言った「この曲がった世代から、自分を救いなさい!」

41 ペトロの言葉を喜んで受け入れた人たちは、洗礼を受けた。その日に、およそ三千人の弟子が加えられた。


【最初の信徒たちの生活】

42 彼らは、使徒たちの教え、交わり、パンを裂くこと、祈りのうちに専念をした。
43 多くの不思議な業を使徒たちが行うので、皆が恐れを生じた。
44 信者たちは皆一緒にいて、すべての物を共有した。
45 自分たちの所有物や持ち物を売り、必要に応じて皆に分配をした。
46 日ごとに、心を合わせて神殿にひたすらとどまっており、家ではパンを裂き、喜びとまごころをもって食事をともにし、
47 神を賛美し、民のすべてから好意を持たれていた。主は、救われてゆく人々を日ごとにその集会に加えた。


第三章


【ペテロが足の不自由な人を治す】

01 ペトロとヨハネが、午後三時の祈りの時間に神殿に上った。
02 生まれつき足の不自由な人が運ばれて来た。神殿に入る人たちから施しを求めるために、神殿の「美し」と呼ばれる門のところに毎日置いてもらっていた。
03 ペトロとヨハネが神殿に入ろうとするのを見て、施しをもらいたいと頼んだ。
04 ペトロは、ヨハネとともに彼をじっと見つめて「私たちを見なさい」と言った。
05 彼は、何かをもらえることを期待して、それに従った。
06 ペトロは、言った「銀や金は私にはないが、私が持っているものをあなたにあげよう。ナザレのイエス=キリストの名において、立ち上がって歩きなさい!」
07 そして、彼の右手をつかんで起き上がらせた。すると、彼の足とくるぶしの骨とは強くなった。
08 彼は踊り上がって立ち、歩き始めた。歩いたり、跳ねたり、神を賛美したりしながら、彼らとともに神殿の中に入った。
09 民衆は、彼が歩き回って神を賛美しているのを見た。
10 その人が、いつも神殿の「美しの門」のところに座って施しを求めていた者だと気づく。そして、彼に起きたことを知って驚き、仰天した。

11 足が不自由であったが、今ではいやされたその人がペトロとヨハネにすがりついている。民衆は非常に驚いて「ソロモンの回廊」と呼ばれる所にいた彼らのところに走り寄ってきた。

【イエスへの信仰が健康を与える】

12 これを見て、ペトロは答えた「イスラエルの人たち、なぜこの人のことで驚き怪しむのですか? どうして、私たちが自分の力や信心によってこの人を歩かせたかのように、私たちを見つめているのですか?」
13 アブラハム・イサク・ヤコブの神、私たちの父祖たちの神は、ご自分の召使いイエスに栄光を与えられました。しかし、あなたたちは彼を引き渡し、ピラトが釈放しようと決めていたのに、その前で彼を否認しました。
14 そして、聖なる正しい方を否認して、人殺しのバラバを許すように求め、
15 命の君主を殺しました。しかし、神は彼を死んだ者たちの中から蘇らせました。私たちは、そのことの証人です。
16 その方の名に対する信仰によって、あなたたちが見知っているこの人を強くしたのです。そうです。彼を通しての信仰が、あなたたちすべての前でこの人に完全な健康を与えたのです。

17 「さて、兄弟たち。あなたたちが無知のためにしたことであり、あなたたちの支配者たちも同様だったことを、私は知っています。
18 しかし神は、すべての預言者たちの口によって予告されていた事柄、すなわち、キリストが苦しみを受けることを、このようにして果たされたのです。

【悔い改めて祝福を!】

19 「ですから、あなたたちの罪を塗り消していただくために、悔い改めなさい。主のみ前からさわやかにする時期が来て、
20 あなたたちのために前もって定められていたキリスト=イエスを遣わしていただけるようにするためです。
21 神が、昔から聖なる預言者たちの口によって語られたすべてのものの回復の時期まで、天はこの方を受け入れておかなければならないのです。
22 実際、モーセは父祖たちにこう言いました「主なる神は、あなたたちの兄弟たちの中から、私のような預言者をあなたたちのために起こされるだろう。あなたたちは、彼があなたたちに語るすべての事柄について、彼に聞き従わなければならない。
23 この預言者に聞き従わない魂はすべて、民の中から完全に滅ぼされるだろう」
24 サムエルを初めとする預言者たちも、後に続いて語った者たちも、やはりこの日々のことを告げました。
25 あなたたちはその預言者たちの子らであり、神がアブラハムに「あなたの子孫にあって、地上のすべての部族が祝福を受けるだろう」と言って、あなたたちの父祖たちと結ばれた、あの契約の子らです。

26 神は、ご自分の召使いイエスを、まずあなたたちのもとに遣わされました。彼が、あなたたちをおのおのの悪から立ち返らせて、あなたたちを祝福するためなのです」


第四章


【ペトロとヨハネが逮捕される】

01 弟子たちが民衆に話している間に、祭司たちや神殿の指揮官やサドカイ人たちが近寄って来た。
02 彼らが民を教え、イエスに起こった死んだ者たちからの復活を告げているので、いらだった。
03 そして、彼らに手をかけて、翌日まで拘留した。すでに夕方だったからである。
04 しかし、話を聞いた者の多くが信じ、男の数はおよそ五千人になった。

05 朝になると、人々の支配者・長老・律法学者たちが、エルサレムに招集された。
06 大祭司アンナ・カヤファ・ヨハネ・アレキサンドロ、そして大祭司の親族たちは、全員そこにいた。
07 二人を自分たちの真ん中に立たせて、尋ねた「あなたたちは何の権限によって、またどういう名によってこんなことをしたのか?」

【ペトロの弁明】

08 ペトロは、聖霊に満たされて言った「支配者およびイスラエルの長老の皆さん、
09 私たちが今日、足の不自由な人に対する善い行ないと、何によってこの人が癒されたかということの取り調べを受けているのであれば、
10 あなたたち全員もイスラエルの民すべても、このことを知ってください。あなたたちが十字架につけ、神が死んだ者たちの中から起こされたナザレのイエス=キリストの名において、この人は皆さんの前に立っているのです。
11 この人こそ「あなたたち建てる者たちによって取るに足りないものとみなされたが、隅の親石になった石」なのです。
12 他の誰にも、救いはありません。人々の間に与えられ、私たちがそれによって救われるべき名は、他にはないからです!」

13 ペトロとヨハネの大胆な態度を見て、それが教養のない無学な人であることを知り、彼らは驚き怪しんだ。彼らは、二人がイエスとともにいたことに気づいた。
14 癒された人が、彼らとともに立っているのを見て、何も言い返せなかった。
15 そこで、二人に議会の外に出るよう命じて、互いに協議して言った。
16 「我々は、あの者たちをどうすればよいだろうか。彼らによって目覚ましい奇跡が、エルサレムに住むすべての人に、はっきりと見える仕方でなされたのは確かだ。我々には、それを否定できないからだ。
17 しかし、このことが民の間に広まることのないように、今後は誰にも語ってはならないと、彼らを脅しておくことにしよう」
18 そこで、二人を呼び入れて、イエスの名においては一切語ったり教えたりしないようにと命じた。

【ペトロとヨハネが釈放される】

19 ペトロとヨハネは、彼らに答えた「神よりもあなたたちに聞き従うほうが、神のみ前において正しいことなのかどうか、皆さん自身で判断してください。
20 私たちとしては、自分たちが見聞きした事柄について告げるのをやめるわけにはいきません」

21 彼らは、二人をさらに脅しつけた上で釈放した。二人を罰する方法が見つからなかったからであり、民のためでもあった。起きたことのために、皆が神の栄光を讃えていたからである。
22 癒しの奇跡を足に受けた人は、四十歳を過ぎていたのである。

【二人の釈放に弟子たちが感謝をする】

23 二人は、釈放されると自分たちの仲間のところ戻り、祭司長たちや長老たちが言ったことをすべて報告した。
24 彼らはこれを聞くと、心を合わせて神に声を上げ、こう言った「主よ、あなたは神、天と地と海とそれらの中にあるすべてのものを造られた方であり、
25 ご自分の召使い、ダビデの口によってこう言われた方です。「なぜ諸国民は憤激し、もろもろの民はむなしいことを企てるのか。
26 地の王たちは立ち構え、支配者たちはともに集まって、主に逆らい、そのキリストに逆らった」

27 この都でも、ヘロデとポンティウス=ピラトは、あなたの聖なる使いイエスに逆らって、異邦人たちやイスラエルの民とともに集まり、
28 あなたのみ手とお考えとによって、起こることがあらかじめ定められていたことを行なったのです。

29 主よ、今、彼らの脅しをご覧になり、あなたの召使いたちがあらん限りの大胆さをもってあなたの言葉を語ることができるようにしてください。
30 み手を伸ばして癒しを行なわせ、あなたの聖なる使いイエスの名によって、徴(しるし)や不思議な業(わざ)を行なわせてください」

31 祈り終えると、彼らの集まっていた場所が揺れ動いた。皆は聖霊に満たされて、大胆さをもって神の言葉を語った。

【最初の弟子たちの集団と団結】

32 信じた者たちの集団は、心と魂が一つだった。彼らのうちの誰も、所有物を自分のものだと主張することもなく、すべての物を共有していた。
33 使徒たちは大きな力をもって、主イエスの復活について人々に証言した。大きな恵みが、彼らの上にあった。
34 彼らの中には、欠乏している者は一人もいなかった。土地や家を持っている者は、それらを売って代金を持って来て、
35 使徒たちの足もとに置き、それらは必要に応じて一人一人に分配されたからである。

36 ヨセフは、使徒たちからバルナバという異名を与えられていた。キプロスの生まれのレビ人であり「慰めの子」という意味である。
37 畑を持っていたのでそれを売り、その代金を持って来て使徒たちの足もとに置いた。


第五章


【アナニアとサフィラの横領】

01 アナニアという人が、妻サフィラとともに資産を売り、
02 その代金の一部を隠した。それについては、妻も気づいていた。彼は、一部分だけを持って来て、使徒たちの足もとに置いた。
03 ペトロは、言った「アナニアよ、聖霊を欺いて土地の代金の一部を隠すほど、どうしてサタンがあなたの心を満たしたのか?
04 売らなければ、あなたのものだったのではないか。売ってしまっても、代金はあなたの自由になったのではないか。どうして、こんなことを心の中で企てたのか。あなたは、神を欺いたのだ」

05 アナニアはこの言葉を聞くと、倒れて死んだ。このことを聞いたすべての者に、大きな恐れが臨んだ。
06 若者たちが立って、彼を包み、運び出して葬った。

07 三時間ほどしてから、彼の妻が知らずに入って来た。
08 ペトロは、彼女に言った「私に告げなさい。あなたたちは土地をこれだけの値段で売ったのか?」 彼女は、言った「そうです、それだけの値段です」

09 そこで、ペトロは彼女に尋ねた「どうしてあなたたちは、主の霊を試みたのか。あなたの夫を葬った人たちの足が、戸口のところにあり、あなたも運び出すだろう」
10 彼女は、倒れて死んだ。若者たちは入って来て、彼女が死んでいるのを見た。そこで、彼女を運び出して、その夫のそばに葬った。
11 このことを聞いたすべての者の上に、大きな恐れが臨んだ。

【使徒たちの不思議な治療】

12 使徒たちの手によって、多くの不思議な業が民の間で行なわれた。皆は心を合わせて、ソロモンの回廊にいた。
13 他の者たちは、誰も加わる勇気がなかったが、民は彼らを尊敬していた。
14 信じる者たち、すなわち大勢の男女が主のもとに加えられていった。

15 人々は病気の者たちを大通りに運び出し、寝台や寝床の上に横たえた。そして、ペトロが通るときに、せめて彼の影がそのうちの誰かにかかるようにした。
16 エルサレムの周囲の町々からも、群衆が集まって来た。病気の者たちや汚れた霊に苦しめられている者たちを連れて来たが、彼らはすべて癒された。

【使徒たちの二度目の逮捕】

17 大祭司の回りにいた者たち全員、つまりサドカイ派は立ち上がり、妬みに満たされて、
18 使徒たちに手をかけ、彼らを公共の牢屋に入れた。
19 しかし、天使が夜に牢屋の戸を開け、彼らを連れ出して言った。
20 「行きなさい。そして、神殿で立ち、この命の言葉をすべて民に語りなさい」

21 彼らはこれを聞くと、夜明けごろ神殿に入って教え始めた。一方、大祭司と回りにいた者たちがやって来て、衆議会員、またイスラエルの子らの長老会議全体を招集し、彼らを連れて来させるために牢屋に人を遣わした。
22 しかし、出かけて行った役人たちは、牢屋の中に彼らがいなかったので、戻って来て報告した。
23 「私たちは、牢屋が閉まっていて、鍵がかけられており、それぞれの戸口の前には番人が立っているのを見ました。ところが開けてみると、中には誰もいなかったのです!」

24 そこで、大祭司・神殿の指揮官・祭司長たちは、それを聞いて、いったいどんなことになるのかと途方に暮れた。
25 ある人が来て、告げた「ご覧なさい。あなたたちが牢屋に入れた人たちは、神殿にいて民を教えています」
26 そこで、指揮官は役人たちと一緒に行って、彼らを連れて来た。しかし、手荒なことはしなかった。民に石打ちにされるのを恐れていたからである。

【大祭司の尋問】

27 彼らを連れて来て、衆議会員の前に立たせた。大祭司が、彼らを尋問した。
28 「我々は、この名において教えないようにと、お前たちに厳しく命じておいたではないか。見よ、お前たちはエルサレムをお前たちの教えで満たしてしまい、しかも、あの男の血を我々に負わせようと企んでいる」

29 それに対して、ペトロと使徒たちは答えた「私たちは、人間より神に従わなければなりません。
30 私たちの父祖たちの神は、あなたたちが木に掛けて殺したイエスを生き返らせました。
31 神はこの人を、イスラエルに悔い改めと罪の許しとを与えるために、君主また救い主としてご自分の右に高めました。
32 私たちはその事に関して、この人の証人です。神が、ご自分に従う人たちに与えた聖霊も、またそうです」

33 これを聞くと、大祭司らは心を刺され、彼らを殺そうと決心した。

【ガマリエルの意見によって使徒たちを釈放する】

34 ガマリエルというパリサイ人で、民から尊敬されていた律法の教師がいた。彼は、衆議会員の中で立ち上がり、使徒たちをしばらく外に出すよう命じた。
35 そして、人々に言った「イスラエルの皆さん、あの者たちについては、自分たちが何をしようとしているのかに注意をしなさい。
36 というのは、以前にテウダスが立ち上がり、自分を何者かのように見せかけて、多数の男たち、およそ四千人が仲間に加わりました。しかし、彼は殺され、従った者たちもみな散らされて、失敗に終わったからです。
37 その男の後で、ガリラヤのユダが登録のころに立ち上がり、かなりの民を離反させて自分の側に付けました。しかし、彼も滅び、従っていた者たちもみな追い散らされました。
38 あなたたちに告げますが、あの者たちから手を引き、彼らをそのままにしなさい。この企てが、人から出たものであれば、それは覆されるからです。
39 しかし、もしも神から出たものであれば、それを覆すことはできないばかりか、神に対して闘うことになってしまうでしょう」

40 彼らは、ガマリエルに同意した。使徒たちを呼び入れて、むち打ち、イエスの名において語らないよう命じてから、釈放をした。
41 使徒たちは、イエスの名のために辱めを受けたことを喜びつつ、衆議会員の面前から立ち去った。
42 そして毎日、神殿や家で教えたり、イエスすなわちキリストについて宣教することを決してやめなかった。


第六章


【助祭システムを作る】

01 弟子たちの数は、増えていった。そんなとき、ヘレニストたちからヘブライ人たちに対して苦情が起こった。彼らの寡婦(やもめ)たちが、日々の配給でないがしろにされていたからである。
02 十二人は、弟子たちを呼び集めて言った「私たちが神の言葉を放っておいて、食卓のために仕えるのはふさわしくありません。
03 ですから、兄弟たち、あなたたちの中から、聖霊と知恵とに満ちた評判の良い人を七人選び出しなさい。彼らに、この仕事を任せましょう。
04 そして私たちは、祈りと言葉の奉仕とに従事することにします」

05 これは、全員の賛成を得た。彼らは、信仰と聖霊とに満ちた人ステファノ・フィリポ・プロコルス・ニカノル・ティモン・パルメナ・アンティオキアの改宗者ニコラウスを選び出して、
06 使徒たちの前に立たせた。使徒たちは、祈って彼らの上に手を置いた。

07 神の言葉は広まり、弟子たちの数もエルサレムにおいて非常に増えた。大勢の祭司たちが、この信仰に従っていた。

【ステファノの逮捕】

08 ステファノは信仰と力に満ち、すばらしい不思議な業(わざ)や徴(しるし)を行なっていた。
09 しかし、リベルティンと呼ばれる会堂に属する人々、およびキュレネ人・アレクサンドリア人・キリキアやアジア出身の人々のうちのある者たちが立ち上がり、ステファノと議論をした。
10 彼らは、ステファノに語らせている知恵と霊には、対抗ができなかった。

11 そこで、秘かに人々をそそのかして「私たちは、彼がモーセと神に対して冒涜(ぼうとく)の言葉を吐くのを聞いた」と言わせた。
12 民・長老・律法学者たちを扇動し、彼を襲って捕らえた。そして、衆議会員に引いて行き、
13 偽りの証人たちを立てて、言わせた「この男は、この聖なる場所と律法に対して、冒涜の言葉を吐いて、どうしてもやめません。
14 というのも、私たちは彼が、あのナザレのイエスはこの場所を壊し、モーセが私たちに伝えた慣習を変えるだろう、と言うのを聞いたのです」
15 衆議会員に座っていた者たちは、ステファノを見つめたが、その顔は天使のように輝いて見えた。


第七章


【ステファノの弁明1=はじめ】

01 大祭司が、言った「これらのことは、そのとおりなのか?」

02 ステファノは、言った「兄弟たち、また父たちよ。聞いてください。私たちの父祖アブラハムがハランに住む前、まだメソポタミアにいたときに、栄光の神が彼に現われて、
03 言いました『あなたの土地、またあなたの親族から出て、私があなたに示す土地に行きなさい』
04 それで、アブラハムはカルデア人の土地から出て、ハランに住みました。彼の父が死んだのち、神はそこから、あなたたちが今住んでいるこの土地へ、彼を移しました。
05 ここでは何の相続財産も、足の踏み場となるほどのものさえも、神は与えませんでした。 そのときには、彼にはまだ子供がいなかったので、ここを所有物として彼の子孫に与えると約束しました。
06 神は、語りました『彼の子孫は、見知らぬ土地で異国人として住み、四百年のあいだ奴隷にされ、虐待されるだろう』と。
07 『彼らを奴隷にする民族を、私は裁くだろう』とも、続けて『そしてその後、彼らはそこを出て、この場所で私に仕えるだろう』と神は言いました」

【ステファノの弁明2=割礼の契約とヨセフの時代】

:08 「神は、アブラハムに割礼の契約を与えました。こうして、アブラハムはイサクの父となり、八日目にイサクには割礼を施しました。イサクはヤコブの父となり、ヤコブは十二人の族長たちの父となりました。

09 この族長たちは、ヨセフに対する妬(ねた)みに動かされ、彼をエジプトに売りました。しかし神は、ヨセフとともにいて、
10 あらゆる苦難から彼を救い出し、エジプト王ファラオの前で、彼に好意と知恵を与えました。ファラオは彼に、副王としてエジプト全体を治めさせたのです。
11 さて、エジプトとカナンの全土に飢饉(ききん)が起こり、大きな苦難が臨みました。そして、ハランにいる私たちの父祖たちは、食物を見つけることができなくなりました。
12 ヤコブは、エジプトに穀物があると聞き、私たちの父祖たちを遣わしました。

13 二度目のとき、ヨセフのことがその兄弟たちに知らされ、ヨセフの一族のことがファラオに明かされました。
14 ヨセフは人を遣わして、父ヤコブ・親族全体、すなわち七十五人を呼び寄せました。
15 ヤコブはエジプトに行き、やがて彼自身も私たちの父祖たちも死にました。
16 彼らはシェケムに持ち帰られ、アブラハムが銀を支払ってハモルの子らから買っておいた墓に横たえられました」

【ステファノの弁明3=モーセの成長】

17 「一方、神がアブラハムに誓った約束のときが近づくにつれ、民はエジプトで殖え広がってゆき、
18 ついに、ヨセフのことを知らない別の王が現われました。
19 この王は、私たちの同族に対して悪意をもって、私たちの父祖たちを虐げました。そして、無理やりにその赤子たちを捨てさせ、生かしておけなくしました。
20 そうしたときに、モーセが生まれたのです。非常に美しい子で、三か月の間、自分の父の家で養われました。
21 川に捨てられたとき、ファラオの娘が拾い上げ、自分の子として育てました。
22 モーセは、エジプト人のあらゆる知恵を教え込まれました。そして、言葉にも業にも強力な者になりました。

23 モーセが四十歳になったとき、自分の兄弟たちを訪ねようという気持ちが、その心に起こったのです。
24 行って、彼らのうちの一人が不当に苦しめられているのを見ました。そのエジプト人を打ち殺し、虐げられていた人のために仇(あだ)を討ちました。
25 モーセ自身は、神が兄弟たちを救出しようとしていることをわかってくれると思っていたのです。しかし、彼らは理解できませんでした」

【ステファノの弁明4=モーセはミディアンに逃げる】

26 「次の日、モーセは喧嘩をしている人たちのところに行き、仲直りさせようとして『君たちは、兄弟同士ではないか。なぜ互いに傷つけ合うのか』と言いました。
27 すると、隣人を傷つけていた者が言いました『誰が、お前を支配者や裁判官として、我々の上に立てたのか?
28 昨日エジプト人を殺したように、私を殺そうというのか?』
29 この言葉を聞いてモーセは逃げ、ミディアンの地で居留者となり、二人の子の父となったのです。

30 四十年が満ちたとき、シナイ山の荒野において、燃える茂みの炎の中で、天使が彼に現われました。
31 モーセはその光景を見て、不思議に思いました。よく見ようとして近づくと、主の声がしたのです。
32 『私はあなたの父祖たちの神、すなわち、アブラハム・イサク・ヤコブの神』 モーセはおののいて、もはや見ようとはしませんでした。
33 主は、言いました『あなたの足のサンダルを脱ぎなさい。あなたが立っている場所は聖なる地だ」
34 私は、エジプトにいる私の民の苦難をしっかりと見た。また、彼らの呻(うめ)きを聞いた。だから、彼らを救い出すために下って来た。さあ、行きなさい。私は、あなたをエジプトに遣わそう』」

【ステファノの弁明5=モーセの登用】

35 「このモーセ、すなわち『誰が、お前を支配者や裁判官としたのか』と言って彼らが拒んだ人を、茂みの中で彼に現われた天使の手によって、神は支配者また救出者として遣わしたのです。
36 この人が、エジプトにおいても、紅海においても、また荒野での四十年間においても、不思議な業(わざ)と徴(しるし)を行ないながら、彼らを導き出したのです。
37 これこそ、イスラエルの子らに『私たちの神なる主は、私を起こされたように、あなたたちの兄弟たちの中から一人の預言者を起こすだろう』と言ったモーセなのです。

38 荒野での集会において、シナイ山で彼に語りかけた天使や私たちの父祖たちとともにいて、生ける託宣を受け、それを私たちに伝えた人なのです。
39 私たちの父祖たちは、彼に対して従順ではなく、かえって彼をはねのけ、心の中でエジプトに引き返し、
40 アロンに言いました『私たちの前を行く神々を造ってください。私たちをエジプトの地から導き出したモーセについては、彼がどうなったか分からないからです』
41 彼らは、そのころに金で子牛を造り、その偶像に犠牲をささげ、自分たちの手の業のうちで喜び合っていました。

42 神はそれに背を向け、彼らが天の軍勢に仕えるままにされました。預言者たちの書(しょ)に書(か)かれているとおりです『イスラエルの家よ、あなたたちは荒野にいた四十年の間に、屠(ほふ)られた獣と犠牲とを私にささげたことがあったか。
43 あなたたちが担ぎ上げたのは、モロクの幕屋、あなたたちの神レファンの星、崇拝するために自分で造った像だった。私は、あなたたちをバビロンのかなたに運び去るだろう』」

【ステファノの弁明6=神の預言者を迫害する民】

44 「私たちの父祖たちには、荒野に証明の幕屋がありました。それは、モーセに語った方が、彼の見たままの形に従って造るようにと命じたものでした。
45 私たちの父祖たちもこれを受け継いで、神が私たちの父祖たちの面前から追い払われた諸国民の所有地に入るとき、ヨシュアとともにそれを持ち込み、ダビデの日々に及びました。
46 ダビデは神のみ前で好意を受け、ヤコブの神のために住まいを設けたいと願いました。
47 しかし、ソロモンが神のために家を建てました。
48 いと高き方は、手で作った神殿の中には住みません。預言者が言っているとおりです。

49 『天は私の王座、地は私の足台。あなたたちは私のためにどんな家を建てるのか』と、主は言う。また『あるいは、私の休む場所とはどこか。
50 これらのすべてのものは、私の手が造ったものではないか』

51 強情で、心にも耳にも割礼を受けていない人たちよ。あなたたちはいつも聖霊に抵抗しています! 父祖たちが行なったとおりに、あなたたちも行なっているのです。
52 預言者たちの中で、あなたたちの父祖たちが迫害をしなかった人がいるでしょうか。彼らは、義なる方の到来を予告した人たちを殺し、あなたたちは今や、その方を裏切る者、また殺す者となりました。
53 あなたたちは、天使たちの定めた律法を受けたのに、それを守らなかったのです!」

【ステファノの殉教】

54 これを聞くと、人々は心を刺され、ステファノに向かって歯ぎしりをした。
55 しかし、彼は聖霊に満たされ、天をじっと見つめ、神の栄光と神の右に立っているイエスを見て、
56 こう言った「ご覧なさい。私には、天が開けて、人の子が神の右に立っておられるのが見えます!」

57 すると、人々は大声で叫んで、耳をふさぎ、彼に向かっていっせいに突進した。
:58 そして、彼を町の外に投げ出して、石打ちにした。証人たちは、自分の外衣をサウロという名の若者の足もとに置いた。
59 彼らがステファノを石打ちにしている間、ステファノは叫んで言った「主イエスよ、私の霊をお受けください!」
60 ひざまずいて、大声で叫んだ「主よ、この罪を彼らに負わせないでください!」 こう言ってから、眠りについた。


第八章


【集会に対する迫害、そして離散】

01 サウロは、ステファノの死刑に同意していた。その日、エルサレムにあった集会に対して、激しい迫害が起こった。使徒たちの他は皆、ユダヤとサマリアの地方全域に散らされていった。
02 敬虔な人々はステファノを葬り、彼のために大いに嘆いた。
03 一方、サウロは集会を荒らそうとして、すべての家に押し入り、男も女も引きずり出しては牢屋に引き渡した。
04 各地に散った人たちは、宣教をしながら巡回した。

【フィリポの布教】

05 フィリポは、サマリアの町に向かって行き、人々にキリストを説いた。
06 群衆は、フィリポが行なった徴(しるし)を見聞きすると、彼の語る事柄に心を合わせて従った。
07 汚れた霊が取り付いていた者から、それらが大声で叫びながら出て来た。体が麻痺をした人や、足の不自由な人が大勢癒された。
08 その町には、大きな喜びが起こった。

【フィリポと魔術を使うシモン】

09 シモンという人がいた。以前から魔術を行なって、サマリアの人々を驚かせ、自分を何か偉い者のように見せかけていた。
10 庶民から有力者まで、誰もが彼に聞き従い「この人は、神の偉大な力だ」と言っていた。
11 人々が彼に聞き従ったのは、彼が長い間、その魔術によって人々を驚かせたためである。
12 人々は、神の王国とイエス=キリストの名について宣教をするフィリポを信じたとき、男も女も洗礼を受けた。
13 シモン自身も洗礼を受けた。彼は洗礼を受けると、いつもフィリポのそばにいた。そして、大きな奇跡が起きるのを見て驚いた。

14 エルサレムにいた使徒たちは、サマリアが神の言葉を受け入れたと聞くと、ペトロとヨハネを彼らのもとに遣わした。
15 二人は行って、彼らが聖霊を受けるようにと祈った。
16 聖霊がまだ、彼らの中の誰にも下っていなかったからである。彼らは、ただキリスト=イエスの名において洗礼を受けただけであった。
17 それで、二人が彼らの上に手を置くと、彼らは聖霊を受けた。

【聖霊を買おうとしたシモン】

18 シモンは、使徒たちが手を置くことによって聖霊が与えられるのを見ると、二人にお金を差し出して言った。
19 「私に、この力を売って下さい。そして、誰でも私が手を置く人が、聖霊を受けられるようにしてください」
20 ペトロは、彼に言った「あなたの銀は、あなたとともに滅びてしまうがよい。あなたは、神の贈り物を金(かね)で得られると考えたからだ!
21 あなたはこのことに、受け分も分け前も持っていない。あなたの心が、神の前に正しくないからだ。
22 この悪事を悔い改め、神に請い求めなさい。そうすれば、心の思いが許されることになるかも知れない。
23 あなたが苦い胆汁と罪の束縛との中にいるのが、私には見える」

24 シモンは答えた「皆さん、私のために主に祈ってください。あなたたちの言われたことが、私に起こらないようにするために」
25 このように、ペトロとヨハネは主の言葉を証言してからエルサレムに引き返し、サマリア人の多くの村に福音を宣教した。

【エチオピアの宦官】

26 天使が、フィリポに語りかけて言った「立って、南の方へ行き、エルサレムからガザに下る砂漠の道に出なさい」
27 彼は立って、出かけた。すると、一人のエチオピア人がいた。エチオピア人の女王カンダケのもとで大きな権力を持つ宦官で、彼女の全財宝を管理していたが、礼拝のためにエルサレムに来ていた。
28 その帰りに、自分の戦車の中に座り、預言者イザヤの書を読んでいた。

29 霊が、フィリポに言った「近寄って、あの戦車と一緒に行きなさい」
30 フィリポは走り寄り、彼が預言者イザヤを朗読しているのを聞いて、こう言った「読んでいることが、分かりますか?」
31 宦官は、言った「誰かが説明をしてくれなければ、どうして分かるでしょうか?」 そして、戦車に乗って一緒に座ってくれるようにフィリポに頼んだ。

32 朗読をしていた箇所は「彼は羊のように屠り場に引かれて行った。毛を刈る者の前で、黙っている子羊のように、その口を開かない。
33 辱めを受け、その裁きは取り去られた。誰がその子孫のことを語るだろうか。その命は地から取り去られるからだ」

34 宦官は、フィリポに言った「この預言者は、誰について語っているのでしょうか? 自分自身についてですか。それとも他の人についてですか?」
35 フィリポは、この聖句から始めて、彼にイエスのことを宣教した。

【宦官の洗礼】

36 彼らが進んで行くと、水のある所に来た。そこで宦官は言った「ご覧ください、ここに水があります。私が洗礼を受けるのに何の妨げがあるでしょうか?」
37 ……
38 彼は、戦車に止まるよう命じた。そして、フィリポと宦官は水の中に下りて行き、フィリポは彼に洗礼を施した。

39 二人が水から上がると、主の霊がフィリポを連れ去ったので、宦官はもはや彼を見なかった。しかし、喜びながら自分の道を進んで行った。
40 フィリポは、アゾトスに現われた。すべての町々を通り抜けながら、福音を宣教し、ついにカイザリアに着いた。


第九章


【サウロの改心】

01 サウロは、主の弟子たちに対する脅迫と虐殺の息をはずませて、大祭司のもとに行った。
02 そして、ダマスコ諸会堂あての手紙を求めた。この道に属する者を見つけたなら、男も女も縛り上げて、エルサレムに引いて来るためである。
03 旅をしてダマスコに近づいたとき、突然、天からの光が彼の周りを照らした。
04 彼は地に倒れ「サウロ、サウロ、なぜ私を迫害するのか」と言う声を聞いた。

05 サウロは、言った「主よ、あなたはどなたですか?」 主は、言った「私はイエス、あなたが迫害している者だ。
06 立ち上がって、町に入りなさい。そうすれば、あなたのなすべきことが告げられるだろう」

07 彼と一緒に旅をしていた人々は、黙ったまま立っていた。声は聞こえたが、何も見えなかったからである。
08 サウロは、地面から起き上がった。しかし、目を開いても見えなかった。そこで、人々は彼の手を引いてダマスコに連れて行った。
09 彼は三日間、目が見えず、食べることも飲むこともしなかった。

【サウロの洗礼】

10 ダマスコには、アナニアという弟子がいた。主は、幻の中で彼に言った「アナニアよ!」 アナニアは、言った「主よ、私はここにいます」
11 主は、彼に言った「立って『まっすぐ』と呼ばれる通りへ行き、ユダの家で、サウロという名のタルソ人を探しなさい。彼は祈っている。

12 サウロは、その幻の中でアナニアという人が入って来て、視力を取り戻させるため、自分の上に手を置くのを見た。

13 しかし、アナニアは答えた「主よ、私はこの男について、彼がエルサレムで聖徒たちにどれほど悪いことをしたか、大勢の人から聞いています。
14 しかもここでは、あなたのみ名を呼び求める者をすべて縛り上げる権限を、祭司長たちから得ているのです」

15 主は、彼に言った「行きなさい。彼は、諸国民や王たち、またイスラエルの子らの前で、私の名を担うために私が選んだ器なのだ。
16 彼が、私の名のために、どれほど多くの苦しみを受けなければならないかを示そう」

17 アナニアは出かけて行って、その家に入った。彼の上に手を置いて、言った「兄弟サウロよ、道中であなたに現われた主が、私を遣わされました。あなたが視力を取り戻し、聖霊で満たされるためです」
:18 すると、彼の両目から鱗(うろこ)のような物が落ち、彼は視力を取り戻した。彼は起き上がって、洗礼を受けた。
19 食事をとって元気づいたサウロは、数日間、ダマスコにいる弟子たちとともに過ごした。

【サウロがダマスコで説教する】

20 サウロは、諸会堂でキリストのことを神の子であると告げた。
21 これを聞いた人々は、皆びっくりして言った「これは、エルサレムでこの名を呼び求める者たちを荒らしまわった者ではないか? そして、ここに来たのも、彼らを縛り上げて、祭司長たちの前に引いて行くためではなかったのか!」

22 しかし、サウロはますます力を増してゆき、イエスがキリストであることを論証して、ダマスコに住んでいるユダヤ人たちをうろたえさせた。

23 何日か過ぎて、ユダヤ人たちは彼を殺そうと陰謀を企てた。
24 彼らの陰謀をサウロは知った。彼らはサウロを殺そうとして、昼も夜も門という門を見張っていた。
25 そこで、彼の弟子たちは夜の間に彼を連れ出し、かごに乗せて城壁から吊り降ろした。

【エルサレムでのサウロ】

26 サウロはエルサレムに来ると、弟子たちに加わろうと努めた。しかし、誰も彼が弟子であるとは信じられないので恐れていた。
27 ただ一人、バルナバは彼を受け入れた。そして、サウロを使徒たちのもとに連れて行った。彼が道中で主を見た様子や、主が彼に語りかけたこと、ダマスコでイエスの名において大胆に宣教した様子を話して聞かせた。
28 サウロは、彼らとともにエルサレムに入った。
29 そして、主の名において大胆に宣教していた。彼はヘレニストたちと語り合い、議論をしたが、彼らはサウロを殺したがっていた。
30 兄弟たちはそれを知り、彼をカイザリアに連れて行き、タルソに送り出した。

【リダにおいてペトロが奇跡を行う】

31 教会は、ユダヤ・ガリラヤ・サマリアの全地に平和を保ち、築き上げられていった。彼らは、主への恐れと聖霊の慰めとのうちに歩んでいった。

32 ペトロは、地方を巡っていたときに、リダの聖徒たちのところにも行った。
33 その場所で、体が麻痺していたために八年間も寝たきりのアイネアという人を見つけた。
34 ペトロは、言った「アイネアよ、イエス=キリストがあなたを癒します。起きて、自分の寝床を整えなさい!」 すぐに、彼は起き上がった。
35 リダとシャロンに住むすべての人たちは、彼を見て主を信じるようになった。

【ヨッパの婦人タビタの蘇(よみがえ)り】

36 ヨッパに、タビタという名の弟子がいた。この名をギリシア語では、ドルカスと言った。この婦人は、多くの善い業やあわれみの行為を施していた。
37 しかし、彼女は病気になって死んだ。人々は彼女を洗い、階上の部屋に横たえた。
38 弟子たちは、ペトロがリダにいると聞き、そこはヨッパに近かったので、二人の者を彼のもとに遣わした。そして、急いで来てくれるように嘆願をした。
39 ペトロは、彼らとともに出かけた。そこに着くと、人々は彼を階上の部屋に連れて行った。寡婦(やもめ)たちは彼のそばにやって来て、泣きながら自分たちとドルカスが作った上着や外衣を見せた。

40 ペトロは皆を外に出し、ひざまずいて祈った。遺体に向き直って、言った「タビタ、起きなさい!」 彼女は目を開き、ペトロを見ると起き直った。
41 彼は、手を貸して彼女を起き上がらせた。聖徒たちと寡婦たちを呼んで、彼女が生きているのを見せた。
42 すると、このことがヨッパじゅうに知れ渡り、多くの者が主を信じた。
43 ペトロは、かなりの日数をヨッパで過ごし、シモンという革なめし職人のところにいた。


第十章


【コルネリオという人について】

01 カイザリアに、コルネリオという人がいた。「イタリア連隊」と呼ばれる部隊の百人隊長であった。
02 敬虔な人であり、家族全員で神を恐れていた。民に気前よく施しをして、いつも神に祈っていた。
03 ある日の午後三時ごろ、天使が彼のもとに来て「コルネリオ!」と言うのを、幻の中ではっきりと見た。

04 天使をじっと見つめて、おびえながら言った「主よ、なにごとでしょうか?」 天使は、彼に言った「あなたの数々の祈りや施しは、神のみ前に上って、記憶されている。
05 さあ、ヨッパに人を遣わして、またの名をペトロというシモンを招きなさい。
06 彼は、海辺に家がある革なめし職人のシモンのところにいる」

07 こう語って天使が立ち去ると、コルネリオは自分の家の召使い二人と、いつも自分に仕えている敬虔な兵士一人を呼んだ。
08 そして、すべてのことを説明して、彼らをヨッパに遣わした。

【ペトロの見た昼の夢】

09 翌日の正午ごろ、彼らが旅を続けてその町に近づいたときに、ペトロは祈るために屋上に上っていた。
10 ペトロは空腹になり、何か食べたいと思った。人々が昼食の準備をしている間に、我を忘れた状態に陥った。
11 そして天が開け、大きな布のような入れ物が四隅で地の上につり降ろされて、自分のところに下って来るのを目にした。
:12 その中には、あらゆる種類の地上の四つ足の獣、野獣、爬虫類、空の鳥などがいた。
13 彼に向かって声がした「立ちなさい、ペトロよ、屠(ほふ)って食べなさい!」

14 しかし、ペトロは言った「主よ、とんでもありません。下品なものや汚れたものなど、これまで一度も食べたことがないのです」

15 彼に向かって、二度目の声がした「神が清くしたものを、汚れたものと呼んではならない」
16 こうしたことが三度あってから、すぐにその器は天に迎え上げられた。

【コルネリオの遣いが来る】

17 さて、自分が見た幻はいったい何を意味するのだろうかと、ペトロが一人で途方に暮れていた。すると、コルネリオから遣わされた者たちが、シモンの家を探し当てて、門の前に立った。
18 そして、またの名をペトロというシモンが、ここに宿泊しているかどうかを尋ねた。
19 ペトロが幻について熟考していると、霊が彼に言った「見よ、三人の人々があなたを探しに来ている。
20 さあ、下に降り、何も疑わずに彼らとともに行きなさい。私が彼らを遣わしたからだ」

21 ペトロはその人々のところに降りて行って、言った「私が、あなたたちの探している者です。どんなわけで来たのですか?」

22 彼らは、言った「百人隊長コルネリオは、正しい人で神を恐れ、ユダヤ民族のすべてに良い評判のある人です。自分の家にあなたを招き、言われることに耳を傾けるようにと、聖なる天使から指示を受けたのです」
23 そこでペトロは、彼らを呼び入れて泊まらせた。次の日、ペトロは彼らとともに出かけて行き、ヨッパからの兄弟たち数人も彼に伴った。

【カイザリアでのペトロ】

24 その翌日、彼らはカイザリアに入った。コルネリオは、親族や親しい友人たちを呼び寄せて、彼らを待っていた。
25 ペトロが入って来ると、コルネリオは彼を出迎え、その足もとにひれ伏して、彼を拝んだ。
26 ペトロは、彼を引き起こして言った「立ちなさい! 私も人間です」
27 彼と話しながら入って来て、大勢の人が集まっているのを見た。
28 彼らに言った「ご存じのとおり、ユダヤ人が別の民族の人と一緒になったり、そこを訪問することは許されていません。しかし、神は私に、どんな人をも神聖でないとか汚れているなどと呼んではならないことを示しました。
29 ですから、私は呼ばれたとき、何も言わずにやって来たのです。そこで尋ねますが、あなたたちはどんなわけで私を呼んだのですか?」

30 コルネリオが言った「四日前、私はこの時刻まで断食をして、午後三時に家の中で祈っていました。すると、輝く衣を着た人が私の前に立ちました。
31 そして、言いました『コルネリオ、あなたの祈りは聞き入れられ、あなたの施しは神のみ前で覚えられた。
32 ヨッパに人を遣わして、またの名をペトロというシモンを呼び寄せなさい。彼は、海辺にある革なめし職人シモンの家に宿泊している。彼はやって来ると、あなたに語るだろう』
33 そのような次第で、すぐにあなたのもとに人を遣わしたのです。よくお出でくださいました。それで私たちは、神があなたにお命じになったすべてのことを聞こうとして、神のみ前に出ているのです」

【ペトロがイエスについて語る】

34 ペトロは言った「私には、よく分かります。神が依怙贔屓(えこひいき)をされることはなく、
35 どの民族でも、神を恐れて義を行なう人は、神に受け入れられるのだということが。
36 神がイエス=キリストによって−−この方こそすべての者の主です−−平和の良い便りを宣教して、イスラエルの子らにお送りになった言葉を、
37 あなたたちは知っています。つまり、ヨハネが宣教した洗礼ののちに、ガリラヤから始まってユダヤ全土に告げた出来事です。

38 それは、ナザレのイエスのことで、神がどのようにして聖霊と力をもって彼に油を注がれたかということです。彼は出かけて行って善いことを行ない、悪魔に虐げられていた人をすべて癒しました。神が共におられたからです。
39 私たちは、彼がユダヤ人の地域とエルサレムとで行なわれたすべての事柄の証人です。人々はまた、彼を木に掛けて殺しました。

40 神は、彼を三日目に生き返らせ、現わしてくださいました。
41 ただし、すべての民に対してではなく、前もって神に選ばれていた証人たち、つまり、彼が死んだ者たちの中から起こった後に、一緒に飲み食いした私たちに対してです。
42 彼は、私たちが民に宣教し、ご自分が生きている者たちと死んだ者たちとの裁き主として、神から任命された者だということを証言するように命じました。
43 預言者たちも、誰でも彼を信じる者はその名によって罪の許しを受けることになると証言しています」

【聖霊が下る】

44 ペトロが語っている間に、その言葉を聞いたすべての人たちの上に聖霊が下った。
45 割礼を受けている信者で、ペトロと一緒に来ていた人たちは、聖霊の贈り物が異邦人たちの上にも注がれたのでびっくりした。
46 なぜならば、彼らが異なる言語で語り、神をたたえているのを聞いたからである。それで、ペトロは答えた。

47 「この人たちは、私たちと同じように聖霊を受けたのですから、水を禁じて洗礼を受けさせないことなど、いったい誰にできるでしょうか?」
48 彼らに命じて、イエス=キリストの名において洗礼を受けさせた。それから、彼らはペトロに頼んで、数日のあいだ滞在してもらった。


第十一章


【ペトロはヨッパで見た夢のことを話す】

01 使徒たちやユダヤにいる兄弟たちは、異邦人たちも神の言葉を受け入れたことを聞いた。
02 ペトロがエルサレムに上って来たとき、割礼のある者たちは彼を詰(なじ)った。
03 「あなたは、割礼を受けていない人々のところに入って、彼らと一緒に食事をした!」

04 ペトロは、次のように順序正しく説明した。
05 「私がヨッパの町で祈っていると、我を忘れた状態になって、幻を見ました。大きな布のような入れ物が、四隅で天からつり降ろされて、私のところにまで下りて来ました。
06 目を凝らしてその中を見ると、地上の四つ足の獣、野獣、這(は)うもの、空の鳥などがいました。
07 声がして、私に言いました『立ちなさい、ペトロ。屠(ほふ)って食べなさい!』
08 しかし、私は言いました『主よ、とんでもありません。神聖でないものや汚れたものなど、これまで一度も食べたことがないのです』
09 すると、天から二度目に声が答えました『神が清くしたものを、汚れたものと呼んではならない』
10 こうしたことが三度あって、すべてのものは再び天に引き上げられました。

【異邦人に対する洗礼の説明】

11 ちょうどそのとき、カイザリアから私のところへ遣わされて来た三人の人々が、家の前に立ちました。
12 霊が私に、何も疑わずに彼らとともに行くように告げました。ここにいる六人の兄弟たちも私に付いて来て、私たちはその人の家に入りました。
13 その人は私たちに、天使が家の中に立っているのを見たこと、また、その天使がこう述べたことを話してくれました『ヨッパに人を遣わして、またの名をペトロというシモンを招きなさい。
14 彼は、あなたとあなたの家族全員を救う言葉をあなたに語るだろう』
15 私が話し始めると、聖霊が彼らの上に、最初に私たちの上に下ったのと同じようにして下ったのです。

16 私は、主が言った次の言葉を思い出しました『ヨハネは水で洗礼を施したが、あなたたちは聖霊によって洗礼を施される』
17 私たちが、イエス=キリストを信じたときいただいた贈り物を、神が彼らに与えたのであれば、どうして私のような者が神に逆らうことができたでしょうか?」

18 これらのことを聞くと、彼らは静かになった。そして、神の栄光を讃えて言った「神は、命に至る悔い改めを異邦人たちにも与えた!」

【バルナバがアンティオキアに行く】

19 ステファノのことで起こった圧迫のために散った人々は、フェニキア・キプロス・アンティオキアにまで旅をしたが、ユダヤ人以外には誰にも言葉を語らなかった。
20 その中には、キプロスやキュレネの者たちがいて、アンティオキアへ行き、ギリシャ人たちに語って、主イエスのことを宣教した。
21 主のみ手が彼らとともにあったので、信じて主に帰依した者たちが多数いた。

22 彼らに関する知らせが、エルサレムにあった集会の耳に入った。集会は、バルナバをアンティオキアにまで遣わした。
23 そこに到着して彼は、神の恵みを見ると喜んだ。そして、心の決意をもって主のそばにとどまるようにと、皆を励ました。
24 彼は善い人で、聖霊と信仰とに満ちていたからである。こうして、大勢の人々が主のもとに加えられた。

【アンティオキアではじめてクリスチャンと呼ばれる】

25 バルナバは、サウロを探しにタルソに出かけた。
:26 彼を見つけて、アンティオキアに連れて来た。二人はまる一年、集会に出席して、多くの人々を教えた。このアンティオキアで、弟子たちは初めてクリスチャンと呼ばれるようになった。

27 そのころ、預言者たちがエルサレムからアンティオキアに向かって来た。
28 彼らの中のアガボという者が立って、大飢饉が全世界に起こることを預言した。それは実際に、クラウディウスの時代に起こった。
29 そこで弟子たちは、それぞれの豊かさに応じて、ユダヤに住んでいる兄弟たちに救援物資を送ることに決めた。
30 それを実行し、バルナバとサウロの手によって長老たちに送り届けた。


第十二章


【ヘロデが教会の迫害を始める】

01 ヘロデ王は、集会の者たちを虐げることに手を伸ばした。
02 まず、ヨハネの兄弟ヤコブを剣で殺した。
03 それが、ユダヤ人たちの気に入ったのを知ると、ペトロも捕らえた。種なしパンの時期だった。
04 彼を牢屋に入れ、四人一組の兵士四組に引き渡して監視させた。過ぎ越しの後で、民の前に引き出すつもりだった。
05 ペトロは牢屋に入れられていたが、彼のために集会によって、休みなく祈りがささげられていた。

06 ヘロデが彼を引き出そうとしていた前夜、ペトロは二本の鎖につながれて、二人の兵士の間で眠っていた。番兵たちは戸口の前で、牢屋を見張っていた。

【天使がペトロを救い出す】

07 すると、天使が彼のそばに立ち、光が独房内を照らした。天使は、ペトロのわき腹をたたいて起こし「急いで立ち上がりなさい!」と言った。鎖が、彼の両手から落ちた。
08 天使は、彼に言った「服を着て、サンダルをはきなさい」 彼は、そのとおりにした。天使は、彼に言った「外衣を着て、私に付いて来なさい」
09 そこで彼は、その後に付いて行った。彼は、天使によってなされていることが現実のこととは分からず、幻を見ているものとばかり思っていた。
10 第一と第二の衛兵所を過ぎ、町に通じる鉄の門のところに来ると、門がひとりでに開いた。外に出て、一つの通りを進むと、すぐに天使は彼から離れた。

11 ペトロは、我に返って言った「今、確かに分かる。主は天使を遣わし、ヘロデとユダヤ人の陰謀から、私を救い出してくださったのだ」

12 そう判断すると、またの名をマルコというヨハネの母マリアの家に行った。そこでは、大勢の人が集まって、祈っていた。
13 門の戸を叩くと、ロダという名の女中が応対に出た。

【ペトロはヨハネの母の家に戻る】

14 ペトロの声だと分かると、彼女は喜びのあまり、門を開けずに中に駆け込み、ペトロが門の前に立っていると報告をした。
15 人々は、彼女に言った「あなたは、気が狂っている!」 しかし、彼女は本当だと言い張った。彼らは、言った「それは、彼の使いだ」
16 ペトロは、門を叩き続けていた。そこで、彼らが開けてみると、ペトロがいたので驚いた。
17 彼は、手で制して皆を静かにさせ、主が彼を牢屋から連れ出してくれた次第を話して聞かせた。彼は、言った「このことをヤコブと兄弟たちに知らせなさい」 それから立ち去って、他の所に出て行った。

18 夜が明けると、いったいペトロはどうなったのかと、兵士たちの間で少なからぬ騒ぎが起こった。
19 ヘロデは、彼を探しても見つからないので、番兵たちを取り調べ、彼らを殺すように命じた。そして、ヘロデはユダヤからカイザリアに行って、そこに滞在した。

【ヘロデが蛆に食われて死ぬ】

20 ヘロデは、ティロとシドンの民にひどく腹を立てていた。民はヘロデのところに来て、王の侍従官ブラスタスに取り入り、和解を求めた。彼らの地方は、王の国から食糧を得ていたからである。
21 定められた日に、ヘロデは王衣をまとって王座に着き、彼らに向かって演説をした。
22 民は、叫んで言った「神の声だ、人間の声ではない!」
23 すぐに、天使が彼を打った。神に栄光を帰さなかったからである。ヘロデは、蛆(うじ)に食われて死んだ。

24 神の言葉は、増し広がっていった。
25 バルナバとサウロは、奉仕の務めを果たしたのち、またの名をマルコというヨハネを連れて、エルサレムに帰った。


第十三章


【バルナバとサウロが選ばれる】

01 預言者や教師が、アンティオキアにある集会にはいた。バルナバ・ニゲルと呼ばれるシメオン・キュレネのルキウス・領主ヘロデの乳兄弟マナエン・サウロである。

02 彼らが、主に仕えて断食をしていると、聖霊が言った「私が授けた使命のために、バルナバとサウロを選びなさい」
03 彼ら全員は断食をして祈り、手を二人の上に置いてから、出発させた。

04 こうして、二人は聖霊によって送り出され、セレウキアに向かって行った。そしてそこから、キプロスに向けて出帆した。
05 サラミスに着くと、ユダヤ人の諸会堂で神の言葉を告げた。彼らは、助手としてヨハネも連れていた。

【パウロと呼ばれるサウロが魔術師を盲目にする】

06 島を巡回してパフォスまで行くと、魔術師がいた。ユダヤ人の偽預言者で、バル=イエスという名であった。
07 セルギウス=パウルスという物わかりの良い地方総督のもとにいた。地方総督は、バルナバとサウロを呼んで、神の言葉を聞こうとした。
08 ところが、その魔術師(エリマ)は彼らに抵抗し、地方総督をこの信仰から遠ざけようとした。

:09 しかし、パウロとも呼ばれていたサウロは、聖霊に満たされ、彼をじっと見つめて言った。
10 「ああ、あらゆる欺きと悪賢さに満ちた者、悪魔の子、あらゆる正義の敵よ。あなたは主の正しい道を曲げ続けるのか。
11 それなら、見よ、主のみ手があなたの上にある。あなたは目が見えなくなり、ときが来るまで日の光を見ないだろう!」 すぐに、霞と闇とがその上に臨み、彼は手を引いてくれる人を探した。
12 これを見た地方総督は、主の教えに心を打たれて信者になった。

【パウロはアンティオキアで説教をする】

13 パウロとその道連れは、パフォスから出航し、パンフィリアのペルガに来た。ヨハネは、彼らから離れてエルサレムに帰った。
14 彼らは、ペルガからさらに進んで、ピシディアのアンティオキアに来た。そして、安息日に会堂に入って、席に着いた。
15 律法と預言者たちの朗読の後で、会堂長たちが彼らに人を遣わして言った「兄弟たち、民のために何かお言葉がありましたら、話してください」

16 パウロは立ち上がり、手で合図をして言った「イスラエルの人たち、ならびに神を恐れる皆さん、聞いてください。
17 神は、私たちの父祖たちを選び出し、エジプトの地で異国人として滞在していた間に、高く上げたみ腕をもって彼らをそこから導き出しました。
18 そして、およそ四十年の期間にわたって、荒野で彼らを養いました。

19 カナンの地で七つの民族を滅ぼし、その地を相続財産として彼らに与えました。これが、およそ四百五十年間にわたりました。
20 その後、預言者サムエルの時代まで彼らに裁き人を与えました。
21 彼らが王を求めたので、四十年間、ベニヤミン族の人、キシュの子サウルを神は彼らに与えました。
22 サウルを退けてから、ダビデを立てて彼らの王とし、彼についてこうも証言しました『エッサイの子ダビデ、私の心にかなう者を見いだした。彼は私の望むことをすべて行なうだろう』
23 この人の子孫から、神は約束に従って、イスラエルに救いをもたらしたのです。

【イエスについて一連のことを言う】

24 その方が来る前に、まずヨハネがイスラエルに悔い改めの洗礼を宣教しました。
25 自分の道を終えようとするとき、ヨハネは言いました『あなたたちは、私を何者だと思っているのか。私は、その者ではない。その方は私の後に来るが、私はその方の足のサンダルのひもをほどくにも値しない』

26 兄弟たち、アブラハムの血統の子らである皆さん、そしてあなたたちの中で神を恐れる方たち、この救いの言葉はあなたたちに送られたのです。
27 エルサレムに住む人たちや支配者たちは、彼のことを知らず、また安息日ごとに朗読される預言者たちの言葉も知らずに、彼を罪に定めることによって、それらの言葉を実現しました。
28 死に値する理由を見い出せなかったのに、ピラトに願って彼を殺したのです。
29 彼について書かれている事柄をすべて実現させてから、彼を木から取り下ろして墓の中に横たえました。

【イエスの復活と詩篇の記述】

30 しかし、神は彼を死んだ者たちの中から起こしました。
31 彼は幾日にもわたって、彼とともにガリラヤからエルサレムに上って来た人たちに現われました。彼らは、民に対して彼の証人になっています。
32 私たちは、父祖たちになされた約束について、良い便りをあなたたちに伝えています。
33 神はイエスを生き返らせて、私たち子孫に対してその約束を果たしてくださったのです。詩編の第二編にも、こう書かれています『あなたは私の子。私は今日、あなたの父となった』

34 彼を死んだ者たちの中から起こされ、もう二度と腐敗することのない者とされたことについては、こう言っています『私は、ダビデに約束した確かな祝福を、あなたたちに与えるだろう』
35 詩編の他の箇所でも、こう言われています『あなたは、あなたの聖なる者が腐敗を見ることをお許しにならない』

36 ダビデは、自分の世代のうちで神のお考えに従って仕えた後、眠りに落ち、自分の父祖たちとともに横たえられ、腐敗を見ました。
37 しかし、神が生き返らせたこの方は、腐敗を見ることがなかったのです。

【異邦人の懇願】

38 兄弟たち、このことを知ってください。この方による罪の許しがあなたたちに告げています。
39 モーセの律法によっては義とされることのなかったことについても、信じる者はこの方によって義とされるのです。
40 ですから、預言者たちの中で語られているこのことが、あなたたちに臨まないよう用心していなさい。

41 『見よ、嘲る者たちよ、驚け、滅び去れ。私はあなたたちの時代に一つの業をなす。誰かが詳しく説明しても、あなたたちが決して信じることのない業を』」

42 ユダヤ人たちが会堂を出て行くと、異邦人たちは次の安息日にもこうした話をして欲しいと懇願した。
43 会堂が解散してから、大勢のユダヤ人たちと敬虔な改宗者たちがパウロとバルナバに従った。二人は彼らと語り合い、神の恵みのうちにとどまっているようにと勧めた。

【ユダヤ人の妬みと異邦人の喜び】

44 次の安息日には、ほとんど町全体が神の言葉を聞くために集まった。
45 しかし、ユダヤ人たちはこの群衆を見て妬(ねた)みに満たされ、パウロが語った事柄に反対して罵(ののし)った。

46 パウロとバルナバは、大胆に語った「神の言葉は、まずあなたたちに対して語られることが必要でした。ところが、あなたたちはそれを自分たちから押しのけ、自分自身を永遠の命に値しない者としているのですから、私たちは異邦人たちのほうに向きを転じます。
47 主は、私たちにこう命じられたからです『私は、あなたを異邦人たちの光とした。あなたが地の最も遠い所に至るまでも、救いをもたらすためだ』」

48 異邦人たちはこれを聞いて喜び、神の言葉の栄光を讃えた。永遠の命のために定められていた者たちは、みな信者になった。
49 主の言葉は、この地方全体に広まって行った。
50 ユダヤ人たちは、敬虔で有力な婦人たち、町の主立った人たちを扇動して、パウロとバルナバに対する迫害を起こした。そして、二人を自分たちの地方から追い出した。
51 二人は、彼らに対して足の塵を払い落とし、イコニオンに行った。
52 弟子たちは、喜びと聖霊とに満たされていた。


第十四章


【イコニオンでの布教と陰謀からの逃避】

01 イコニオンで、パウロとバルナバは、ユダヤ人の会堂に入って話をした。ユダヤ人とギリシャ人の大群衆が、信者になった。
02 ところが、信じようとしないユダヤ人たちは、異邦人たちの魂を扇動し、兄弟たちに対して悪意を抱かせた。
03 二人は長い間そこに滞在し、主にあって大胆に語った。主は、二人の手によって、徴と不思議な業とを行なわせ、その恵みの言葉を証明した。
04 しかし、町の群衆は分裂した。ある者はユダヤ人の側に、別の者は使徒たちの側に付いたのである。

05 異邦人たちとユダヤ人たちのある者たちが、彼らの支配者たちと一緒になって、二人を虐げて石打ちにしようという乱暴な企てを起こした。
06 それに気づいた二人は、リュカオニア・リストラ・デルベ、およびその周囲の地域に逃れた。
07 そして、そこでも福音を宣教した。

【リストラで足萎えを治し神殿で祀られそうになる】

:08 リストラに、足が虚弱な人がいた。生まれつき足が不自由で、一度も歩いたことがなかった。
09 彼は、パウロの話に耳を傾けていた。パウロは彼をじっと見つめて、彼に十分な信仰があるのを見た。
10 そこで、大声で言った「自分の足で、まっすぐ立ちなさい!」 彼は、躍り上がって歩き始めた。
11 群衆は、パウロの行なったことを見て、声を張り上げた。そして、リュカオニアの言語で言った「神々が人間の姿になって、我々のところへ下って来たのだ!」

12 彼らはバルナバを「ユピテル」、パウロを「メルクリウス」と呼んだ。パウロが、主な話し手だったからである。
13 町の前にあるユピテルの神殿の祭司が、数頭の雄牛と幾つかの花輪を持って来て、群衆と一緒になって犠牲をささげようとした。
14 バルナバとパウロは、このことを聞くと衣を引き裂いて、群衆の中に飛び込んで行き、叫んで言った。
15 「皆さん、どうしてこんなことをするのですか。私たちも、あなたたちと同じ感情を持つ人間です。そして、あなたたちがこうした無駄な事柄を離れて、生ける神に立ち返るようにと、あなたたちに良い便りをもたらしているのです。この方こそ、天と地と海、そしてその中にあるすべてのものを造られたのです。

【ユダヤ人に襲われデルベへ向かう】

16 神は、過ぎ去った世代においては、あらゆる民族が自分の道を歩むのを許しました。
17 しかし、ご自身についての証言がないままにしておいたわけではありません。善いことを行なって、あなたたちに天からの雨と実りの季節とを与え、食べ物と喜びとをもって私たちの心を満たしてくださったのです」
18 このように言って、二人は群衆が自分たちに犠牲をささげるのを何とかやめさせた。

19 ところが、アンティオキアとイコニオンから幾人かのユダヤ人がやって来て、群衆を説得して、パウロを石打ちにし、彼を死んだものと思って町の外に引きずり出した。
20 しかし、弟子たちが彼を取り囲むと、彼は立ち上がり、町の中に入った。次の日、彼はバルナバとともにデルベに向けて出発した。

【パウロたちの最初の旅行が終わる】

21 デルベで福音を宣教し、多くの弟子を作った。そして、パウロとバルナバはリストラ・イコニオン・アンティオキアへと引き返した。
22 弟子たちの魂を強め、信仰のうちに止まるように勧めた。::私たち、は多くの苦しみを経て、神の王国に入らなければならないとも言った。
23 集会ごとに長老たちを任命し、断食をもって祈り、彼らをその信じている主にゆだねた。

24 そして、ピシディアを通って、パンフィリアにやって来た。
25 さらに、ペルガで言葉を語ってから、アタリアに下った。
26 そこから、アンティオキアに向かって出航した。そこは二人が、この成し遂げた業のために、神の恵みにゆだねられて送り出された場所である。
27 到着して集会の人々を集め、二人は神が自分たちに行なったすべてのことと、神が異邦人たちに信仰の戸口を開いたことを報告した。
28 長い間、そこで弟子たちとともに過ごした。


第十五章


【割礼に関する議論】

01 ユダヤから来た人が、兄弟たちに「モーセの慣習に従って、割礼を受けない限り、あなたたちは救われない」と教えていた。
02 それで、パウロやバルナバと彼らとの間に、不和と議論が生じた。人々は、パウロとバルナバ、集会のうち幾人かがエルサレムに行き、この議論のことで使徒たちや長老たちに尋ねることにした。
03 彼らは、集会によって送り出され、フェニキアとサマリアを通って、異邦人たちの改宗の次第を詳しく説明して、すべての兄弟たちを大いに喜ばせた。

【エルサレムでの議論とペテロの結論】

04 エルサレムに着くと、集会・使徒・長老たちから迎えられ、神が自分たちとともに行なった事柄すべてを報告した。
05 ところが、信者となった幾人かのパリサイ派の者たちが、立ち上がって言った「彼らにも割礼を施して、モーセの律法を守るようにと命じる必要があります」

06 使徒・長老たちは、この問題について調べるために集まった。
07 多くの議論があった後で、ペトロが立ち上がって言った「兄弟たち、ご存じのとおり、ずっと以前に、神はあなたたちの間から私を選ばれ、異邦人たちが私の口から福音の言葉を聞いて信じるようにしました。
08 心を知っている神は、私たちにしたのと同じように、彼らに聖霊を与え、彼らについて証言したのです。
09 神は、私たちと彼らとの間に区別を設けず、彼らの心を信仰によって清めました。
10 それなのに、どうして今、私たちの父祖たちも私たちも負うことのできなかった軛(くびき)をあの弟子たちの首にかけて、神を試みるのですか。
11 それどころか、私たちは、彼らと同じく主イエスの恵みによって救われることを信じているのです」

【ヤコブの意見】

12 群衆は、静かになった。そして、バルナバとパウロが、神が彼らを通して異邦人たちの間で行なった徴や不思議な業について報告するのを聞いた。
13 二人が話し終えると、ヤコブが答えた「兄弟たち、私の言うことを聞いてください。
14 シメオン(=ペトロ)は、神が最初に異邦人たちを気にかけて、その中からご自分の名のために民を取り出した次第を話してくれました。
15 それは、預言者たちの言葉と一致しています。こう書かれているとおりです。

16 『これらの事の後、私は戻って来て、ダビデの倒れた幕屋を建て直し、廃虚を作り直して、元どおりにするだろう。
17 残っている者たち、私の名によって呼ばれるすべての異邦人たちが、主を探し求めるようになるために。これらのすべての事を行なう主が言う。
18 神にとって、そのすべての業は遠い昔から知らされているのである』

19 それで、私の意見は、異邦人たちの中から神に立ち返った人たちを悩ませることはいけないと思います。
20 ただ、偶像に汚されたものと、淫行と、絞め殺されたものと、血を避けるようにと、彼らに書き送るのがよいでしょう。
21 モーセについては、昔からどの町にも宣教する者たちがおり、安息日ごとに諸会堂で朗読されているからです」

【エルサレムでの決議と手紙】

22 使徒・長老たちは、集会全体とともに、自分たちの中から人を選んで、パウロやバルナバと一緒にアンティオキアに遣わす決議をした。すなわち、バルサバスと呼ばれるユダとシラで、兄弟たちの間で主立った人たちである。

23 彼らは、次のように書いて、この人たちの手に託した「使徒たち、長老たち、および兄弟たちから、アンティオキア・シリア・キリキアにいる異邦人の兄弟たちへ。挨拶を送ります。
24 私たちの中から行(い)ったある者たちが、いろいろな言葉によってあなたたちを悩ませ、私たちが命じていない「割礼を受けて、律法を守らなければならない」と言って、あなたたちの魂を乱したことを聞きました。

25 私たちは満場一致で、私たちの愛するバルナバ・パウロとともに選んだ人も、あなたたちのもとに遣わすのがよいと考えました。
26 この二人は、私たちの主イエス=キリストのみ名のために、自分の命をかけている者たちです。
27 私たちは、一緒にユダとシラを遣わしますが、この二人も同じことを口頭であなたたちに告げるでしょう。
28 というのは、聖霊と私たちとは、次の必要な事柄の他には、あなたたちにいかなる重荷も負わせないのがよいと考えたからです。
29 すなわち、偶像に汚されたものと、血と、絞め殺されたものと、淫行を避けることです。これらのものから、身を守っていればよいのです。ご健勝で」

【パウロとバルナバはアンティオキアに止まり宣教をする】

30 彼らは送り出され、アンティオキアに着いた。そして、集団を集めて手紙を渡した。
31 それを読んだ人々は、その励ましに喜んだ。
32 ユダとシラは、彼ら自身も預言者であったので、多くの言葉をもって兄弟たちを励まし、元気づけた。
33 しばらくの間そこで過ごしてから、兄弟たちからの挨拶を携えて再び使徒たちのもとに送り出された。
34 ……(この節の正当性は、現在でも論議されている)
35 しかし、パウロとバルナバはアンティオキアに止(とど)まり、他の多くの人たちとともに、主の言葉を宣教した。

【パウロの二度目の旅行】

36 数日後、パウロはバルナバに言った「さあ、もう一度行って、私たちが主の言葉を告げたすべての町にいる兄弟たちを訪ね、彼らがどうしているかを見て来ようではないか」
37 バルナバは、マルコと呼ばれるヨハネを一緒に連れて行くつもりであった。

38 しかしパウロは、パンフィリアで自分たちから離れ、同行して業を行なわなかったような者は、一緒に連れて行かないほうがよいと考えた。
39 そのことで、二人の間に激しい口論が起こり、彼らは互いに別行動になった。バルナバはマルコを連れ、キプロスへ出航した。
40 一方、パウロはシラを選び、兄弟たちから神の恵みを託されて出発した。
41 シリアとキリキアを通り抜け、各地の集会を強めた。


第十六章


【パウロがテモテと出会う】

01 パウロは、デルベ(=地名)とリストラ(=地名)にやって来た。そこには、テモテという弟子がいた。信者であるユダヤ婦人の息子で、父はギリシャ人であった。
02 テモテは、リストラとイコニオン(=地名)にいた兄弟たちの中でも、評判がよかった。
03 パウロは、彼を一緒に連れて行きたいと思った。そこで、その地帯にいるユダヤ人たちのために、彼に割礼を施した。彼の父がギリシャ人であることを、皆が知っていたからである。
04 彼らは、町々を通って行きながら、エルサレムにいる使徒たちや長老たちが定めた規定を守るように人々に伝えた。
05 こうして、各地の集会は信仰を深め、日ごとに数を増した。

06 彼らは、聖霊によってアジアで言葉を語ることを禁じられていたので、フリュギアとガラテアの地方を回った。
07 ミュシアに面した所まで来て、ビティニアに入ろうとしたが、霊がそれを許さなかった。
08 そこで、ミュシアを通り過ぎて、トロアスに向かって行った。

【マケドニアに向かう】

09 その夜、幻がパウロに現われた。その中で、あるマケドニアの人が立って、彼に懇願してこう言った「マケドニアに渡って来て、私たちを助けてください」
10 彼が、その幻を見たときに、私たちはすぐにマケドニアに出かけることにした。彼らに福音を宣教するために、主が私たちを招いていると結論したからである。

11 私たちは、トロアスから出航してサモトラケに直行し、翌日ネアポリスに着いた。
12 そこから、フィリピに行った。そこはマケドニア第一地区の町で、ローマの植民都市である。私たちは、その町で幾日か滞在した。

【フィリピでリディアに洗礼を授ける】

13 安息日に、町から出て川岸に行った。そこには祈りの場所があると、思ったからである。腰を下ろして、集まって来た女たちと話をした。
14 紫布を売るテュアティラ出身の人で、神の崇拝者であるリディアという名の女がいた。私たちの言葉を聞いていたが、主は彼女の心を開いて、パウロが語る事柄に聞き従うようにさせた。
15 彼女とその家の者たちは、洗礼を受けた。彼女は、私たちに懇願して言った「もし皆さんが、私を主に忠実な者とお思いでしたら、どうぞ私の家にお泊まりください」 このようにして、彼女は私たちに頼み込んで承知をさせた。

【女占いから悪霊を追い出して捕らえられる】

16 私たちが祈りの場に行く途中、占いの霊に取り付かれている女中に出会った。彼女は運勢を告げて、その主人に多くの利益を得させていた。
17 パウロと私たちの後に付いて来て、叫んで言った「この人たちは、いと高き神の召使いたちで、私たちに救いの道を告げているのです!」
18 彼女は、それを何日も続けた。それで、パウロは非常にいら立つようになり、振り向いてその霊に言った「イエス=キリストの名において命じる。彼女から出て行け!」 すると、即座に悪霊が出て行った。

19 ところが、彼女の主人は、自分たちの利益がなくなってしまったのを知って、パウロとシラを捕まえ、支配者たちの前に引いて行った。
20 政務官たちのところに引き出し、言った「この者たちはユダヤ人で、私たちの町をかき乱しています。
21 私たちローマ人が受け入れたり、守って行なうことも許されない慣習を宣伝しています」

【パウロとシラが牢屋に入れられる】

22 群衆も一緒になって、彼らに対して立ち上がった。そこで、政務官たちは彼らの衣をはぎ取って、鞭(むち)で打つようにと命じた。
23 何度も鞭打たせてから、彼らを牢屋に入れ、看守にしっかりと見張るように命じた。
24 このような命令を受け、彼らは牢屋に投げ入れられて、足を足かせ台につながれた。

25 真夜中ごろ、パウロとシラは神に祈りながら、歌ったりしていた。回りの囚人たちも、それに耳を傾けた。
26 突然、大きな地震が起こり、牢屋の土台が揺れ動いた。そして、すぐにすべての扉が開き、全員の鎖(くさり)が解けた。
27 看守は眠りから覚めて、牢屋の扉が開いているのを見た。そして、囚人たちが逃げてしまったものと思い込み、剣を抜いて自殺しようとした。
28 パウロは、大声で叫んだ「自害をしてはいけない。私たちは皆ここにいる!」

【看守を救う】

29 看守は、明かりを持って来て中に駆け込み、おののきながらパウロとシラの前にひれ伏した。
30 そして、二人を外に連れ出して言った「救われるために、私は何をしたらよいでしょうか?」

31 パウロたちは、言った「主イエス=キリストを信じなさい。そうすればあなたも、あなたの家の者たちも救われます」
32 看守と彼の家にいたすべての者に、主の言葉を語った。

33 彼は、夜のその時刻に二人を連れ出し、その打ち傷を洗った。そして、彼とその家の者たちは、すぐに洗礼を受けた。
34 彼は二人を家に上がらせ、その前に食事を備えた。そして、家の者たちとともに、神を信じるようになったことを大いに喜んだ。

【パウロとシラが釈放される】

35 朝になると、政務官たちは守衛兵たちを遣わし「あの者たちを釈放せよ」と言わせた。
36 看守は、その言葉をパウロに伝えた「政務官たちは、あなたたちを釈放するようにと人をよこしました。どうぞ、安心してお出かけください」

37 パウロは、言った「彼らは、ローマ人である私たちを裁判にもかけず、打ちたたき牢屋に投げ込んだ! 今になって、秘かに私たちを釈放するのか。それは、実によくない。自分たちでここに出向いて、私たちを連れ出すべきだ!」
38 守衛兵たちは、この言葉を政務官たちに報告した。すると政務官たちは、彼らがローマ人だと聞いて恐れた。

39 そこで、やって来てパウロらに懇願した。そして連れ出し、町から立ち去ってくれるようにと頼んだ。
40 二人は牢屋を出て、リディアの家に行った。兄弟たちに会い、彼らを励ましてから出発した。


第十七章


【パウロとシラがテサロニケに到着、トラブルを生じる】

01 二人はアンフィポリスとアポロニアを通り抜けて、テサロニケにやって来た。そこには、ユダヤ人の会堂があった。
02 パウロは、いつものとおり彼らのもとに行って、三度の安息日にわたり彼らと聖書についての議論をした。
03 キリストが苦しみを受け、死んだ者たちの中から生き返らなければならなかったことを説明した。そして、論証をして「私があなたたちに告げているこのイエスこそ、キリストです」と言った。
04 彼らのうち何人かは納得し、パウロとシラに加わった。その中には、大勢の敬虔なギリシャ人たちや、かなりの数の貴婦人たちもいた。

05 ところが、信じなかったユダヤ人たちは、市場から数人のならず者を連れて来た。そして、群衆を集め、町に騒ぎを起こした。ヤソンの家を襲撃し、民の前に連れ出そうとして二人を探した。
06 二人が見つからなかったので、ヤソンと数人の兄弟たちを町の支配者たちの前に引いて行き、叫んで言った「世界中を騒がせた例の者たちが来ています。
07 ヤソンが彼らを迎え入れたのです。この者たちは皆、カエサルの布告に背いて行動し、イエスという別の王がいると言っているのです!」
08 これを聞いて、群衆や町の支配者たちは動揺をした。
09 ヤソンと他の者たちから保証金を取ってから、彼らを釈放した。

【二人はベレアに送り出される】

10 兄弟たちは、パウロとシラを夜のうちにベレアに送り出した。そこに到着すると、二人はユダヤ人の会堂に入った。
11 ここの人たちは、テサロニケの人たちよりも高潔で、言葉を意欲的に受け入れた。言葉がそのとおりかを知ろうとして、毎日聖書を調べたりもした。
12 彼らのうちから、多くの者が信者になった。その中には、ギリシャ人の有力な婦人たちや、かなりの数の男たちもいた。

13 ところが、テサロニケのユダヤ人たちは、ベレアでもパウロによって神の言葉が告げられていることを知ると、押しかけて来て群衆を扇動した。
14 そこで、兄弟たちはすぐにパウロを送り出し、海辺まで行かせた。しかし、シラとテモテは、なおもそこに止(とど)まった。
15 パウロに付き添った人々は、彼をアテネまで連れて行った。そこで、早く来るようにというシラとテモテへの指示を託されて、帰って行った。

【アテネに到着】

16 パウロが、アテネで彼らを待っている間、町が偶像でいっぱいなのを見た。すると、霊は彼の内で怒りに燃えた。
17 会堂では、ユダヤ人たちや敬虔な人々と、市場では日々そこで出会う人たちと論じ合った。
18 エピクロス派やストア派の哲学者たちとも、語り合った。ある者たちは、言った「このおしゃべりは、何を言いたいのだろうか?」 他の者たちは、言った「異国の神々を宣伝しているらしい」 彼が、イエスと復活について告げていたからである。

19 人々は彼をアレオパゴスに連れて行き、言った「あなたの語っている新しい教えがどういうものか、私たちに分からせてもらえないか。
20 あなたは、目新しいことを私たちの耳に入れているからだ。それが、どんな意味なのか知りたいのだ」
21 アテネ人やそこに住む居留人は、何か新しいことを話したり聞いたりすることばかりに、いつも時間を費やしていたのである。

【アレオパゴスで演説をする】

22 パウロは、アレオパゴスの真ん中に立って、こう言った「アテネの皆さん。あなたたちはあらゆることにおいて、非常に信心深いということが私には分かります。
23 あなたたちの崇拝の対象物をいろいろと見ていたところ『知られていない神に』という銘のある祭壇さえも見つけたからです。ですから、あなたたちが知らずに崇拝しているもの、それをあなたたちに知らせます。

24 世界とその中のすべてのものをお造りになった神は、天地の主なのですから、手によって造られた神殿には住みません。
25 また、不自由だからと言って、人間の手によって仕えてもらう必要もありません。ご自身がすべての人に、命と息とあらゆる物を与えたからです。
26 神は、一人の人からあらゆる民族の人々を造って、地の全面に住まわせ、決まった季節と、その居住地の境界を定めました。

27 これは、もしも人々が手を差し伸べてご自分を見いだすなら、彼らが主を求めるようになるためなのです。神は、私たち一人一人から遠く離れているわけではありません。
28 『我々はそのうちに生き、動き、存在しているのだから』詩人たちのある者たちも、こう言っている通りです『我々もその子孫なのだから』
29 私たちは、神の子孫なのですから、神を人間の技術や着想によって刻まれた金・銀・石のようなものと考えるべきではありません。
30 神は、私たちの無知の時代を見過ごしてきました。しかし今では、どこにいる人もすべて悔い改めるよう命じています。
31 ご自分が任命した人によって、この世を義をもって裁くために日を定めたのです。彼を死んだ者たちの中から起こすことにより、すべての人に保証を与えたからです」

32 死者の復活について聞くと、ある者たちは嘲った、他の者たちは「そのことについては、また聞きたい」と言った。
33 こうして、パウロは彼らの中から出て行った。
34 幾人かの者たちは、信者になった。その中には、アレオパギトであるディオニュシオス、またダマリスという名の女や他の者たちもいた。


第十八章


【コリントでは天幕作りをしながら会堂で論じあった】

01 パウロはアテネを去り、コリントに行った。
02 そこで、アクラという名のポントス生まれのユダヤ人と、その妻プリスキラとに出会った。クラウディウスが「すべてのユダヤ人は、ローマから退去せよ」と命じたために、最近イタリアから来たのである。彼は、二人のもとに行った。
03 パウロと同じ天幕造りが職業だったので、一緒に住み込んで仕事をした。

04 彼は、安息日ごとに会堂で論じ合い、ユダヤ人やギリシャ人を説得していた。
05 シラとテモテがマケドニアから来ると、パウロは霊によって駆り立てられた。そして、イエスがキリストだということをユダヤ人たちに証言した。
06 彼らは、彼に反対して冒とくした。そこで、パウロは自分の衣を振り払って言った「あなたたちの血は、あなたたち自身の頭に降りかかれ! 私は潔白だ。今からは、異邦人たちのもとへ行く!」

【一年六か月、神の言葉を教えた】

07 パウロはそこを去り、神の崇拝者であるユストゥスという人の家に入った。彼の家は、会堂の隣だった。
08 会堂長のクリスポスは、その全家とともに主を信じていた。大勢のコリント人たちも、話を聞いて、信じて洗礼を受けた。

09 ある夜、主が幻によってパウロに言った「恐れることなく行って語りなさい。黙っていてはいけない。
10 私もともにいるから、誰もあなたを襲って傷つけることはない。この町には、私の民が大勢いる」

11 パウロは、一年六か月の間そこに住み、人々の間に神の言葉を教え続けた。

【地方総督の言葉で騒動が起こる】

12 ガリオがアカイアの地方総督だったとき、ユダヤ人たちはパウロに対していっせいに立ち上がり、彼を裁判所に引き出した。
13 そして、言った「この男は人々を説得して、律法に背いて神を崇拝させようとしています」

14 パウロが口を開こうとすると、ガリオはユダヤ人たちに言った「ユダヤ人たち、もしもこれが実際に不正行為とか、悪意のある犯罪行為であれば、私は当然お前たちの言い分を聞く。
15 しかし、問題が教義や律法などに関することであれば、自分たちで解決せよ。私は、そのような事柄の裁き人にはなりたくない」
16 地方総督は、彼らを裁判所から追い出した。
17 すると、ギリシャ人たちは皆で会堂長ソステネスを捕まえ、彼を裁判所の前で打ち叩いた。ガリオは、そのことを少しも気にとめなかった。

【パウロはアンティオキアに帰る】

18 パウロは、なお長い間そこに滞在した。その後、兄弟たちに別れを告げて、シリアに向けて出航した。プリスキラとアクラも同行した。彼は誓願を立てていたので、ケンクレアイで髪をそり落とした。

19 エフェゾに着くと、二人をそこに残し、パウロは一人で会堂に入り、ユダヤ人たちと論じ合った。
20 彼らは、彼にもっと長くとどまってもらいたいと頼んだが、彼は承知しなかった。
21 「私は、近々エルサレムで催される祭りに、どうしても出なければなりません。神のご意志であれば、もう一度あなたたちのところに戻って来ます」と言って、彼らに別れを告げ、エフェゾから出航した。

22 カイザリアに着くと、集会に行って挨拶し、それからアンティオキアに行った。
23 しばらくそこで過ごしてから、出発して、ガラテアの地方やフリュギアを順々に巡回し、すべての弟子たちを強めた。

【エフェゾのアポロ】

24 アポロというユダヤ人で、アレクサンドリア生まれの雄弁な人が、エフェゾからやって来た。彼は、聖書に強かった。
25 この人は、主の道について教えられており、霊に燃えていた。イエスについて、子細にわたって語ったり教えたりしていたが、ヨハネの洗礼しか知らなかった。
26 彼は、会堂で大胆に語り始めた。しかし、プリスキラとアクラはそれを聞くと、彼をわきに連れて行き、さらに子細にわたって神の道を説明した。

27 アポロは、アカイアに渡ろうと決心していたので、兄弟たちは彼を励ました。弟子たちに、彼を迎え入れるようにと書き送った。彼はそこに着くと、すでに恵みによって信じていた人たちを大いに助けた。
28 イエスがキリストだということを聖書によって公に示し、ユダヤ人たちを力強く論破したからである。


第十九章


【エフェゾで聖霊の洗礼を授ける】

01 アポロがコリントにいたとき、パウロは内陸の地方を通って、エフェゾにやって来た。そして、幾人かの弟子たちに出会った。
02 彼らに言った「信者になったとき、聖霊を受けましたか」 彼らは、言った「いいえ、聖霊があるなどと聞いたことはありません」

03 パウロは、言った「では、何の洗礼を受けたのですか?」 彼らは、言った「ヨハネの洗礼です」
04 パウロは、続けた「ヨハネは、確かに悔い改めの洗礼を施しました。自分の後から来る方、すなわちイエスを信じるようにと民に言ったのです」
05 これを聞いて、彼らは主イエスの名において洗礼を受けた。
06 パウロが彼らの上に手を置くと、聖霊が彼らに下り、彼らは異なった言語で話したり、預言をしたりした。
07 この人たちは、全部で十二人ほどであった。

【アジアにおけるパウロの活躍】

08 パウロは会堂に入って、三か月間にわたって大胆に語り、神の王国に関する事柄を論じたり説得したりした。

09 しかし、ある者たちは頑(かたく)なで、不従順だった。群衆の前で、道についての悪口を言ったので、パウロは彼らから離れ、弟子たちをより分けて、テュラノスの講堂で毎日論じた。
10 このようなことが二年間続いたので、アジアに住んでいる者は皆、ユダヤ人もギリシャ人も主イエスの言葉を聞いた。

11 神は、パウロの手によって偉大な奇跡を行なった。
12 彼の体から手ぬぐいや前掛けを取って病人に当てるだけで、悪い霊たちが出て行くほどであった。

【悪魔払いのユダヤ人】

13 旅回りの悪魔払い師であるユダヤ人たちがいた。悪霊に取り付かれた者に向かって、主イエスの名を唱え「我々はパウロが宣教しているイエスによって、お前たちに命じる」と言っていた。
14 それをしていたのは、ユダヤ人祭司長スケワの七人の息子たちであった。

15 悪霊は、答えた「イエスを知っている。パウロも知っている。だが、お前たちは何者だ?」
16 悪霊に取り付かれていた男は、彼らに飛びかかった。そして、彼らを押し倒して、打ち負かした。彼らは傷を負って、その家から裸で逃げ出した。
17 このことが、エフェゾに住んでいたユダヤ人とギリシャ人全員に知れ渡った。皆は恐怖を抱き、主イエスの名が讃えた。

18 信者になっていた者たちも大勢やって来て、告白し、自分たちの行ないを公表した。
19 魔術を習慣にしていた大勢の者たちは、自分たちの書物を皆の前で燃やした。その値段を計算すると、銀五万枚にもなった。
20 こうして、主の言葉はさらに広まっていった。

【パウロ、エルサレムとローマ行きを決める】

21 この出来事の後、パウロはマケドニアとアカイアを通って、エルサレムに行こうと決めた。そして、言った「私はそこへ行った後、さらにローマをも見なければならない」

22 自分に仕える者の中から、テモテとエラストの二人をマケドニアに送り出したが、彼自身はしばらくアジアにとどまっていた。

【銀細工師の騒動】

23 そのころ、主の道のことから少なからぬ騒動が起こった。

24 デメトリオという名の銀細工師が、アルテミスの神殿の模型を銀で造って、職人たちにかなりの利益を与えていた。
25 この男が、同じ仕事をしている労働者を集めて、こう言った「皆さん、ご承知のように、私たちが豊かでいられるのは、この商売のおかげです。
26 あなたたちが見聞きしているとおり、あのパウロはエフェゾだけでなく、アジアのほとんど全域で、手で造られたものは神々ではないと言い、大勢の民を説得して背かせてしまいました。
27 私たちの職業の評判が悪くなる恐れがあるだけでなく、偉大な女神アルテミスの神殿が軽んじられ、全アジアと世界が崇拝している女神の荘厳さまでが失われてしまうでしょう」

28 これを聞くと、彼らは怒りに満たされ、叫んだ「偉大なのは、エフェゾ人のアルテミス!」
29 町全体が、混乱に満たされた。彼らは、パウロの旅の同行者マケドニア人ガイオとアリスタルコを捕らえて、いっせいに劇場へなだれ込んだ。
30 パウロは群衆の中に入って行こうとしたが、弟子たちがそうさせなかった。
31 彼の友人だったアジアの祭りの司たちも、彼のもとに人を遣わして、劇場に行くなと懇願した。

【書記官が群衆を解散させる】

32 その集会では、ある者たちが何かを叫べば、別の者たちは違うことを叫ぶという混乱ぶりであった。ほとんどの者は、集まった理由さえも知らなかった。
33 人々は、ユダヤ人たちが前に押し出したアレキサンドロを群衆の中から引き出した。彼は手で合図をし、民に向かって弁明しようとした。
34 しかし、彼がユダヤ人だと分かると、皆はいっせいに「偉大なのは、エフェゾ人のアルテミス!」と二時間ほども叫び続けた。

35 町の書記官が、群衆を鎮めて言った「エフェゾの人たち、この町が偉大な女神アルテミスと天から下ったその像との守護者だということを知らぬ者がいるだろうか?
36 これは否定できない事実なのだから、あなたたちは静かにしているべきであって、無分別なことをしてはいけない。
37 あなたたちは、この人たちをここに連れて来たが、彼らは神殿強盗でもなければ、あなたたちの女神を冒とくする者でもない。
38 だから、もしデメトリオとその仲間の職人たちが誰かに訴えごとがあるのなら、法廷は開かれているし、地方総督もいる。そこに訴えればよい。
39 また、あなたたちがそれ以外のことを求めているのなら、正式な集会で決めてもらえるだろう。
40 実際、我々は今日の暴動のことで告発される恐れがあるくらいだ。我々には、この反乱について言い開きする名目が何もないからだ」
41 こう言って、書記官は群衆を解散させた。


第二十章


【マケドニアからトロアスまで行く】

01 騒動が終わった後、パウロは弟子たちを呼び集めた。そして、別れを告げてから、マケドニアに向けて出発した。
02 その地帯を通って、多くの言葉で人々を励ましながら、ギリシャに入った。
03 ギリシャで、三か月を過ごした。シリアに向けて出航しようとしていたとき、彼に対する陰謀がユダヤ人たちによって企てられた。そこで、マケドニアを通って帰ることにした。

04 アジアまでパウロに同伴したのは、ベレアのソパテロ、テサロニケ人のアリスタルコとセクンド、デルベ人のガイオ、テモテ、それにアジア人のティキコとトロフィモであった。
05 彼らは先に発(た)って、トロアスで私たちを待っていた。
06 私たちは、種なしパンの期間の後にフィリピから出航し、五日のうちにトロアスにいる彼らのもとに着いた。そして、そこに七日間滞在した。

【パウロは三階から落ちた若者を蘇生させる】

07 週の初めの日、私たちはパン(=聖体)を裂くために集まった。パウロは翌日出発するつもりだったので、彼らと語り合った。話は、真夜中まで続いた。

08 私たちが集まっていた階上の部屋には、たくさんの明かりがあった。
09 エウティコという名の若者が、窓のところに腰かけていた。そして、深い眠りに陥った。パウロの話が長引くので、眠りこけて、三階から落っこちてしまった。そして、抱き起こしてみると死んでいた。
10 パウロは降りて行き、彼の上に身を伏せた。抱きしめて、言った「心配するな。まだ命があるのだから」
11 そしてまた、上がって行って、パンを裂いて食べ、夜明けまで長い間語り合ってから、出発をした。
12 人々は生き返った少年を連れ帰り、大いに慰められた。

【海路でミレトに行く】

13 私たちは船で先立ち、アソ(ミシアの町)に向けて出航した。そこでパウロを乗船させるつもりであった。彼自身は陸路で行くつもりで、そのように手はずを整えていたからである。
14 彼がアソで私たちと落ち合うと、私たちは彼を乗船させて、ミティレネ(=レスボ島の首府)に着いた。

15 次の日、そこを出航してキオスの沖に達した。その翌日、サモスに立ち寄ってトロギュリウムに泊まり、次の日にミレトに着いた。
16 パウロは、アジアでは少しも時を費やさないようにと、エフェゾには寄らないことに決めていた。できるならば、五旬祭の日にはエルサレムに着いていたいと、旅を急いでいたのである。

【エフェゾで長老との別れの談話】

17 彼はミレトからエフェゾへ人を遣わし、集会の長老たちを呼び寄せた。
18 彼らがやって来ると、彼は言った「私がアジアに足を踏み入れた最初の日から、いつもあなたたちとともにいたことを、あなたたちは知っています。
19 私は謙遜の限りを尽くし、多くの涙と、ユダヤ人の陰謀によって自分の身に起こった数々の試練とをもって、主に仕えてきました。
20 少しもためらわずに、何でも益になることをあなたたちに話し、公にも、家から家にもあなたたちを教えました。
21 神に対する悔い改めと、私たちの主イエスに対する信仰を、ユダヤ人にもギリシャ人にも証言しました。
22 そして今、ご覧なさい、私は霊に縛られてエルサレムに行こうとしています。そこで私に、何が起きるのか知りません。
23 分かっているのは、聖霊がどの都市でも証言をして、鎖と苦難とが私を待ち受けていると言っていることだけです。
24 それでも、自分の道のりを喜びのうちに終え、神の恵みについての福音を十分に証言するというイエスから受けた奉仕の務めを果たすためならば、そんな事柄はものの数ではありません。また、自分の命が惜しいとも思いません。

25 「そして今、私が神の王国を告げて回ったあなたたちは皆、もはや私の顔を見ないことを、私は知っています。
26 ですから、すべての人の血について私は潔白だということを、今日あなたたちに証言しておきましょう。
27 少しもためらわずに、神のお考えすべてをあなたたちに話したからです。
28 ですから、自分自身と群れ全体に注意を払っていなさい。聖霊は、神がご自身の血をもって購(あがな)った、主および神の集会を牧させるために、あなたたちをその群れの中で監視者としたからです。

【パウロが出発した後の警告】

29 私の出発の後で、恐ろしい狼(おおかみ)があなたたちの中に入って、羊の群れを荒らすことを私は知っています。
30 あなたたち自身の中からも、有害な事柄を語って、弟子たちを自分のほうへ引き込もうとする者たちが現れるでしょう。
31 ですから、私が三年間、夜も昼も、涙をもって一人一人に忠告してきたことを思い出しなさい。

32 兄弟たち、私はあなたたちを神とその恵みの言葉とに委(ゆだ)ねます。この言葉は、あなたたちを築き上げ、聖別されたすべての人々とともに遺産を与えることができるのです。
33 私は、他人の金銀や衣服を欲しがったことはありません。
34 あなたたち自身がご存じのとおり、この両手は、私の必要のためにも、私とともにいた者たちのためにも働いたのです。
35 あなたたちが、このように労苦して弱い人々を助け、主イエスご自身の言われた::『受けるより与えるほうが幸いだ』という言葉を覚えておくよう、私はすべてのことについて、あなたたちに模範を示したのです」

36 こう語ってから、皆と一緒にひざまずいて祈った。
37 皆は激しく泣き、パウロの首を抱いて口づけした。
38 もはや自分の顔を見ることはないだろうと語った彼の言葉のために、とりわけ悲嘆したのである。それから、彼を船まで送って行った。


第二十一章


【ティロからプトレマイスそしてカイザリアへ】

01 私たちはやっと彼らと別れて出航をして、コスに直行した。翌日はロドス島に着き、そこからパタラに渡った。
02 そこでフェニキアに渡る船を見つけたので、それに乗って出航した。
03 キプロスが見えてきたが、それを左手に通り過ぎ、シリアに向かって航海を続けて、ティロに着いた。船は、ここで積み荷を降ろすことになっていたの。
04 私たちは、弟子たちを見つけ出して、七日間滞在した。彼らは霊に導かれて、パウロにエルサレムには行かないようにと忠告した。
05 滞在の期間が過ぎると、私たちは出発して旅を続けた。別れる前に、皆は妻や子供たちと一緒に、町の外まで私たちを案内してくれた。私たちは、浜辺にひざまずいて祈った。
06 互いに別れを告げた後、私たちは船に乗り、彼らは家に帰って行った。

07 私たちはティロからの航海を終えて、プトレマイスに着いた。兄弟たちに挨拶をして、彼らとともに一日を過ごした。
08 翌日、私たち一行は出発し、カイザリアに着いた。かの七人のうちの一人である福音伝道者フィリポの家に入り、彼とともに過ごした。
09 ところで、この人には処女の娘が四人いて、それぞれ預言をしていた。

【アガボの預言】

10 私たちが、そこに幾日か滞在をしていると、アガボという名の預言者がユダヤからやって来た。
11 私たちのもとに来て、パウロの帯を取り、自分の両足と両手を縛って言った「聖霊が、このように言う『ユダヤ人たちはエルサレムで、この帯の持ち主を縛って、彼を異邦人たちの手に引き渡すだろう』」

12 これを聞くと、私たちも土地の人々も、エルサレムに行かないようとパウロに懇願をした。
13 すると、パウロは答えた「泣いたり、私の心をくじいたりして、いったいどうしようというのですか。私は、主イエスの名のため、エルサレムで縛られるばかりか、死ぬことも覚悟しているのです」
14 彼が、説得を聞き入れようとしないので、私たちは「主のご意志がなりますように」と言って、口をつぐんだ。

15 その後、私たちは荷物を手に取って、エルサレムに向かって行った。
16 カイザリアから来た数人の弟子たちも一緒に来て、キプロスのムナソンという古くからの弟子のところに案内した。私たちは、そこに泊まることになっていたのである。

【エルサレムに到着して長老たちに会う】

17 私たちがエルサレムに着くと、兄弟たちが喜んで出迎えてくれた。
18 次の日、パウロは私たちとともにヤコブのところに行った。長老たちも皆、出席していた。
19 彼らに挨拶をしたのち、自分の奉仕を通して神が異邦人たちの間で行なった事柄を次々に報告した。
20 これを聞いて、彼らは神に栄光を捧げた。彼らは、パウロに言った「兄弟、ご承知のように、ユダヤ人たちの中で信者になった者が幾万人もいます。彼らは皆、律法に熱心です。
21 彼らが、あなたについて聞かされていることがあります。それは、あなたが異邦人たちの間にいるすべてのユダヤ人たちに対して、子供に割礼を施したり、慣習に従って歩んだりしないようにと告げて、モーセを破棄するよう教えているということです。

22 それで、どうすればよいのでしょうか。あなたが来ていることを聞いたら、きっと集会が起こるでしょう。
23 ですから、私たちの言うとおりにしてください。私たちには、誓願を立てた四人の人たちがいます。
24 彼らを連れて行って、一緒に身を清め、彼らのために頭をそる費用を出してやりなさい。そうすれば、あなたについて聞かされている事柄が事実ではなく、あなた自身も律法を守って歩んでいることを、皆が知るでしょう。
25 信者になった異邦人たちには、偶像にささげられた食物と、血と、絞め殺されたものと、淫行から身を守るべきことを除いては、いかなることも守り行なう必要はないという私たちの決定をすでに書き送ってあります」

26 そこで、パウロはその者たちを連れて行き、翌日、一緒に身を清めて神殿に入った。清めの期間が満ちて、一人一人のために供え物を捧げる日時を告げた。

【パウロ、捕縛される】

27 七日の期間が、間もなく終わろうとしていた。すると、アジアから来たユダヤ人たちが、神殿にパウロがいるのを見て、群衆を扇動して彼に手をかけた。
28 叫んで言った「イスラエルの人たち、手伝ってくれ! この男は至るところであらゆる者に、民と律法とこの場所に反することを教えている。その上、ギリシャ人たちを神殿に連れ込んで、この聖なる場所を汚しているのだ!」
29 エフェゾ人トロフィモが、都で彼と一緒にいたのを見たので、パウロが彼を神殿に連れ込んだものと思ったのである。

30 都全体が騒動になり、民は駆け寄って来た。人々はパウロを捕らえ、神殿の外に引きずり出した。そして、すぐに門を閉ざした。
31 人々が彼を殺そうとして、エルサレム中が大騒ぎになっているという知らせが、連隊の司令官のところに届いた。
32 司令官は、直ちに兵士たちと百人隊長たちを率いて、彼らのもとにかけつけた。人々は大隊長と兵士たちを見ると、パウロを打つのをやめた。
33 司令官は近づいて彼を逮捕し、二本の鎖で縛るよう命じた。そして、彼が何者で、何をしたのかを尋ねた。

34 群衆は、ある者が何かを叫べば、別の者は違うことを叫んだ。騒がしくて真相をつかむことができないので、司令官は彼を兵営に引いて行くよう命じた。

35 彼が階段に差し掛かったときには、群衆の暴行のため、兵士たちに担がれるほどであった。
36 大勢の民が「彼を取り除け!」と叫びながら、後を付いて来た。

37 兵営に連れ込まれようとしたとき、パウロは司令官に尋ねた「お話ししても、よろしいでしょうか」 司令官は、言った「お前はギリシャ人なのか。
38 するとお前は、この前反乱を起こして、四千人の暗殺者たちを引き連れて荒野に行った、あのエジプト人ではないのか?」

39 パウロは、言った「私はタルソ生まれのユダヤ人で、キリキアの町の歴(れっき)とした市民です。あの民に、話すことを許してください」
40 司令官が彼に許可を与えたので、パウロは階段に立ち、民を手で制した。すっかり静かになると、ヘブライ語で彼らに語りかけてこう言った。


第二十二章


【パウロの弁明】

01 「兄弟たち。父たち。これから私が申し上げる弁明を聞いてください」

02 パウロが、自分たちにヘブライ語で語りかけるのを聞くと、人々はますます静かになった。彼は言った。
03 「私は、確かにユダヤ人です。キリキアのタルソで生まれました。この都においてガマリエルのもとで育てられ、私たちの父祖たちの律法について厳格な流儀で教育され、今日の皆さんと同じように、神に対して熱心な者でした。

04 しかし、最初はこの道を迫害して、男も女も縛って牢屋に引き渡し、死に至らせたのです。
05 そのことについては、大祭司も長老会議全体も証言してくれます。私はこの人たちから兄弟たちへの手紙を受け取って、ダマスコへ旅立ちました。そこにいる者たちをも縛り上げて、エルサレムに連行して、罰するためでした。

【イエスから使命を受けたいきさつ】

06 旅をしてダマスコに近づいたとき、真昼ごろでした。突然、天からの強い光が周りを照らしたのです。
07 私は、地に倒れ伏し『サウロ、サウロ、なぜ私を迫害するのか』と、自分に言う声を聞きました。
08 私は、答えました『主よ、あなたはどなたですか?』 その方は、私に言いました『私はナザレのイエス、あなたが迫害している者だ』

09 「私と一緒にいた者たちは、光を見て恐れていたのです。彼らには、私に語りかけられた声が聞こえませんでした。
10 私は、言いました『主よ、私はどうすればよいのでしょうか?』 主は、私に言いました『立ち上がって、ダマスコに入りなさい。あなたが行なうよう定められているすべてのことが、そこで告げられるだろう』

【アナニアによって癒され、エルサレムから出て行く】

11 私は、その光の輝きのために、目が見えなくなっていました。そんなわけで、一緒にいた者たちに手を引かれて、ダマスコに入りました。
12 そこには、ダマスコに住むすべてのユダヤ人たちから評判のよいアナニアという敬虔な人がいました。
13 この人が私のところに来て、そばに立って言いました『兄弟サウロ、視力を取り戻しなさい!』 すると、私はその人が見えるようになったのです。
14 彼は、言いました『私たちの父祖たちの神が、ご自分のご意志を知り、義なる方を見て、その口からの声を聞くように、あなたを指名しました。
15 あなたは、自分の見聞きしたことについて、すべての人に対してその方の証人となるのです。
16 さあ、何をためらうのですか。起き上がって、主の名を呼び求めて洗礼を受け、自分の罪を洗い流しなさい』

17 「さて、私がエルサレムに帰って神殿で祈っていると、我を忘れた状態に陥り、
18 その方が、私にこう言われるのを見ました『急いで、エルサレムから出て行きなさい。私についてのあなたの証言を人々は受け入れないからだ』
19 私は、言いました『主よ、かつて私がどの会堂でもあなたを信じる人たちを牢屋に入れたり、打ちたたいたりしていたことを、皆が知っています。
20 あなたの証人ステファノの血が流されたとき、私もそばにいました。そして、彼の死刑に同意しており、彼を殺した者たちの外衣の番をしていたのです』

21 その方は、私に言われました『出かけて行きなさい。私は、あなたをここから遠く異邦人たちのもとに遣わすからだ』」

【パウロ、司令官に危険人物と思われる】

22 人々は、それまで彼の話を聞いていたが、ここに至ると声を張り上げた「こんなやつは地上から除いてしまえ。生かしておくには及ばない!」
23 人々はわめき立て、外衣を放り投げ、塵(ちり)を空中にまき散らした。
24 司令官は、彼を兵営に引き入れるように命じ、人々が彼に対して叫び立てるのはどんな罪のためかを知るために、彼を笞(むち)打って取り調べるよう言いつけた。

25 彼らが、皮紐で拘束していると、パウロはそばに立っていた百人隊長に尋ねた「ローマ人で、しかも有罪判決も受けていない者を笞打つことが、あなたたちには許されているのか?」
26 百人隊長はそれを聞くと、司令官のもとに行って報告した「何ということをなさるのです。あの男は、ローマ人なのです!」

27 司令官はやって来て、彼に尋ねた「私に言ってくれ。あなたはローマ人なのか?」 彼は、言った「そうです」
28 司令官は、答えた「私は、かなりの値段でこの市民権を手に入れたのだ」 パウロは、言った「私は、生まれながらのローマ人です」

29 彼を取り調べようとしていた者たちは、すぐに彼から身を引いた。そして司令官も、彼がローマ人だと分かると、彼を縛らせたことで恐れた。

【衆議会員での問答】

30 翌日、彼がユダヤ人たちから告訴された理由について知りたいと思い、彼の鎖を解き、祭司長たちと衆議会員全体の招集を命じ、パウロを連れて彼らの前に立たせた。


第二十三章


(前章からのつづき)

01 パウロは、衆議会員を見つめて言った「兄弟たち、私は今日に至るまで、ひたすら正しい良心のうちに神のみ前で生きてきました」

02 大祭司アナニアは、彼の口を打つようにと側(そば)に立っている者に命じた。
03 そこでパウロは、アナニアに言った「神があなたを打たれるだろう、白く塗った壁よ! あなたは律法に従って私を裁くために座っていながら、律法に背いて私を打つことを命じるのか?」

04 側に立っている者たちが、言った「お前は、神の大祭司を中傷するのか?」
05 パウロは、言った「兄弟たち、私は彼が大祭司だとは知りませんでした。確かに『あなたは、あなたの民の指導者を悪く言ってはならない』と書かれている」

【復活の問題を投じる】

06 パウロは、そこにいる者の一部がサドカイ人で、一部がパリサイ人であることに気づいた。彼は、叫んで言った「皆さん、兄弟たち、私はパリサイ人です。死んだ者たちの希望と復活のことで、私は裁かれているのです!」

07 彼がこう言うと、パリサイ人たちとサドカイ人たちとの間に論争が生じ、集会は分裂した。
08 サドカイ人たちが復活も天使も霊もないと言っているのに対し、パリサイ人たちはそれらを認めているからである。

09 大騒動になり、パリサイ派の律法学者たちの幾人かが立ち上がって、激しく言った「我々は、この人に何の悪いことも見いだせない。だから、もし霊か天使が彼に語りかけたのであれば、神に対して闘うのはよそう!」

10 激しい論争が生じたので司令官は、パウロが引き裂かれてしまうのではないかと心配した。兵士たちに、降りて行って彼を力ずくで引き出し、兵営に連れてくるように命じた。

11 その夜、主が彼のそばに立って言った〈パウロよ、元気を出しなさい。あなたはエルサレムで私について証言したのと同じように、ローマでも証言しなければならないのだから〉

【ユダヤ人のパウロ暗殺計画】

12 朝になると、幾人かのユダヤ人たちは団結して誓いをかけ、パウロを殺すまでは食べることも飲むこともしないと言った。
13 この陰謀に加わった者は、四十人以上いた。
14 彼らは、祭司長・長老たちのところに行って、言った「私たちは、パウロを殺すまでは何も口にしないと、自らに厳重な誓いをかけました。
15 だから、衆議会員と組んで、もっと詳しく審理するという口実で、彼を明日あなたたちのもとに連れくるよう司令官に願い出てください。私たちは、彼がここに近づいて来る前に、殺してしまう用意があります」

16 パウロの姉妹の息子は、彼らの待ち伏せのことを耳にした。そこで、兵営に入って、パウロに知らせた。
17 パウロは、百人隊長の一人を呼び寄せて言った「この若者を司令官に合わせてください。お知らせしたいことがあります」

18 そこで百人隊長は、若者を司令官のところに連れて行って、言った「囚人のパウロが私を呼んで、この若者があなたにお知らせしたいことがあるので、引き合わせて欲しいと願い出ました」
19 司令官は、若者の手を取って隅に行き、尋ねた「私に知らせたいこととは、何か?」
20 その息子は、言った「ユダヤ人たちは、パウロについてもう少し詳しく取り調べるという口実で、彼を明日衆議会員に連れていくように願い出ることを決めています。
21 でも、彼らの言いなりにならないでください。四十人以上の者たちが、彼を待ち伏せしているからです。彼を殺すまでは食べることも飲むこともしないと、自らに誓いをかけているのです。彼らは手はずを整えて、あなたの承諾を待っています」

22 そこで、司令官は「このことを私に明かしたと誰にも言うな」と命じて、若者を去らせた。

【パウロはカイザリアに護送される】

23 司令官は、百人隊長二人を呼び寄せて言った「夜の九時にカイザリアへ出発できるように、歩兵二百名、騎兵七十名、槍を持つ武装兵二百名を用意せよ」
24 また彼らに、パウロを乗せて総督フェリクスのもとへ安全に送り届けられるように、馬を備えるよう求めた。
25 そして、次のような手紙を書いた。

26 「クラウディウス・リュシアから、総督フェリクス閣下へ。ご挨拶申し上げます。
27 「この男はユダヤ人たちに捕らえられ、彼らによって殺されようとしていました。しかし、私は彼がローマ人であることを知りましたので、兵士たちを率いて彼を救出しました。
28 彼らが告訴をした理由を知りたいと思い、彼を衆議会員に連れていきました。
29 ところが、彼が訴えられているのは律法に関する問題で、死刑や束縛に値する罪状はないことが分かりました。
30 ユダヤ人たちが待ち伏せていると聞きましたので、彼をただちにあなたのもとにお送りすることとし、告訴人たちには彼に対する告訴をあなたの前に持ち出すよう命じておきました。ご健勝で」

31 歩兵たちは、命令どおりにパウロを引き取って、夜のうちにアンティパトリスに連れて行った。
32 翌日、騎兵たちを彼とともに行かせ、自分たちは兵営に帰った。
33 騎兵たちはカイザリアに着いて、総督に手紙を渡してから、パウロを彼に対面させた。
34 総督は手紙を読んでから、彼がどの州の出身かを尋ねた。彼がキリキアの出身だと分かると、総督は言った。
35 「お前の告訴人が到着したら、お前の言い分を十分に聞くことにする」 そして、彼をヘロデの宮殿内に留置するように命じた。


第二十四章


【総督フェリクスの前に告発される】

01 五日後、大祭司アナニアが幾人かの長老たちとテルトゥロという弁護士を伴ってやって来た。そして彼らは、総督にパウロを告発した。
02 パウロが呼び出されると、テルトゥロは彼を訴え始めてこう言った「おかげ様で、私たちは大いに平和を享受していますし、この民族の中でさまざまなすばらしい施策がなされています。
03 フェリクス閣下、私たちはあらゆる方面、すべての所でこのことを認めて、感謝しています。
04 話を長引かせないように、手短かに申し上げます。なにとぞ、ご辛抱いただいてお聞きください。
05 私たちが調べたところ、この男は伝染病のような者で、世界中のユダヤ人すべての間で暴動を扇動するナザレ人たちの異端の首謀者です。
06 彼が神殿さえも汚そうとしたので、私たちは彼を逮捕しました。
07 ……(権威のある古写本にはない)
08 …… ご自身で彼をお取り調べになれば、私たちが彼を訴えている事柄すべてをお確かめいただけるでしょう」

09 ユダヤ人たちもこの非難に賛成し、それらは事実だと主張した。

【パウロの弁明】

10 総督が、彼に話すよう合図した。パウロは答えた「私は、あなたが長年この民族を裁いてきたことを知っています。だから、喜んで自分の弁明をします。

11 調べればお分かりいただけることですが、礼拝のためにエルサレムへ上って来てから、まだ十二日しかたっていません。
12 彼らは、私が誰かと論争したり、群衆を扇動したりするのを、神殿でも会堂でも都の中でも見たことがないでしょう。
13 彼らは、今私を告訴している事柄について、あなたに証明することができないのです。

14 しかし、あなたの前でこのことは認めます。私は、彼らが異端と呼んでいる道に従って、私たちの父祖たちの神に仕えています。律法に書かれていることと、預言者たちが書いたことのすべて信じています。
15 死んだ者たちの中から、正しい者も正しくない者も復活するという希望を、神に対して抱いています。これは、彼ら自身も待ち望んでいることです。
16 そのために、私自身も、神と人に対して責められるところのない良心をもてるように、いつも努力しているのです。

17 私は、自分の民族に施しをし、また供え物をするために、数年ぶりに戻って来ました。
18 そして、暴徒もいなければ騒動もない神殿で、清めをしいるところを、アジアから来たユダヤ人たちに見られたのです。
19 もしも、私を非難することがあるのであれば、彼らがあなたの前に出て告発すべきでした。
20 さもなければ、衆議会員の前に立っていたとき、彼らが私にどんな不当な点を見いだしたかを、ここにいる人々が述べるべきです。
21 彼らの中で立っていたときに『死んだ者たちの復活のことで、私は今日あなたたちの前で裁かれているのです!』と叫んだだけなのです」

【パウロの言葉にフェリクスは恐れを抱いた】

22 しかしフェリクスは、この道についてかなり正確な知識を持っていたので「司令官リュシアが来たときに、お前たちの件を裁決することにしよう」と言って、裁判を延期した。
23 百人隊長にパウロを監禁するように命じるとともに、ある程度の特典を与え、友人たちが彼の世話をしたり訪問することを許した。

24 数日後、フェリクスはユダヤ人の妻であるドルシラと一緒に来て、パウロを呼び出した。そして、彼からキリスト=イエスに関する信仰のことを聞いた。
25 パウロが、義と自制と未来の審判について論じていると、フェリクスは恐ろしくなって言った「今回は帰ってよい。都合のよいときがあったら、また呼ぼう」
:26 一方では、パウロから釈放に対する金をもらうことも望んでいた。それで、彼をさらに何度も呼び出して、彼と話し合っていたのである。

27 二年間が満ちると、フェリクスの後任としてポルキウス=フェストが就いたが、フェリクスはユダヤ人たちの好意を得ようとして、パウロを監禁したままにしておいた。


第二十五章


【パウロがカエサルに上訴する】

01 フェストは任地に着いて三日後、カイザリアからエルサレムに行った。
02 大祭司やユダヤ人たちのおもだった人々が、フェストにパウロを告発して頼んだ。
03 自分たちに好意を示して、彼をエルサレムに呼び出してくれるよう求めたのである。なぜならば、彼を途中で殺すことを企てていたからである。
04 フェストは、パウロはカイザリアに留置されているべきであり、自分も間もなくそこへ帰ることになっていると答えた。
05 そして、「だから、お前たちの有力者たちが、私とともに行き、あの男に不正があれば、彼を告訴すればよい」と言った。

06 フェストは、さらに十日ばかり過ごしてから、カイザリアに行き、次の日に裁判を開いて、パウロを引き出すよう命じた。
07 パウロが現われると、エルサレムから来たユダヤ人たちは、取り囲んで多くの罪状を彼に言い立てたが、それを証明することはできなかった。
08 パウロは、弁明をして言った「私は、ユダヤ人たちの律法に対しても、神殿に対しても、カエサルに対しても罪を犯していません」

09 フェストは、ユダヤ人たちの好意を得ようとして言った「お前はエルサレムに行って、そこでこうした事柄について私から裁判を受けたいと思うか?」

10 パウロは、言った「私はカエサルの法廷に立っており、そこで裁判を受けるのが当然です。あなたもよくご承知のとおり、私はユダヤ人たちに対して何の不正も働いていません。
11 もしも私が不正を働き、死に値する罪を犯したのであれば、死を拒みません。しかし、彼らが私を訴える事柄がどれ一つ本当でないなら、誰も私を彼らに引き渡すことはできません。私は、カエサルに上訴します!」
12 フェストは、陪席の者たちと協議して答えた「お前はカエサルに上訴した。カエサルのもとに出頭せよ」

【アグリッパ王の到着】

13 何日かたって、アグリッパ王とベルニケがカイザリアに到着して、フェストを表敬訪問した。
14 彼らが幾日もそこに滞在したので、フェストはパウロの件を持ち出して言った「ここに、フェリクスが囚人として残した一人の男がいます。
15 この者については、私がエルサレムにいたときに、祭司長たちやユダヤ人の長老たちが彼に対する有罪の判決を求めて、私に告発をしました。
16 私は彼らに、被告人が告訴人たちに面と向かって、自分に着せられた事柄について弁明する機会が与えられないうちに、これを先に渡すというのは、ローマ人の慣習ではないと答えました。

17 それで、彼らがここに集まったとき、私は時を移さず、翌日に裁きの座に着き、この男を引き出すよう命じました。
18 告訴人たちは出廷しましたが、彼らは私が思っていたような罪状を提示できませんでした。
19 彼らの論争点は、彼ら自身の宗教に関することや、死んでしまったイエスに関することで、このイエスが生きているとパウロは主張しているのです。
20 こうした事柄をどう審理すればいいのかわからないので、エルサレムに行って、そこで裁判を受ける気があるかどうかを尋ねました。
21 ところがパウロは、皇帝の判決を受けるまでここにとどめて欲しいと上訴ました。そこで、カエサルのもとに送るまで留置しておくように命じました」

22 アグリッパはフェストに言った「私も、その男の言うことを聞いてみたいものです」 彼は言った「明日、お聞きになれます」

23 翌日、アグリッパとベルニケがきらびやかに装って到着し、司令官たちや町の主(おも)だった者たちとともに謁見の場所に入った。そして、フェストの命令により、パウロが引き出された。
24 フェストが言った「アグリッパ王、ならびにご出席の皆さん、ユダヤ人たちが皆、エルサレムでもここでも、これ以上生かしておいてはならないと叫んで、私に陳情してきたのは、ご覧になっているこの男です。
25 彼が死に値する罪を犯していないことが私には分かりました。しかし、彼自身が皇帝に上訴したので、彼を送り届けることに決めたのです。
26 私には、彼について主君に書き送ることが何もありません。そのため、彼をあなたたちの前、とりわけアグリッパ王よ、あなたの前に引き出したのです。取り調べた後で、何か書くべきことを得たいのです。
27 なぜならば、囚人を送り届けるのに、その者に対する罪状を示さないというのは、道理に合わないことに思うからです」


第二十六章


【アグリッパ王との説教問答】

01 アグリッパは、パウロに言った「自分を弁明するために、話してもよろしい」 そこで、パウロは手を伸ばして弁明を始めた。
02 「アグリッパ王、私がユダヤ人たちから訴えられている事柄について、今日、あなたの前で弁明できることをうれしく思います。
03 とりわけ、あなたはユダヤ人の慣習や問題をよくご存じだからです。ご辛抱をいただいて、私の言うことに耳を傾けていただけるようお願いします。

04 「実に、私が自分の民族の間やエルサレムで初めからしてきた、若いころからの生き方については、すべてのユダヤ人たちが知っていることです。
05 彼らは、最初から私を知っています。私が、私たちの宗教の中で最も厳格な派に従って、パリサイ人として生活していたことを証言できるのです。
06 そして今、私がここに立って裁かれているのは、神が私たちの父祖たちにされた約束に対する希望のためなのです。
07 それは、私たちの十二部族が、夜も昼も熱烈に仕えて、実現を望んでいることです。この希望のことで、私はユダヤ人たちから訴えられているのです、アグリッパ王よ!
08 神が死んだ者たちを起こされることを、なぜあなたたちは信じられないと言うのでしょうか?

【かつてイエスに反対した】

09 「私自身、かつてナザレのイエスに反対して、多くのことをするべきだと考えていました。
10 そして、それをエルサレムで実行したのです。私は祭司長たちから権限を受けて、大勢の聖徒たちを牢屋に閉じ込め、彼らの死を決めるときには、彼らに不利な票を投じました。
11 あらゆる会堂で、何度も彼らを罰して、冒涜(ぼうとく)させようとしました。激しく怒り狂い、外国の町々に行ってまで、彼らを迫害したのです。

12 「このようにして、祭司長たちからの権限と委任とをもって、ダマスコに旅をしていたときのことです。
13 その途上で、真昼に、天からの光を見たのです。それは太陽よりも明るく輝き、私や一緒に旅をしていた人々の周りを照らしました。

【天からイエスの声を聞く】

14 私たちは、地に倒れました。私は『サウロ、サウロ、なぜ私を迫害するのか。突き棒をけるのはあなたにとってつらいことだ』とヘブライ語で自分に言う声を聞きました。

15 私は、言いました『主よ、あなたはどなたですか?』
 その方は、言いました『私はイエス、あなたが迫害している者。
16 起き上がって、自分の足で立ちなさい。私があなたに現われたのは、あなたが見た事柄と、私があなたに示そうとする事柄について、あなたを召使いまた証人に任命するためです。
17 私は、あなたをこの民と異邦人たちの中から救い出し、改めて彼らのところに遣わします。
18 彼らの目を開いて、彼らを闇から光へ、サタンの権力から神のもとへと立ち返らせなさい。彼らが、私に対する信仰によって、罪の許しを受け、聖別された人々とともに、遺産を受けるようになるためです』

19 「そのようなわけで、アグリッパ王よ、私は天からの幻に背きませんでした。
20 ダマスコの人々から始め、エルサレムやユダヤ地方全域で、さらには異邦人たちにまで、悔い改めて神に立ち返り、悔い改めにふさわしい業を行なうように伝えました。
21 そうした理由で、ユダヤ人たちは私を神殿で捕らえて、殺そうとしたのです。
22 私は神からの助けを得て、今日まで変わらずに、小さな者にも大きな者にも証言し、預言者たちとモーセとが必ず起こると語ったことだけを述べてきました。
23 つまり、キリストが苦しみを受けなければならないこと、また、彼が復活において最初の者となり、民にも異邦人たちにも光を告げるということです」

【フェストとの問答とアグリッパ王への問い】

24 彼がこのように弁明していると、フェストは大声で言った「パウロ、お前は気が狂っている! 博学が、お前を狂わせたのだ!」

25 パウロは、言った「私は、気が狂ってはいません。フェスト閣下、真実で理性的な言葉をお伝えしているのです。
26 王はこれらの事をよくご存じですから、王に対しても、私は率直に申し上げています。これらの事は、片隅で行なわれたのではないので、王から隠されている事は何一つないと確信しています。
27 アグリッパ王よ、預言者を信じておられますか? 信じておられることを、私は知っています」

28 アグリッパはパウロに言った「お前はわずかな説得で、私をクリスチャンにしようというのか?」

29 パウロは言った「わずかであろうと、多くであろうと、私が神に祈るのは、あなただけでなく、今日私の言葉を聞いているすべての方にも、この鎖は別として、私のようになっていただきたいと願っているからです」

30 王、および総督、ベルニケ、そして彼らとともに座っていた者たちは立ち上がった。
31 彼らは退場してから、互いに語り合って言った「あの男は、死や鎖に値することを何もしていない」
32 アグリッパは、フェストに言った「もしカエサルに上訴していなかったなら、あの男は釈放されただろうに」


第二十七章


【イタリアへ出航する】

01 イタリアに向かって渡航することが決まったので、パウロと他の囚人たちを、ユリウスというアウグストゥスの部隊の百人隊長に引き渡した。
02 私たちは、アジア沿岸のあちこちに寄っていくアドラミティオの船に乗り込んで出航した。テサロニケのマケドニア人アリスタルコも、私たちとともにいた。
03 翌日、シドンに寄港した。ユリウスはパウロを親切に扱い、友人たちのところに行って休憩することを許可した。

04 私たちは出航したが、逆風だったので、キプロスの島陰を航行した。
05 キリキアやパンフィリアの沖を航海して、リュキアの町ミュラに着いた。
06 ここで百人隊長は、イタリアに向けて航行しているアレクサンドリアの船を見つけて、私たちを乗り込ませた。
07 私たちは、何日もの間ゆっくりと航海を続け、やっとクニドス沖まで来たが、風が私たちの進路を阻んだ。そこで、サルモネ沖を通って、クレタの島陰を航行した。
08 その島に沿って何とか航行し、ラセアの町に近い「美しい港」に着いた。

09 だいぶ時が経過しており、すでに断食が過ぎていた。もはや、航海が危険であったので、パウロは人々に忠告した。
10 彼らに、言った「皆さん、私の見るところでは、この航海は積み荷や船体ばかりでなく、私たちの命にまで損傷や多大な損失をもたらすでしょう」
11 百人隊長は、パウロの言ったことよりも、船長や船主のほうを信じた。
12 この港は冬を越すのに適していなかったので、大多数の者は海に出て、何とかしてフェニクスまで行き、そこで冬を越すようにと勧めた。そこは、北東と南東に面しているクレタの港町である。

【大暴風にあって遭難する】

13 穏やかな南風が吹いてきたので、計画通りにいくと思った。そこで錨を上げ、クレタの海岸に沿って航行した。
14 間もなく、ユーラキュロンと呼ばれる大暴風が、陸のほうから吹き下ろしてきた。
15 船は巻き込まれて、風に向かって進むことができなくなった。私たちは、流されるままに任せた。
16 クラウダと呼ばれる小島の陰を通ったので、何とかして小舟をつなぎ留めることができた。
17 人々はそれを引き上げてから、太綱を用いて船体を補強した。シュルティスの砂州に乗り上げるのを恐れ、錨を降ろし流されるままとなった。

18 嵐に激しく揺られたので、翌日、人々は荷物を海に投げ込み始めた。
19 三日目には、船具さえを自分たちの手で投げ捨てた。
20 何日もの間、太陽も星も私たちの上に輝かなかった。激しい大嵐が私たちの上に荒れ狂い、助かる望みはついに消え失せた。

【パウロは皆を励ました】

21 人々は長い間、食事を取っていなかった。パウロは彼らの真ん中に立ち、言った「皆さん、あなたたちは私の言葉を聞き入れて、クレタから出航せず、このような損傷や損失を被らないようにするべきでした。
22 しかし今となっては、あなたたちに元気を出すように勧めます。船は失いますが、あなたたちのうちで命を失う者はいないでしょう。
23 私が身をささげて仕えている神からの天使が、昨夜私のそばに立って言いました。
24 『パウロよ、恐れるな。あなたは、カエサルの前に立たなければならない。神は、あなたとともに航海しているすべての者を、あなたに授けられたのだ』
25 皆さん、元気を出しなさい! 私は、神を信じているからです。私に語られたことは、その通りになると。
26 それで、私たちは必ずどこかの島に打ち上げられることになるでしょう」

【島に近づいたが船員たちが逃げだそうとした】

27 十四日目の夜になって、私たちがアドリア海を漂流していると、真夜中ごろ船員たちは、自分たちが島に近づいていると感づいた。
28 水深を測ってみると、二十ひろであった。少し進んだ後、もう一度測ってみると、十五ひろだった。
29 岩場に私たちが乗り上げることを恐れ、人々は船尾から四つの錨を降ろし、夜明けを待ち望んだ。

30 船員たちが船から逃げ出そうとして、船首から錨を降ろすふりをして、小舟を海に降ろしていた。
31 パウロは百人隊長や兵士たちに言った「あの人たちが船にいなければ、あなたたちは助かりません」
32 そこで兵士たちは綱を断ち切って、小舟を下に落とした。

【パウロは皆に食事をすすめた】

33 夜明けごろ、パウロは皆に食事を取るよう言った「あなたたちはずっと待っていて、食事もせず、何も取らずに、今日で十四日目になります。
34 私は、あなたたちに食事を取るよう懇願します。あなたたちの安全のためです。あなたたちのうちのどの頭からも、髪の毛一本さえ失うことはないからです」
35 こう言ってから、パンを取り、皆の前で神に感謝をささげてから、それを裂いて食べ始めた。
36 皆も元気づき、食事を取った。
37 私たち船にいた魂は、合計二百七十六人であった。
38 人々は十分に食べてから、小麦を海に投げ込んで船を軽くした。

【乗り上げた舟から全員が無事に陸に着いた】

39 朝になると、陸地は分からなかったが、浜辺のある入り江があって、そこに船を乗り入れることにした。
40 錨を捨てて海に沈め、同時に舵(かじ)の綱をほどいた。すると、風に船首の帆をあげて、浜辺に向かって進んだ。
41 ところが、二つの海に挟まれた所に来ると、船はそこに乗り上げてしまった。船首はめり込んで動かなくなり、船尾は激しい波で壊れ始めた。

42 兵士たちは囚人たちを殺して、誰も泳いで逃げることのないようにしようと相談した。
43 しかし、百人隊長はパウロを助けたいと思い、その計画を妨げた。そして、泳げる者が船から飛び込んで、陸に向かうようにと命じた。
44 残りの者は、厚板や他の船からのものにつかまって来るようにと命じたので、皆が無事に陸に着いた。


第二十八章


【マルタ島に着陸】

01 私たちが島に着いたとき、この島がマルタと呼ばれていることを知った。
02 現地人たちは、私たちに並々ならない親切を示してくれた。雨が降り出して寒かったので、焚き火をして全員を迎えてくれたのである。
03 パウロが一束の木切れを集めて火にくべていると、熱気のために一匹のマムシが出て来て、彼の手に絡みついた。
04 現地人たちは、彼の手からぶら下がっている生き物を見ると、互いに言った「きっとこの男は人殺しだ。海からは逃れたが、正義が彼を生かしておかないのだ」
05 ところが、彼はその生き物を火の中に振り落とし、何の害も受けなかった。
06 彼らは、パウロが腫れ上がるか、急に倒れて死ぬだろうと思った。長いあいだ様子を見ても、彼に何も起こらないので、彼らは考えを変えた。そして、彼のことを神だと言った。

07 この場所の近くに、島の長官でプブリオという人の所有地があった。彼は私たちを迎えて、三日の間、手厚くもてなしてくれた。
08 プブリオの父が、熱病と赤痢で床についていた。パウロは、彼のところに行って祈り、両手を彼の上に置いて癒した。
09 このことがあって後、その島で他に疾患のある人たちもやって来て、パウロに治してもらった。
10 彼らは、私たちに数々の敬意を示した。そして、出航の時には必要な物をいろいろと積み込んでくれた。

【マルタ島からローマに向かう】

11 三か月後、私たちは、この島で冬を越したアレクサンドリアの船に乗って出航した。この船は「双子の兄弟」を船首のの保護神としていた。
12 私たちはシュラクサに寄港し、そこで三日間滞在した。
13 そこからずっと回って、レギウムに着いた。一日たつと、南風が起こったので、二日でポテオリにやって来た。
14 ここで兄弟たちを見つけ、請われるままに七日間滞在した。こうして、私たちはローマに着いたのである。
15 兄弟たちが私たちのことを聞いて、ローマから「アピウスの市場」と「三軒宿」まで迎えに来てくれた。パウロは彼らを見て、神に感謝し、力付けられた。

【ローマにおけるパウロの活躍】

16 私たちがローマに入ったとき、百人隊長は囚人たちを守備隊長に引き渡したが、パウロは一人の番兵を付けられ、別な住まいで住むことを許された。

17 三日後、パウロはユダヤ人の指導者たちを招いた。彼らが集まったとき、彼は言った「兄弟たち、私は民に対しても、私たちの父祖たちの慣習に対しても、何一つ背くことはしていないのに、エルサレムから囚人としてローマ人たちの手に引き渡されてしまいました。
18 彼らは取り調べたのち、死刑にする理由が何もなかったので、私を釈放しようと思いました。
19 しかし、ユダヤ人たちが反対したので、私はやむを得ずカエサルに上訴したのです。決して自分の民族を訴えようとしたのではありません。
20 このようなわけで、あなたたちに会って話し合いたいとお願いしたのです。私は、イスラエルの希望のために鎖に繋(つな)がれているからです」

21 彼らは言った「私たちはあなたについて、ユダヤから何の手紙も受け取っていないし、ここに来た兄弟たちの誰かが、あなたについて悪いことを報告したり、話したりしているわけでもない。
22 だから、あなたが考えていることをあなた自身から聞きたいと思う。この異端については、至る所で反対されていることが、私たちに知れているのだから」

【パウロの宿舎での説教】

23 彼らは日を取り決めて、大勢で宿舎にやって来た。パウロは、朝から晩まで説教を続け、神の王国について証言し、モーセの律法と預言者たちとの中からイエスについて彼らに告げた。

24 ある者はパウロの話を信じたが、ある者は信じようとしなかった。
25 彼らが互いに意見の一致を見ないままに立ち去ろうとしたとき、パウロは言った「聖霊は預言者イザヤを通して、私たちの父祖たちに正確に語っています。
26 『この民のところに行って告げよ、あなたたちは聞くには聞くが、決して理解しないだろう。見るには見るが、決して分からないだろう。
27 この民の心は無感覚になり、耳は聞くことに鈍くなり、目は閉じてしまった。それは、彼らが目で見、耳で聞き、心で理解し、こうして立ち返って、私が彼らをいやす、ということのないためだ』

28 ですから、あなたたちは知っておいてください。神のこの救いは、異邦人たちに送られたのです。彼らも聞き従うでしょう」
29 彼がこれらの言葉を語ると、ユダヤ人たちは大いに論じ合いながら立ち去った。

30 パウロは、自分の借りた家にまる二年間住んで、自分のもとに来る人たちをみな迎え入れた。
31 神の王国を告げ、あらん限りの大胆さをもって、妨げられることなく、主イエス=キリストに関する事柄を教え続けたのである。


Kuroda Kouta (2005.11.11/2007.02.13)