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本文の訳注と 覚えページ

 旧約聖書から抜粋(1)



1 創世の書(Genesis・創世記)全


第一章


【天地創造の歴史(最初の六日間)】

01 神は、「天」と「地」を創造した。始まりである。
02 「地」は混沌として、闇が深みを覆い、霊(れい)が水面に漂っていた。
03 神は、言った〈光あれ。〉 すると、光があった。
04 神は光を見て、OKとした。神は、光と闇を分けた。
05 そして、光を「昼」、闇を「夜」と呼んだ。夕べがきて、朝になる。第一日。

06 神は、言った〈水の中に空があれ。水と水とを分けよ。〉
07 神は「空」を造り、空の下と上に水を分けた。そのようになった。
08 神は、空を「天」と呼んだ。夕べがきて、朝になる。第二日。

09 神は、言った〈天の下の水は、一箇所に集まれ。乾いた所が現れよ。〉 そのようになった。
10 神は乾いた所を「地」と呼び、水の集まった所を「海」と呼んだ。神はこれを見て、OKとした。
11 神は、言った〈地は草を芽生えよ。種を持つ草と、実をつける果樹を、地に芽生えさせよ。〉 そのようになった。
12 地は「草」を芽生えさせ、草と実をつける「木」を芽生えさせた。神はこれを見て、OKとした。
13 夕べがきて、朝になる。第三日。

14 神は言った〈天の大空に光る物。昼と夜を分け、季節を作り、日や年の区別となれ。
15 天の大空に光る物があって、地を照らせ。〉 そのようになった。
16 神は二つの大きな光る物と星を造り、大きな方に昼を、小さな方に夜を治めさせた。
17 神はそれらを天の大空に置いて、地を照らさせた。
18 そして、昼と夜を治めさせ、光と闇を分けた。神はこれを見て、OKとした。
19 夕べがきて、朝になる。第四日。

20 神は言った〈生き物は、水の中に群がれ。鳥は地上、天空の面を飛べ。〉
:21 神は水に群がるもの、すなわち大きな怪物、うごめく生き物、翼ある鳥をそれぞれ創造した。神はこれを見て、OKとした。
22 神はそれらを祝福して言った〈産めよ、増えよ、海の水に満ちよ。鳥は地の上に増えよ〉
23 夕べがきて、朝になる。第五日。

24 神は言った〈地は、それぞれの生き物を産み出せ。家畜、這うもの、地の獣を産め〉 そのようになった。
25 神はそれぞれの「地の獣」「家畜」「土を這うもの」を造られた。神はこれを見て、OKとした。

26 神は言った〈私たちにかたどり、私たちに似せて、人を造ろう。そして海の魚、空の鳥、家畜、地の獣、地を這うものすべてを支配させよう〉
27 神はご自分にかたどって「人」を創造した。さらに、神をかたどって、「男」と「女」を創造した。
28 神は彼らを祝福して言った。〈産めよ、増えよ、地に満ちて支配せよ。海の魚、空の鳥、地の上を這う生き物をすべて支配せよ〉

29 神は言った〈全地に生える種を持つ草と実をつける木を、すべてあなたたちに与えよう。それがあなたたちの食べ物となる。
30 地の獣、空の鳥、地を這うものなど、すべて命あるものにはあらゆる青草を食べさせよう〉 そのようになった。
31 神は創ったすべてのものを眺めた。それらは非常に良かった。夕べがきて、朝になる。第六日。


第二章


【天地創造の歴史(第七日=安息)】

01 天地の万物は完成した。
02 第七日には、神はご自分の仕事を完成したので、仕事を離れて安息した。
03 神がすべての創造の仕事を離れ、安息をしたので、この第七日を祝福して、聖別した。
04 以上が、「天地創造の由来」である。

【人間の創造】

-- 神が、地と天を造ったときのこと。
05 地上の野には、まだ木も草も生えていなかった。神が地上に雨を送らなかったからである。また、土を耕す人もいなかった。
06 しかし、水が地下から湧き出て、土の面をすべて潤した。
07 神は、アダマ(=土)の塵でアダム(=人)を形づくり、その鼻に命の息を吹き入れた。「人」は、こうして生き物となる。

08 神は、東の方のエデンに園を設け、人をそこに置いた。
09 神は、見るからに好ましく食べるに良いものを実らす木を地に生えさせ、園の中央には「命の木」と「善悪の知識の木」を生えさせた。
10 エデンから、一つの川が流れ出ていた。園を潤し、分かれて四つの川となった。
11 第一の川は、ピション。金を産出するハビラ地方全域を巡っていた。
12 その金は良質で、琥珀の類やラピス・ラズリも産出した。
13 第二の川は、ギホン。クシュ地方全域を巡っていた。
14 第三の川は、チグリス。アシュルの東の方を流れた。
 第四の川は、ユーフラテス。

15 神は人を連れて来て、エデンの園に住まわせた。そして、人は耕し、そこを守った。
16 神は人に命じて言った〈園のすべての木から取って食べなさい。
17 ただし、善悪の知識の木からは、決して食べてはならない。食べると必ず死んでしまう〉
18 〈人が一人でいるのは良くない。彼に助け合う者を造ろう〉

19 神は、野のあらゆる獣、空のあらゆる鳥を土で形づくり、人のところへ持って来た。そして、人がそれぞれをどう呼ぶか見ていた。人が呼ぶと、それはすべて、生き物の名となった。
20 人はあらゆる家畜、空の鳥、野の獣に名を付けた。しかし、自分に合う助ける者は見つけることができなかった。
21 神は、そこで人を深い眠りに落とした。人が眠り込むと、あばら骨の一部を抜き取り、その跡を肉でふさいだ。
22 そして、人から抜き取ったあばら骨で「女」を造り上げた。神は、彼女を人のところへ連れて来た。

23 すると、人は言った。
 「これこそ、私の骨の骨、私の肉の肉。これを、女(=イシャー)と呼ぼう。男(=イシュ)から取られたものだから」

24 こういうわけで、男は父母を離れて女と結ばれ、二人は一体となる。
25 男と女は裸であったが、恥ずかしいとは思わなかった。


第三章


【人間の最初の罪】

01 神が造った野の生き物のうちで、最も賢いのは蛇だった。蛇は、女に言った「園のどの木からも食べてはいけないと神は言ったのか?」
02 女は蛇に答えた「私たちは、園の木の果実を食べてもよいのです。
03 でも、園の中央に生えている木の果実だけは食べてはいけない、触れてもいけない、死んでしまう、と神はおっしゃいました」
04 蛇は、女に言った「決して死ぬことはない。
05 それを食べると、目が開け、神のように善悪を知るものとなることを神はご存じなのだ」

06 女がみると、その木はいかにもおいしそうで、目を引き付け、賢くなるように見えた。そこで、女は実を取って食べ、一緒にいた男にも渡したの。そこで、彼も食べた。
07 二人の目は開け、自分たちが裸であることを知った。二人は、いちじくの葉をつづり合わせ、腰を覆った。

08 その日、風の吹くころ、神が園の中を歩く音が聞こえてきた。アダムと女は、神の顔を避けて、園の木の間に隠れた。
09 すると、神はアダムを呼んだ〈どこにいるのか?〉
10 アダムは答えた「あなたの足音が園の中に聞こえたので、恐ろしくなり、隠れております。私は裸ですから」
11 神は言った〈お前が裸であることを誰が告げたのか。取って食べるなと命じた木から食べたのか?〉
12 アダムは答えた「あなたが私と共にいるようにしてくれた女が、木から取って与えたので、食べたのです」
13 神は、女に向かって言った〈何ということをしたのか!〉 女は答えた「蛇が言ったので、食べてしまいました」

14 神は、蛇に向かって言った。
 〈このようなことをしたお前は、あらゆる家畜、あらゆる野の獣の中で呪われるものとなった。 お前は、生涯這いまわり、塵を食らう。
15 お前と女、お前の子孫と女の子孫の間に私は敵意を置く。彼らはお前の頭を砕き、お前は彼らのかかとを砕く〉

16 神は、女に向かって言った。
 〈お前の孕(はら)みの苦しみを大きくする。お前は、苦しんで子を産む。お前は男を求め、男はお前を支配する〉

17 神はアダムに言った。
 〈お前は女に従い、取って食べるなと命じた木から食べた。お前のゆえに、土は呪われるものとなった。お前は、生涯食べ物を得るために苦しむ。
18 野の草を食べようとするお前に、土は茨とあざみを生えさせる。
:19 土に返るときまで、お前は顔に汗を流してパンを得る。お前がそこから取られた土に。塵にすぎないお前は塵に返る〉

20 アダムは、女をエバ(=命)と名付けた。彼女が、すべて命あるものの母となったからである。

21 神は、アダムと女に皮の衣を着せられた。
:22 神は言った〈人は私たちのように、善悪を知る者となった。今は、手を伸ばして命の木からも取って食べ、永遠に生きる者となる恐れがある〉
23 神は、彼らをエデンの園から追い出し、自分がそこから作られた土を耕させることにした。
24 こうしてアダムたちを追放し、命の木に至る道を守るために、エデンの園の東にケルビムと輝く剣の炎を置いた。


第四章


【カインとアベル】

01 アダムは、妻エバを知った。妻は身ごもって、カインを産み「私は、神によって男子を得た」と言った。
02 そして、弟のアベルも産んだ。アベルは羊を飼い、カインは土を耕した。

03 しばらくして、カインは土からの実りを神のもとに供え物として持って来た。
04 アベルは、羊の群れの中から肥えた初子(ういご)を持って来た。神は、アベルとその供え物に目を留めた。
05 しかし、カインとその供え物には、目を留めなかった。カインは激しく怒って、顔を伏せた。

06 神は、カインに言った「どうして怒るのか。どうして顔を伏せるのか?
07 お前が正しいのなら、顔を上げられるはずではないか? 正しくないなら、罪が待ち伏せており、お前を探し求める。お前は、それを支配しなくてはならない」

08 その後、カインは出かけようとアベルに言葉をかけ、二人が野原に着いたとき、カインは弟を襲って殺した。

09 神は、カインに言った「お前の弟アベルは、どこにいるのか?」 カインは答えた「知りません。私は弟の番人でありません」
10 神は、言った「何ということをしたのか。お前の弟の血が、土の中から私に向かって叫んでいる。
11 お前は、呪われる者となった。お前が流した弟の血を飲み込んだ土よりも、なおお前は呪われる。
12 土を耕しても、土はもはやお前のために作物を産み出すことはない。お前は地上をさまよい、さすらう者となる」

13 カインは、神に言った「私の罪は重すぎて負いきれません。
14 私が、この土地から追放されて、あなたの顔から隠されてしまい、地上をさ迷って、さすらう者となってしまえば、私に出会う者は、きっと私を殺すでしょう」
15 神は、カインに言った「いや、お前を殺す者は、誰でも七倍の復讐を受けるであろう」 神はカインに出会う者が誰も彼を撃つことのないように、カインにしるしを付けた。

16 カインは神の前を去り、エデンの東、ノド(=さすらい)の地に住んだ。

【カインの子孫】

17 カインは、妻を知った。彼女は身ごもって、エノクを産んだ。カインは町を建てていたが、その町を息子の名前にちなんで、エノクと名付けた。
18 エノクには、イラドが生まれた。イラドはメフヤエルの父となり、メフヤエルはメトシャエルの父となり、メトシャエルはレメクの父となった。
19 レメクは、二人の妻をめとった。一人はアダ、もう一人はツィラ。
20 アダは、ヤバルを産んだ。ヤバルは、家畜を飼い天幕に住む者の先祖となった。
21 その弟はユバルといい、竪琴や笛を奏でる者の先祖となった。
22 ツィラもまた、トバル=カインを産んだ。彼は青銅や鉄で、種々の道具を作る者となった。トバル=カインの妹は、ナアマといった。

23 さて、レメクは妻二人に言った。
 「アダとツィラよ、私の声を聞け。レメクの妻たちよ、私の言葉に耳を傾けよ。
 私は傷の報いに男を殺し、打ち傷の報いに若者を殺す。
24 カインのための復讐が七倍なら、レメクのためには七十七倍」

【セトの子孫】

25 再び、アダムは妻を知った。妻は男の子を産み、セトと名付けた。
 「カインがアベルを殺したので、神がアベルに代わる子を授けてくれた」
26 セトにも男の子が生まれた。彼は、その子をエノクと名付けた。人々が神の名を呼び始めたのは、この時代からである。


第五章


【大洪水以前】

01 アダムの系図は次のとおり。神は人を創造したときに、神に似せて人を造った。
02 男と女を創造した。創造の日に、彼らを祝福して、人と名付けた。
03 アダムは百三十歳になったとき、自分に似た男の子をもうけた。アダムは、その子をセトと名付けた。
04 アダムは、セトが生まれた後八百年生きて、息子や娘をもうけた。
:05 アダムは九百三十年生き、そして死んだ。

06 セトは百五歳になったとき、エノクをもうけた。
07 セトは、エノクが生まれた後八百七年生きて、息子や娘をもうけた。
08 セトは九百十二年生き、そして死んだ。

09 エノクは九十歳になったとき、ケナンをもうけた。
10 エノクは、ケナンが生まれた後八百十五年生きて、息子や娘をもうけた。
11 エノクは九百五年生き、そして死んだ。

12 ケナンは七十歳になったとき、マハラルエルをもうけた。
13 ケナンは、マハラルエルが生まれた後八百四十年生きて、息子や娘をもうけた。
14 ケナンは九百十年生き、そして死んだ。

15 マハラルエルは六十五歳になったとき、エレドをもうけた。
16 マハラルエルは、エレドが生まれた後八百三十年生きて、息子や娘をもうけた。
17 マハラルエルは八百九十五年生き、そして死んだ。

18 エレドは百六十二歳になったとき、エノクをもうけた。
19 エレドは、エノクが生まれた後八百年生きて、息子や娘をもうけた。
20 エレドは九百六十二年生き、そして死んだ。

21 エノクは六十五歳になったとき、メトセラをもうけた。
22 エノクは、メトセラが生まれた後、三百年神と共に歩み、息子や娘をもうけた。
23 エノクは三百六十五年生きた。
24 エノクは神と共に歩み、神が取られたのでいなくなった。

25 メトセラは百八十七歳になったとき、レメクをもうけた。
:26 メトセラは、レメクが生まれた後七百八十二年生きて、息子や娘をもうけた。
27 メトセラは九百六十九年生き、そして死んだ。

28 レメクは百八十二歳になったとき、男の子をもうけた。
29 彼は「神の呪いを受けた大地で働く私たちの手の苦労を、この子は慰めてくれるであろう」と言って、その子をノア(=慰め)と名付けた。
30 レメクは、ノアが生まれた後五百九十五年生きて、息子や娘をもうけた。
31 レメクは七百七十七年生き、そして死んだ。

:32 ノアは五百歳になったとき、セム・ハム・ヤヘトをもうけた。


第六章


【神の子たちと人間の娘たち】

01 地上には人が増え始め、娘たちが生まれた。
02 神の子らは、人の娘たちが美しいのを見て、おのおの選んで妻にした。
:03 神は言った「私の霊は人の中に永久に止まるべきではない。人は肉にすぎないのだから」 こうして、人の一生は百二十年となった。

:04 当時から、地上にはネフィリム(=巨人)がいた。これは、神の子らが人の娘たちに産ませた者であり、大昔の名高い英雄たちであった。

【人間の堕落】

05 神は、地上に人の悪が増し、常に悪いことばかりを心に思っているのを見た。
06 そして、地上に人を造ったことを後悔して、心を痛めた。

07 神は言った「私は人を創造したが、これを地上から消し去ろう。人だけでなく、家畜も這うものも空の鳥も。私は、これらを造ったことを後悔する」
08 しかし、ノアは神の好意を得た。

【ノアの物語の始まり】

09 これは、ノアの物語。その世代の中で、ノアは神に従う無垢な人であった。ノアは、神と共に歩んだ。
10 ノアには三人の息子、セム・ハム・ヤヘトが生まれた。

11 この地は、神の前に堕落し、不法に満ちていた。
12 神は、地をご覧になった。見ると、そこは堕落して、肉なる者すべて、この地で悪い道を歩んでいた。

【箱船の製作】

13 神は、ノアに言った「すべて肉なるものを終わらせる時が、私の前に来ている。彼らのゆえに、不法が地に満ちている。私は、地もろとも彼らを滅ぼす。
14 あなたは、ゴフェルの木の箱舟を造りなさい。箱舟には小部屋を幾つも造り、内側も外側もタールを塗りなさい。
15 次のようにして、それを造りなさい。箱舟の長さを三百アンマ、幅を五十アンマ、高さを三十アンマ。
16 箱舟に明かり取りを造り、上から一アンマにして、それを仕上げなさい。箱舟の側面には、戸口を造りなさい。また、一階と二階と三階を造りなさい。

17 私は地上に洪水をもたらし、命の霊をもつすべて肉なるものを天の下から滅ぼす。地上のすべてのものは息絶える。
18 私は、あなたと契約を立てる。あなたは、妻子や嫁たちと共に箱舟に入りなさい。
19 また、すべて命あるもの、すべて肉なるものから、二つずつ箱舟に連れて入り、あなたと共に生き延びるようにしなさい。それらは、雄と雌でなければならない。
20 それぞれの鳥、それぞれの家畜、それぞれの地を這うものが、二つずつあなたのところへ来て、生き延びるようにしなさい。

21 さらに、食べられる物をすべて集め、あなたと彼らの食糧としなさい」
22 ノアは、すべて神が命じられたとおりに果たした。


第七章


【大洪水が近づく】

01 神は、ノアに言った「さあ、あなたとあなたの家族は皆、箱舟に入りなさい。この世であなただけが私に従う人だと、私は認めている。
02 あなたは、清い動物をすべて七つがいずつ取り、清くない動物もすべて一つがいずつ取りなさい。
03 空の鳥も七つがい取りなさい。地上で子孫が生き続けるように。
04 七日の後、私は四十日・四十夜地上に雨を降らせ、私が造ったすべての生き物を地の面からぬぐい去ることにした」
05 ノアは、すべて神が命じたとおりにした。

06 ノアが六百歳のとき、洪水が地上に起こり、水が地の上にみなぎった。
07 ノアは、妻子や嫁たちと共に洪水を免れようと箱舟に入った。
08 清い動物も清くない動物も、鳥も地を這うものもすべて、
09 二つずつ箱舟のノアのもとに来た。それは、神がノアに命じられたとおりに、雄と雌であった。

10 七日が過ぎて、洪水が地上に起こった。
11 ノアの生涯の第六百年、第二の月の十七日、この日、大いなる深淵の源がことごとく裂け、天の窓が開かれた。
12 雨が、四十日・四十夜地上に降り続いた。

【箱船に乗り込む】

13 この日、ノアも、息子のセム・ハム・ヤヘト・ノアの妻、その三人の息子の嫁たちも、箱舟に入った。
14 彼らと共に、それぞれの獣・家畜・地を這うもの・鳥や翼のあるものすべて。

15 命の霊をもつ肉なるものは、二つずつノアのもとに来て箱舟に入った。
16 神が命じられたとおりに、すべて肉なるものの雄と雌とが来た。神は、ノアの後ろで戸を閉ざした。

【大洪水】

17 洪水は、四十日間地上を覆った。水は次第に増して箱舟を押し上げ、箱舟は大地を離れて浮かんだ。
18 水は勢いを増し、地の上に大いにみなぎり、箱舟は水の面を漂った。
19 水は、ますます勢いを加えて地上にあふれ出て、天の下にある高い山はすべて覆われた。
20 水は勢いを増して、さらにその上十五アンマに達し、山々を覆った。

21 地上で動いていた肉なるものは、すべて鳥も家畜も獣も地に群がり這うものも人も、ことごとく息絶えた。
22 乾いた地のすべてのもののうち、その鼻から息をするものはことごとく死んだ。
23 地の面にいた生き物はすべて、人をはじめ、家畜、這うもの、空の鳥に至るまでぬぐい去られた。彼らは大地からぬぐい去られ、ノアと、彼と共に箱舟にいたものだけが残った。
24 水は百五十日の間、地上で勢いを失わなかった。


第八章


【大洪水のおわり】

01 神は、ノアと箱舟にいたすべての獣とすべての家畜を心に留め、地の上に風を吹かせたので、水が減り始めた。
02 また、深淵の源と天の窓が閉じられたので、天からの雨は降りやんだ。
03 水も地上から退いて行った。百五十日の後には水が減った。

04 第七の月の十七日に、箱舟はアララト山の上に止まった。
05 水はますます減って第十の月になり、第十の月の一日には山々の頂が現れた。

06 四十日たって、ノアは自分が造った箱舟の窓を開いた。
07 そして、烏を放した。烏は飛び立ったが、地上の水が乾くのを待って、出たり入ったりした。
08 ノアは、鳩を放して、地の面から水が退いたかどうかを確かめようとした。
09 しかし、鳩は止まる所が見つからなかったので、箱舟のノアのもとに帰って来た。水が、まだ全地の面を覆っていたからである。ノアは手を差し伸べて鳩を捕らえ、箱舟に戻した。

10 さらに七日待って、彼は再び鳩を箱舟から放した。
11 鳩は夕方になって、ノアのもとに帰って来た。鳩は、くちばしにオリーブの葉をくわえていた。ノアは、水が地上から退いたことを知った。
12 彼はさらに七日待って、鳩を放した。鳩は、もはやノアのもとに帰って来なかった。

13 ノアが六百一歳のとき、最初の月の一日に、地上の水は乾いた。ノアは、箱舟の覆いを取り外して眺めた。地の面は乾いていた。
14 第二の月の二十七日になると、地はすっかり乾いた。

【箱船から出る】

15 神は、ノアに言った。
16 「さあ、あなたもあなたの妻も、息子も嫁も、皆一緒に箱舟から出なさい。
17 すべて肉なるもののうちからあなたのもとに来たすべての動物、鳥も家畜も地を這うものも一緒に連れ出し、地に群がり、地上で子を産み、増えるようにしなさい」

18 そこで、ノアは息子や妻や嫁と共に外へ出た。
19 獣・這うもの・鳥・地に群がるもの、それぞれすべて箱舟から出た。
:20 ノアは、神のために祭壇を築いた。そして、すべての清い家畜と清い鳥のうちから取り、全焼の供え物として祭壇の上に捧げた。
21 神は宥めの香りをかいで、お心に言った「人に対して大地を呪うことは、二度とすまい。人が心に思うことは、幼いときから悪いのだ。私は、この度したように生き物をことごとく打つことは、二度とすまい。

22 地の続くかぎり、種蒔きも刈り入れも、寒さも暑さも、夏も冬も、昼も夜も、やむことはない」


第九章


【新しい世界】

01 神は、ノアと彼の息子たちを祝福して言った「産めよ、増えよ、地に満ちよ。
02 地のすべての獣と空のすべての鳥は、地を這うすべてのものと海のすべての魚と共に、あなたたちの前に恐れおののき、あなたたちの手にゆだねられる。
03 動いている命あるものは、すべてあなたたちの食糧とするがよい。私はこれらすべてのものを、青草と同じようにあなたたちに与える。

【血についての注意】

:04 ただし、命である血を含んだまま肉を食べてはならない。
:05 また、あなたたちの命である血が流された場合、私は賠償を要求する。いかなる獣からも要求する。人間どうしの血については、人間からその命を賠償として要求する。

06 人の血を流す者は、人によって自分の血を流される。人は神にかたどって造られたからだ。
07 あなたたちは産めよ、増えよ、地に群がり、地を征服せよ」

【神との契約】

08 神は、ノアと彼の息子たちに言った。
09 「私は、あなたたちと、そして後に続く子孫と、契約を立てる。
10 あなたたちと共にいるすべての生き物、またあなたたちと共にいる鳥や家畜や地のすべての獣など、箱舟から出たすべてのもののみならず、地のすべての獣と契約を立てる。
11 私があなたたちと契約を立てたならば、二度と洪水によって肉なるものがことごとく滅ぼされることはなく、洪水が起こって地を滅ぼすことも決してない」

12 さらに、神は言った「あなたたちとあなたたちと共にいるすべての生き物と、永久に私が立てる契約である。
13 すなわち、私は雲の中に虹を置く。これは、私と大地の間に立てた契約のしるしとなる。
14 私が、地の上に雲を湧き起こらせると、雲の中に虹が現れる。
15 私は、あなたたちとすべての生き物、すべて肉なるものとの間に立てた契約に心を留める。洪水で肉なるものをすべて滅ぼすことは、今後は決してない。
16 雲の中に虹が現れると、私はそれを見て、地上のすべての生き物、すべて肉なるものとの間に立てた永遠の契約を思い出す」

17 神は、ノアに言った「これが、私と地上のすべて肉なるものとの間に立てた契約のしるしである」

【ノアとその子孫】

18 箱舟から出たノアの息子は、セム・ハム・ヤヘトであった。ハムは、カナンの父である。
19 この三人がノアの息子で、全世界の人々は彼らから出て広がった。

20 さて、ノアは農夫となり、ぶどう畑を作った。
21 あるとき、ノアはぶどう酒を飲んで酔い、天幕の中で裸になっていた。
22 カナンの父ハムは、自分の父の裸を見て、外にいた二人の兄弟に告げた。
23 セムとヤヘトは着物を取って自分たちの肩に掛け、後ろ向きに歩いて行き、父の裸を覆った。二人は顔を背けたままで、父の裸を見なかった。

24 ノアは酔いからさめると、末の息子がしたことを知った。
;25 そして、こう言った「カナンは呪われよ。奴隷の奴隷となり、兄たちに仕えよ」

26 また言った「セムの神。神を讃えよ。カナンはセムの奴隷となれ。
27 神が、ヤヘトの土地を広げ(=ヤヘト)、セムの天幕に住まわせ、カナンはその奴隷となれ」
28 ノアは、洪水の後三百五十年生きた。
:29 ノアは、九百五十歳になって、死んだ。


第十章


【民族の系統】

01 ノアの息子、セム・ハム・ヤヘトの系図は次のとおり。洪水の後、彼らに息子が生まれた。

:02 ヤヘトの子孫は、ゴメル・マゴグ・メディア・ヤワン・トバル・メシェク・ティラスであった。
03 ゴメルの子孫は、アシュケナズ・リファト・トガルマであった。
04 ヤワンの子孫は、エリシャ・タルシシュ・キティム・ロダニムであった。
05 海沿いの国々は彼らから出て、それぞれの地に、その言語・氏族・民族に従って住むようになった。

:06 ハムの子孫は、クシュ・エジプト・プト・カナンであった。
07 クシュの子孫は、セバ・ハビラ・サブタ・ラマ・サブテカであり、ラマの子孫はシェバ・デダンであった。

08 クシュにはまた、ニムロドが生まれた。ニムロドは、地上で最初の王である。
09 彼は、神の前に勇敢な狩人であったので「神の前に勇敢な狩人ニムロドのようだ」という言い方がある。
:10 彼の王国の主な町は、バベル・ウルク・アッカドであり、それらはすべてシンアルの地にあった。
11 彼はその地方からアッシリアに進み、ニネベ・レホボト=イル・カラ・
12 レセンを建てた。レセンは、ニネベとカラとの間にある大きな町であった。

13 エジプトにはリディア人・アナミム人・レハビム人・ナフトヒム人・
:14 上エジプト人・カスルヒム人・カフトル人が生まれた。このカフトル人から、ペリシテ人が出た。

15 カナンには、長男シドン・ヘト。
16 また、エブス人・アモリ人・ギルガシ人・
17 ヒビ人・アルキ人・シニ人・
18 アルワド人・ツェマリ人・ハマト人が生まれた。その後、カナン人の諸氏族が広がった。
:19 カナン人の領土は、シドンから南下してゲラルを経てガザまでを含み、さらに、ソドム・ゴモラ・アドマ・ツェボイムを経てラシャまでを含んだ。
20 これらが、氏族・言語・地域・民族ごとにまとめたハムの子孫である。

21 セムにも、子供が生まれた。彼はエベルのすべての子孫の先祖であり、ヤヘトの兄であった。
22 セムの子孫は、エラム・アシュル・アルパクシャド・ルド・アラムであった。
23 アラムの子孫は、ウツ・フル・ゲテル・マシュであった。
24 アルパクシャドにはシェラが生まれ、シェラにはエベルが生まれた。
25 エベルには二人の息子が生まれた。ひとりの名は、その時代に土地が分けられた(=パラグ)のでペレグといい、その兄弟はヨクタンといった。 

26 ヨクタンには、アルモダド・シェレフ・ハツァルマベト・イエラ・
27 ハドラム・ウザル・ディクラ・
28 オバル・アビマエル・シェバ・
29 オフィル・ハビラ・ヨバブが生まれた。これらは皆、ヨクタンの息子であった。
30 彼らは、メシャからセファルに至る東の高原地帯に住んでいた。
31 これらが、氏族・言語・地域・民族ごとにまとめたセムの子孫である。

32 ノアの子孫である諸氏族を、民族ごとの系図にまとめると以上のようになる。地上の諸民族は洪水の後、彼らから分かれ出た。


第十一章


【バベルの塔】

01 そのころ、世界中が同じ言葉を使って、同じように話していた。

02 東の方から移動してきた人々は、シンアルの地に平野を見つけ、そこに住み着いた。
03 彼らは「煉瓦(れんが)を作り、それを焼こう」と話し合った。石の代わりに煉瓦を、しっくいの代わりにアスファルトを用いた。
:04 彼らは「さあ、天まで届く塔のある町を建て、有名になろう。そして、全地に散らされることのないようにしよう」と言った。

05 神は降って来て、人の子らが建てた塔のあるこの町を見た。
06 そして言った「彼らは一つの民で、皆一つの言葉を話しているから、このようなことをし始めたのだ。これでは、彼らが何を企てても、妨げることはできない。
;07 私たちは降って行って、直ちに彼らの言葉を混乱させ、互いの言葉が聞き分けられぬようにしてしまおう」
08 神は、彼らをそこから全地に散らしたので、彼らはこの町の建設をやめた。
09 こういうわけで、この町はバベルと呼ばれた。神が、そこで全地の言葉を混乱(=バラル)させ、そこから彼らを全地に散らしたからである。

【洪水後の太祖たち】

:10 セムの系図は、次のとおり。セムが百歳になったとき、アルパクシャドが生まれた。それは、洪水の二年後のこと。
11 セムは、アルパクシャドが生まれた後五百年生きて、息子や娘をもうけた。

12 アルパクシャドが三十五歳になったとき、シェラが生まれた。
13 アルパクシャドは、シェラが生まれた後四百三年生きて、息子や娘をもうけた。

14 シェラが三十歳になったとき、エベルが生まれた。
15 シェラは、エベルが生まれた後四百三年生きて、息子や娘をもうけた。

16 エベルが三十四歳になったとき、ペレグが生まれた。
17 エベルは、ペレグが生まれた後四百三十年生きて、息子や娘をもうけた。

18 ペレグが三十歳になったとき、レウが生まれた。
19 ペレグは、レウが生まれた後二百九年生きて、息子や娘をもうけた。

20 レウが三十二歳になったとき、セルグが生まれた。
21 レウは、セルグが生まれた後二百七年生きて、息子や娘をもうけた。

22 セルグが三十歳になったとき、ナホルが生まれた。
23 セルグは、ナホルが生まれた後二百年生きて、息子や娘をもうけた。

24 ナホルが二十九歳になったとき、テラが生まれた。
25 ナホルは、テラが生まれた後百十九年生きて、息子や娘をもうけた。

26 テラが七十歳になったとき、アブラム・ナホル・ハランが生まれた。

【テラの系図】

:27 テラの系図は、次のとおり。テラには、アブラム・ナホル・ハランが生まれた。ハランには、ロトが生まれた。

28 ハランは父のテラより先に、故郷カルデアのウルで死んだ。
29 アブラムとナホルは、それぞれ妻をめとった。アブラムの妻は、サライ。ナホルの妻は、ミルカ。ミルカは、ハランの娘である。ハランは、ミルカとイスカの父であった。
30 サライは不妊の女で、子供ができなかった。

31 テラは、息子アブラムとハランの息子で自分の孫であるロト、および息子アブラムの妻で自分の嫁であるサライを連れて、カルデアのウルを出発し、カナン地方に向かった。彼らはハランまで来ると、そこに止まった。

32 テラは二百五年の生涯を終えて、ハランで死んだ。


第十二章


【アブラムが指名される】

01 神は、アブラムに言った「あなたは生まれ故郷、父の家を離れて、私が示す地に行きなさい。
02 私は、あなたを大いなる国民にし、あなたを祝福し、あなたの名を高めよう。祝福の源となるように。
03 あなたを祝福する人を私は祝福し、あなたを呪う者を私は呪う。地上の氏族はすべて、あなたによって祝福される」

04 アブラムは、神の言葉に従って旅立った。ロトも共に行った。アブラムは、ハランを出発したとき七十五歳であった。

05 アブラムは妻のサライ、甥のロトを連れ、蓄えた財産をすべて携え、ハランで加わった人々と共にカナン地方へ向かって出発し、カナン地方に入った。
06 アブラムはその地を通り、シケムの聖所、モレの樫の木まで来た。当時、その地方にはカナン人が住んでいた。

07 神は、アブラムに現れて言った「あなたの子孫にこの土地を与える」 アブラムは、神のために祭壇を築いた。
08 アブラムは、そこからベテルの東の山へ移り、西にベテル、東にアイを望む所に天幕を張った。そこにも神のために祭壇を築き、神の名を呼んだ。
09 アブラムは、さらに旅を続け、ネゲブ地方へ移った。

【エジプトでのアプラム】

10 その地方に、飢饉があった。アブラムは、その地方の飢饉がひどかったので、エジプトに行き、そこに滞在することにした。

11 エジプトに入ろうとしたとき、アブラムは妻サライに言った「あなたが美しいのを、私はよく知っている。
12 エジプト人があなたを見たら『この女は、あの男の妻だ』と言って私を殺し、あなたを生かしておくにちがいない。
13 どうか、私の妹だと言っておくれ。そうすれば、私はあなたのゆえに幸いになり、あなたのお陰で命も助かるだろう」

14 アブラムがエジプトに入ると、エジプト人はサライを見て、大変美しいと思った。
15 ファラオの家臣たちも彼女を見て、ファラオに彼女のことを褒めたので、サライはファラオの宮廷に召し入れられた。
16 アブラムも彼女のゆえに幸いを受け、羊・牛の群れ、ろば、男女の奴隷、雌ろば、らくだなどを与えられた。

17 ところが神は、アブラムの妻サライのことで、ファラオと宮廷の人々を恐ろしい病気にかからせた。
18 ファラオは、アブラムを呼んで言った「あなたは、私に何ということをしたのか。なぜ、あの婦人を自分の妻だと、言わなかったのか。
19 なぜ『私の妹です』と言ったのか。だからこそ、私の妻として召し入れたのだ。さあ、あなたの妻を連れて、立ち去ってくれ!」
20 ファラオは家来たちに命じて、アブラムとその妻をすべての持ち物を持たせて送り出させた。


第十三章


【アブラムとロトの別れ】

01 アブラムは妻と共に、すべての持ち物を携え、エジプトを出て再びネゲブ地方へ行った。ロトも一緒であった。
02 アブラムは、非常に多くの家畜や金銀を持っていた。
03 ネゲブ地方から、さらにベテルに向かって旅を続け、ベテルとアイとの間にある以前に天幕を張った所まで来た。
04 そこは、彼が最初に祭壇を築いて、神の名を呼んだ場所である。

05 アブラムと共に旅をしていたロトもまた、羊や牛の群れを飼い、たくさんの天幕を持っていた。
06 その土地は、彼らが一緒に住むには十分ではなかった。彼らの財産が多すぎたから、一緒に住むことがムリだったのである。

07 その上、アブラムの家畜を飼う者たちと、ロトの家畜を飼う者たちとの間に争いが起きた。その地方には、敵になるカナン人もペリジ人も住んでいた。

08 アブラムは、ロトに言った「私たちは親類どうしだ。私とあなたの間ではもちろん、お互いの羊飼いの間でも争うのはやめよう。
09 あなたの前には幾らでも土地があるのだから、ここで別れようではないか。あなたが左に行くなら、私は右に行こう。あなたが右に行くなら、私は左に行く」

10 ロトが眺めると、ヨルダン川流域の低地一帯は、神がソドムとゴモラを滅ぼす前であったので、ツォアルに至るまで神の園のように、エジプトの国のように、見渡すかぎりよく潤っていた。
11 ロトは、ヨルダン川流域の低地一帯を選んで、東へ移って行った。こうして彼らは、左右に別れた。

【ソドムの住民】

12 アブラムはカナン地方に住み、ロトは低地の町々に住んだが、ロトは、ソドムまで天幕を移した。
13 ソドムの住民は邪悪で、神に対して多くの罪を犯していた。

【神からの賜】

14 神は、ロトが別れて行った後、アブラムに言った「さあ、目を上げて、あなたがいる場所から東西南北を見渡しなさい。
15 見えるかぎりの土地をすべて、私は永久にあなたとあなたの子孫に与える。
16 あなたの子孫を大地の砂粒のようにする。大地の砂粒が数えきれないように、あなたの子孫も数えきれないであろう。
17 さあ、この土地を縦横に歩き回るがよい。私はそれをあなたに与えるから」
18 アブラムは天幕を移し、ヘブロンにあるマムレの樫の木のところに来て住み、そこに神のために祭壇を築いた。


第十四章


【四人の王の出兵】

01 シンアルの王アムラフェル・エラサルの王アルヨク・エラムの王ケドルラオメル・ゴイムの王ティドアルが、
02 ソドムの王ベラ・ゴモラの王ビルシャ・アドマの王シンアブ・ツェボイムの王シェムエベル・ベラすなわちツォアルの王と戦ったとき、
03 これら五人の王は皆、シディムの谷、すなわち塩の海で同盟を結んだ。

04 彼らは、十二年間ケドルラオメルに支配されていたが、十三年目に背いた。

05 十四年目には、ケドルラオメルとその味方の王たちが来て、アシュテロト=カルナイムでレファイム人を、ハムでズジム人を、シャベ=キルヤタイムでエミム人を、
06 セイルの山地でフリ人を撃ち、荒野に近いエル=パランまで進んだ。

07 彼らは転進をして、エン=ミシュパト、すなわちカデシュに向かい、アマレク人の全領土とハツェツォン=タマルに住むアモリ人を撃った。
08 そこで、ソドムの王・ゴモラの王・アドマの王・ツェボイムの王・ベラすなわちツォアルの王は兵を繰り出し、シディムの谷で彼らと戦おうと陣を敷いた。
09 エラムの王ケドルラオメル・ゴイムの王ティドアル・シンアルの王アムラフェル・エラサルの王アルヨクの四人の王に対して、これら五人の王が戦いを挑んだ。

10 シディムの谷には、至るところに天然アスファルトの穴があった。ソドムとゴモラの王は逃げるとき、その穴に落ちた。残りの王は山へ逃れた。
11 ソドムとゴモラとの財産や食糧は、すべて奪い去られた。

【ロトらの奪回】

12 ソドムに住んでいたアブラムの甥ロトも、財産もろとも連れ去られた。
13 逃げ延びた一人の男がヘブライ人アブラムのもとに来て、そのことを知らせた。アブラムは当時、アモリ人マムレの樫の木の傍らに住んでいた。マムレはエシュコルとアネルの兄弟で、彼らはアブラムと同盟を結んでいた。

14 アブラムは、親族の者が捕虜になったと聞いて、彼の家で生まれた奴隷で、訓練を受けた者三百十八人を召集し、ダンまで追跡をした。
15 夜、彼と僕(しもべ)たちは分かれて敵を襲い、ダマスコの北のホバまで追跡した。
16 アブラムはすべての財産を取り返し、親族のロトとその財産、女たちやその他の人々も取り戻した。

【メルキゼデクの祝福】

17 アブラムが、ケドルラオメルとその味方の王たちを撃ち破って帰って来ると、ソドムの王はシャベの谷、すなわち王の谷まで彼を出迎えた。
18 いと高き神の祭司であったサレムの王メルキゼデクも、パンとぶどう酒を持って来た。
19 彼は、アブラムを祝福して言った「天地の造り主、いと高き神に、アブラムは祝福されますように。
20 敵をあなたの手に渡した、いと高き神が讃えられますように」 アブラムは、すべての物の十分の一を彼に贈った。

【ソドムの王にすべてを返す】

21 ソドムの王はアブラムに「人は私にお返しください。しかし、財産はお取りください」と言った。
22 アブラムは、ソドムの王に言った「私は、天地の造り主、いと高き神、主に手を上げて誓います。
23 あなたの物は、たとえ糸一筋、靴ひも一本でも、決していただきません『アブラムを富ましたのは私だ』と、あなたに言われたくないのです。
24 私は、何も要りません。ただ、若い者たちが食べたものと、私と共に戦った人々、アネル・エシュコル・マムレの分は別です。彼らには、分け前を取らせてください」


第十五章


【神とアブラムの契約】

01 これらのことの後で、神の言葉が幻の中でアブラムに臨んだ。
 〈恐れるな、アブラムよ。私はあなたの盾である。あなたの受ける報いは、非常に大きいであろう〉
02 アブラムは尋ねた「わが神、主よ。私に何をくださるというのですか。私には、子供がありません。家を継ぐのは、ダマスコのエリエゼルです」
03 アブラムは、言葉をついだ「ご覧のとおり、あなたは私に子孫を与えてくださいませんでしたから、家の僕(しもべ)が跡を継ぐことになっています」

04 神の言葉があった〈その者があなたの跡を継ぐのではなく、あなたから生まれる者が跡を継ぐ〉
05 神は、彼を外に連れ出して言った〈天を仰いで、星を数えることができるなら、数えてみるがよい〉 そして言った〈あなたの子孫はこのようになる〉
06 アブラムは、神を信じた。神は、それを彼の義と認めた。

07 神は、言った〈私は、あなたをカルデアのウルから導き出した主である。私はあなたにこの土地を与え、それを継がせる〉
08 アブラムは、尋ねた「わが神、主よ。この土地を私が継ぐことを、何によって知ることができましょうか?」
09 神は言った〈三歳の雌牛と、三歳の雌山羊と、三歳の雄羊と、山鳩と、鳩の雛とを私のもとに持って来なさい〉
10 アブラムは、それらのものをみな持って来た。そして、真っ二つに切り裂き、それぞれを互いに向かい合わせて置いた。ただ、鳥は切り裂かなかった。
11 禿鷹がこれらの死体を狙って降りて来ると、アブラムは追い払った。

12 日が沈みかけたころ、アブラムは深い眠りに襲われた。すると、恐ろしい大いなる暗黒が彼に臨んだ。
13 神はアブラムに言った〈よく覚えておくがよい。あなたの子孫は異邦の国で寄留者となり、四百年の間奴隷として仕え、苦しめられるであろう。
14 しかし私は、彼らが奴隷として仕えるその国民を裁く。その後、彼らは多くの財産を携えて脱出する。
15 あなた自身は、長寿を全うして葬られ、安らかに先祖のもとに行く。
16 ここに戻って来るのは、四代目の者たちである。それまでは、アモリ人の罪が極みに達しないからである〉

17 日が沈み、暗闇に覆われたころ、突然、煙を吐く炉と燃える松明が、二つに裂かれた動物の間を通り過ぎた。
18 その日、神はアブラムと契約を結んで言った。
 〈あなたの子孫に、この土地を与える。エジプトの川から、大河ユーフラテスに至るまでの地を。
19 カイン人・ケナズ人・カドモニ人・
20 ヘト人・ペリジ人・レファイム人・
21 アモリ人・カナン人・ギルガシ人・エブス人の土地を与える〉


第十六章


【サライはハガルをアブラムに与える】

01 アブラムの妻サライには、子供が生まれなかった。彼女には、ハガルというエジプト人の女奴隷がいた。
02 サライは、アブラムに言った「神は、私に子供を授けてくださいません。どうぞ、私の女奴隷のところに入ってください。私は彼女によって、子供を与えられるかもしれません」 アブラムは、サライの願いを聞き入れた。

03 アブラムの妻サライは、エジプト人の女奴隷ハガルを連れて来て、夫アブラムの側女とした。アブラムがカナン地方に住んでから、十年後のことであった。
04 アブラムはハガルに入り、彼女は身ごもった。ところが、自分が身ごもったのを知ると、彼女は女主人を軽んじた。

05 サライはアブラムに言った「私が不当な目に遭ったのは、あなたのせいです。女奴隷をあなたの懐(ふところ)に与えたのは私なのに、彼女は自分が身ごもったのを知ると、私を軽んじるようになりました。神が、私とあなたとの間を裁かれますように」
06 アブラムは、サライに答えた「あなたの女奴隷は、あなたのものだ。好きなようにするがいい」 サライは、彼女につらく当たったので、彼女はサライのもとから逃げた。

【天使がハガルに告げる】

07 天使が荒野の泉のほとり、シュル街道に沿う泉のほとりでハガルと出会った。
08 天使は言った「サライの女奴隷ハガルよ。あなたはどこから来て、どこへ行こうとしているのか?」 ハガルは「女主人サライのもとから逃げているところです」と答えた。
09 天使は「女主人のもとに帰り、従順に仕えなさい」と言った。

10 天使は続けて言った「私は、あなたの子孫を数えきれないほど多く増やす」
11 天使は、また言った。
 「今、あなたは身ごもっている。やがてあなたは男の子を産む。その子をイスマエルと名付けなさい。神が、あなたの悩みをお聞きになられたから。
12 彼は、野生のろばのような人になる。
 彼があらゆる人にこぶしを振りかざすので、人々は皆、彼にこぶしを振るう。彼は兄弟すべてに敵対して暮らす」

13 ハガルは、自分に語りかけた神の名を呼んで「あなたこそエル=ロイ(=私を顧みられる神)です」と言った。それは、彼女が「神が私を顧みられた後もなお、私はここで見続けていたではないか」と言ったからである。
14 そこで、その井戸は、ベエル=ラハイ=ロイと呼ばれるようになった。それは、カデシュとベレドの間にある。

【イスマエル誕生】

15 ハガルはアブラムとの間に男の子を産んだ。アブラムは、ハガルが産んだ男の子をイスマエルと名付けた。
16 ハガルがイスマエルを産んだとき、アブラムは八十六歳であった。


第十七章


:【神との契約】

01 アブラムが九十九歳になったとき、神はアブラムに現れて言った。
 〈私は、全能の神である。あなたは私に従って歩み、全き者となりなさい。
02 私は、あなたとの間に私の契約を定め、あなたをますます増やすであろう〉

【アブラムはアブラハムとなる】

03 アブラムは、ひれ伏した。神は、さらに語りかけて言った。
04 〈これが、あなたと結ぶ私の契約である。あなたは、多くの国民の父となる。
:05 あなたは、もはやアブラムではなく、アブラハムと名乗りなさい。あなたを多くの国民の父とするからである。

06 私は、あなたをますます繁栄させ、諸国民の父とする。王となる者たちが、あなたから出るであろう。
07 私は、あなたとの間に、また後に続く子孫との間に契約を立て、それを永遠の契約とする。そして、あなたとあなたの子孫の神となる。
08 私は、あなたが滞在しているこのカナンのすべての土地を、あなたとその子孫に、永久の所有地として与える。私は、彼らの神となる」

【割礼の契約】

09 神はまた、アブラハムに言った〈だからあなたも、私の契約を守りなさい、あなたも後に続く子孫も。
:10 あなたたち、およびあなたの後に続く子孫と、私との間で守るべき契約がある。すなわち、男子はすべて割礼を受ける。
11 包皮の部分を切り取りなさい。これが、私とあなたたちとの間の契約のしるしとなる。

12 いつの時代でも、あなたたちの男子はすべて、直系の子孫はもちろんのこと、家で生まれた奴隷も、外国人から買い取った奴隷であなたの子孫でない者もすべて、生まれてから八日目に、割礼を受けなければならない。
13 あなたの家で生まれた奴隷も、買い取った奴隷も、必ず割礼を受けなければならない。それによって、私の契約はあなたの体に記されて、永遠の契約となる。
14 包皮の部分を切り取らない無割礼の男がいたら、その人は民の間から断たれる。私の契約を破ったからである〉

【サライはサラになる】

:15 神は、アブラハムに言った〈あなたの妻サライは、名前をサライではなく、サラと呼びなさい。
16 私は彼女を祝福し、彼女によってあなたに男の子を与えよう。彼女を祝福し、諸国民の母とする。諸民族の王となる者たちが、彼女から出る〉

:17 アブラハムは、ひれ伏した。しかし笑って、秘かに言った「百歳の男に、子供が生まれるだろうか。九十歳のサラに、子供が産めるだろうか?」
18 アブラハムは、神に言った「どうか、イスマエルが神の前に生き永らえますように!」

19 神は、言った〈いや、あなたの妻サラがあなたとの間に男の子を産む。その子をイサク(=彼は笑う)と名付けなさい。私は、彼と契約を立て、彼の子孫のために永遠の契約とする。
20 イスマエルについての願いも聞き入れよう。必ず私は彼を祝福し、大いに子供を増やして繁栄させる。彼は、十二人の首長の父となろう。私は、彼を大いなる国民とする。

21 しかし、私の契約は、来年の今ごろ、サラがあなたとの間に産むイサクと立てる〉
22 神はこう語り終えると、アブラハムを離れて昇って行った。

【割礼の実行】

::23 アブラハムは、息子のイスマエルをはじめ、家で生まれた奴隷や買い取った奴隷など、自分の家にいる男子をすべて集め、すぐその日に神が命じられたとおり、包皮に割礼を施した。
24 アブラハムが包皮に割礼を受けたのは、九十九歳。
25 息子イスマエルが包皮に割礼を受けたのは、十三歳。
26 アブラハムと息子のイスマエルは、すぐその日に割礼を受けた。
27 アブラハムの家の男子は、家で生まれた奴隷も外国人から買い取った奴隷も皆、共に割礼を受けた。


第十八章


【マムレでも神の出現】

01 神はマムレの樫の木の所で、アブラハムに現れた。暑い真昼に、アブラハムは天幕の入り口に座っていた。
02 目を上げて見ると、三人の人が彼に向かって立っていた。アブラハムは、すぐに天幕の入り口から走り出て迎え、地にひれ伏した。
03 そして、言った「お客様、よろしければ、どうか僕(しもべ)のもとを通り過ぎないでください。
04 水を少々持って来させますから、足を洗って、木陰でどうぞひと休みしてください。
05 何か召し上がるものを調えますので、疲れを癒してから、お出かけください。せっかく僕(しもべ)の所の近くをお通りになったのですから」 その人たちは言った「では、お言葉どおりにしましょう」

06 アブラハムは急いで天幕に戻り、サラのところに来て言った「早く、上等の小麦粉を三セアほどこねて、パン菓子をこしらえなさい」
07 アブラハムは牛の群れのところへ走って行き、柔らかくておいしそうな子牛を選び、召し使いに渡し、急いで料理させた。
08 アブラハムは、凝乳・乳・出来立ての子牛の料理などを運び、彼らの前に並べた。そして、彼らが木陰で食事をしている間、そばに立って給仕をした。

【サラの出産予告】

09 彼らは、アブラハムに尋ねた「あなたの妻サラはどこにいますか」 「はい、天幕の中におります」とアブラハムが答えた。
10 彼らの一人が言った「私は来年の今ごろ、また必ずここに来ます。そのころには、あなたの妻サラに男の子が生まれているでしょう」
 サラは、すぐ後ろの天幕の入り口で聞いていた。
11 アブラハムもサラも多くの日を重ねて老人になっており、しかもサラは月のものがとうになくなっていた。

12 サラは、秘かに笑った。自分は年をとり、もはや楽しみがあるはずもなし、主人も年老いているのに、と思ったのである。
13 神は、アブラハムに言った〈なぜサラは笑ったのか。なぜ年をとった自分に子供が生まれるはずがないと思ったのか?
14 神に不可能なことがあろうか。来年の今ごろ、私はここに戻ってくる。そのころ、サラには必ず男の子が生まれている〉

15 サラは恐ろしくなり、打ち消して言った「私は笑いませんでした」 神は言った〈いや、あなたは確かに笑った〉

:【神とのソドム交渉】

16 その人たちはそこを立って、ソドムを見下ろす所まで来た。アブラハムも、彼らを見送るために一緒に行った。
17 神は言った〈私が行おうとしていることをアブラハムに隠す必要があろうか。
18 アブラハムは大きな強い国民になり、世界のすべての国民は彼によって祝福に入る。
19 私がアブラハムを選んだのは、彼が息子たちとその子孫に、神の道を守り、神に従って正義を行うよう命じて、神がアブラハムに約束したことを成就するためである〉

20 神は言った〈ソドムとゴモラの罪は非常に重いと訴える叫びが、実に大きい。
21 私は降って行き、彼らの行跡が、果たして届いた叫びのとおりかどうかを見て確かめよう〉

22 その人たちは、さらにソドムの方へ向かったが、アブラハムはなお、神の前にいた。
23 アブラハムは進み出て言った「まことにあなたは、正しい者も悪い者も一緒にして滅ぼされるのですか。
24 あの町に正しい者が五十人いるとしても、それでも滅ぼしてしまって、その五十人の正しい者のために、町をお赦しにはならないのですか。
25 正しい者を悪い者と一緒に殺し、正しい者を悪い者と同じ目に遭わせるようなことを、あなたがなさるはずはございません。まったくありえないことです。全世界を裁くお方は、正義をなさるべきではありませんか?」

26 神は、言った〈もしも、ソドムの町に正しい者が五十人いるならば、その者たちのために、町全部を赦そう〉
27 アブラハムは、答えた「塵あくたにすぎない私ですが、あえて、わが神に申し上げます。
28 もしかすると、五十人の正しい者に五人足りないかもしれません。それでもあなたは、五人足りないために、町のすべてを滅ぼされますか?」 神は、言った〈もしも、四十五人いれば滅ぼさない〉
29 アブラハムは、重ねて言った「もしかすると、四十人しかいないかもしれません」 神は、言った〈その四十人のために、私はそれをしない〉
30 アブラハムは、言った「神よ、どうかお怒りにならずに、もう少し聞いてください。もしかすると、そこには三十人しかいないかもしれません」 神は、言った〈もし三十人いるなら、私はそれをしない〉
31 アブラハムは、言った「あえて、わが神に申し上げます。もしかすると、二十人しかいないかもしれません」 神は、言った〈その二十人のために、私は滅ぼさない〉
32 アブラハムは、さらに言った「神よ、どうかお怒りにならないでください。もう一度だけ、言わせてください。もしかすると、十人しかいないかもしれません」 神は、言った〈その十人のために、私は滅ぼさない〉

33 神はアブラハムと語り終えると、去って行った。アブラハムも、自分の住まいに帰った。


第十九章


【天使がソドムに到着】

01 二人の天使が夕方ソドムに着いたとき、ロトはソドムの門の所に座っていた。ロトは彼らを見ると、立ち上がって迎え、地にひれ伏した。
02 そして、言った「皆様方、どうぞ僕(しもべ)の家に立ち寄り、足を洗ってお泊まりください。そして、明日の朝早く起きて出立なさってください」 彼らは言った「いや、結構です。私たちはこの広場で、夜を過ごします」

03 しかし、ロトはぜひにと勧めた。そこで、彼らはロトの所に立ち寄ることにし、彼の家を訪ねた。ロトは、酵母を入れないパンを焼いて食事を供し、彼らをもてなした。
04 彼らがまだ床に就かないうちに、ソドムの町の男たちが、若者も年寄りもこぞって押しかけて来て、家を取り囲んだ。
05 そして、怒鳴った「今夜、お前のところへ来た連中はどこにいる。ここへ連れて来い。なぶりものにしてやるから」

06 ロトは、戸口の前に集まっている男たちのところへ出て行き、後ろの戸を閉めた。
07 そして、言った「どうか、皆さん、乱暴なことはしないでください。
08 実は、私にはまだ嫁がせていない娘が二人おります。皆さんにその娘たちを差し出しますから、好きなようにしてください。ただ、あの方々には何もしないでください。この家の屋根の下に、身を寄せていただいたのですから」
09 男たちは口々に言った「そこをどけ」「こいつは、よそ者のくせに、指図などして」「さあ、彼らより先に、お前を痛い目に遭わせてやる」 そして、ロトに詰め寄って体を押しつけ、戸を破ろうとした。

10 二人の客は、手を伸ばしてロトを家の中に引き入れた。そして、戸を閉めた。
11 さらに、戸口の前にいる男たちに、老若を問わず、目つぶしを食わせたので、誰も戸口が分からなくなった。

【ロトたちの避難】

12 二人の客は、ロトに言った「他に、あなたの身内の人がこの町にいますか。あなたの婿や息子や娘などを皆連れて、ここから逃げなさい。
13 実は、私たちはこの町を滅ぼしに来たのです。大きな叫びが神のもとに届いたので、この町を滅ぼすために、私たちを遣わされたのです」
14 ロトは嫁いだ娘たちの婿のところへ行き「さあ早く、ここから逃げるのだ。神が、この町を滅ぼすからだ!」と促した。しかし、婿たちは冗談だと思った。

15 夜が明けるころ、天使たちはロトをせきたてて言った「さあ早く、あなたの妻とここにいる二人の娘を連れて行きなさい。さもないと、この町に下る罰の巻き添えになって、滅ぼされてしまう」
16 ロトは、ためらっていた。神は憐れんで、二人の客にロト・妻・二人の娘の手をとらせて、町の外へ避難するようにされた。
17 彼らがロトたちを町外れへ連れ出したとき、神は言った〈命がけで逃れよ。後ろを振り返ってはいけない。低地のどこにも止まるな。山へ逃げなさい。さもないと、滅びることになる〉

18 ロトは、言った「神よ、できません。
19 あなたは僕(しもべ)に目を留め、慈しみを豊かに示し、命を救おうとしてくださいます。しかし、私は山まで逃げ延びることはできません。恐らく、災害に巻き込まれて、死んでしまうでしょう。
20 ご覧ください、あの町を。あそこなら近いので、逃げて行けると思います。あれは、小さな町です。あそこへ逃げさせてください。あれは、ほんの小さな町です。どうか、そこで私の命を救ってください」
21 神は、言った〈よろしい。そのこともあなたの願いを聞き届け、あなたの言うその町は滅ぼさないことにしよう。
22 急いで逃げなさい。あなたがあの町に着くまでは、私は何も行わないから〉 そこで、その町はツォアル(=小さい)と名付けられた。

【ソドムとゴモラの滅亡】

23 太陽が地上に昇ったとき、ロトはツォアルに着いた。
24 神は、ソドムとゴモラの上に、天から硫黄の火を降らせた。
25 そして、これらの町と低地一帯、町の全住民、地の草木もろとも滅ぼした。
26 ロトの妻は後ろを振り向いたので、塩の柱になってしまった。

27 アブラハムは、その朝早く起きて、さきに神と対面した場所へ行った。
28 ソドムとゴモラ、低地一帯を見下ろすと、炉のように地面から煙が立ち上っていた。
29 こうして、ロトの住んでいた低地の町々は滅ぼされたが、神はアブラハムを心に留め、ロトを破滅のただ中から救い出した。

【ロトの娘たちからモアブ人とアンモン人が出る】

30 ロトはツォアルを出て、二人の娘と山の中に住んだ。ツォアルに住むのを恐れたからである。彼は、洞穴に二人の娘と住んだ。

31 姉は、妹に言った「父も年老いてきました。この辺りには、世のしきたりに従って、私たちのところへ来てくれる男の人はいません。
:32 さあ、父にぶどう酒を飲ませ、床を共にして、父から子種を受けましょう」
:33 娘たちはその夜、父親にぶどう酒を飲ませ、姉がまず父親のところへ入って寝た。父親は、娘が寝に来たのも、立ち去ったのも気がつかなかった。

34 あくる日、姉は妹に言った「私は、夕べ父と寝ました。今晩も父にぶどう酒を飲ませて、あなたが行って父と床を共にし、父から子種をいただきましょう」
:35 娘たちはその夜もまた、父親にぶどう酒を飲ませ、妹が父親のところへ行って寝た。父親は、娘が寝に来たのも、立ち去ったのも気がつかなかった。

:36 このようにして、ロトの二人の娘は父の子を身ごもった。
37 やがて、姉は男の子を産み、モアブ(=父親より)と名付けた。彼は、モアブ人の先祖である。 
38 妹もまた男の子を産み、ベン=アミ(=私の肉親の子)と名付けた。彼は、アンモンの人々の先祖である。


第二十章


【アブラハムの策略】

01 アブラハムは、そこからネゲブ地方へ移り、カデシュとシュルの間に住んだ。ゲラルに滞在していたときのことである。
02 アブラハムは妻サラのことを「これは私の妹です」と言ったので、ゲラルの王アビメレクは使いをやってサラを召し入れた。
03 その夜、夢の中でアビメレクに神が現れて言った〈あなたは、召し入れた女のゆえに死ぬ。その女は、夫のある身だ〉

04 アビメレクは、まだ彼女に近づいていなかったので「神よ、あなたは正しい者でも殺されるのですか。
05 彼女が妹だと言ったのは、彼ではありませんか。また彼女自身も『あの人は私の兄です』と言いました。私は、やましい考えも不正な手段でもなく、この事をしたのです」と言った。
06 神は、夢の中でアビメレクに言った〈私も、あなたが少しもやましい考えなしに、この事をしたことは知っている。だから私も、あなたが罪を犯すことのないように、彼女に触れさせなかったのだ。
07 直ちに、あの人の妻を返しなさい。彼は預言者だから、あなたのために祈り、命を救ってくれるだろう。しかし、もし返さなければ、あなたもあなたの家来も皆、必ず死ぬことを覚悟せねばならない〉

08 次の朝早く、アビメレクは家来たちを残らず呼び集め、一切の出来事を語り聞かせたので、一同は非常に恐れた。

【アブラハムの弁解】

09 アビメレクは、それからアブラハムを呼んで言った「あなたは、私たちに何ということをしたのか。私が、あなたにどんな罪を犯したというので、あなたは私と王国に大それた罪を犯させようとしたのか。あなたは、してはならぬことをしたのだ!」
10 アビメレクはさらに、アブラハムに言った「どういうつもりで、こんなことをしたのか?」
11 アブラハムは答えた「この土地の人は、神を畏れないので、私は妻のゆえに殺されると思ったのです。

12 事実、彼女は、私の妹でもあるのです。私の父の娘ですが、母の娘ではないのです。それで、私の妻となったのです。
13 かつて、神が私を父の家から離して、さすらいの旅に出したとき、私は妻に『私に尽くすと思って、どこへ行っても、私のことを、この人は兄ですと言ってくれないか』と頼んだのです」

14 アビメレクは羊・牛・男女の奴隷などをアブラハムに与え、また、妻サラを返した。
15 そして、言った「この辺りは、すべて私の領土です。好きな所にお住まいください」
16 また、サラに言った「私は、銀一千シェケルをあなたの兄上に贈りました。それは、あなたとの間のすべての出来事の疑惑を晴らす証拠です。これであなたの名誉は取り戻されるでしょう」

17 アブラハムが神に祈ると、神はアビメレクとその妻、および侍女たちをいやされたので、再び子供を産むことができるようになった。
18 神がアブラハムの妻サラのゆえに、アビメレクの宮廷のすべての女たちの胎を堅く閉ざしていたからである。


第二十一章


【イサク誕生】

01 神は、約束したとおりサラを顧みて、さきに語ったとおりサラのために行った。
02 彼女は身ごもり、年老いたアブラハムとの間に男の子を産んだ。それは、神が約束した時期である。
03 アブラハムは、サラが産んだ自分の子をイサクと名付けた。

04 神が命じられたとおり、八日目に息子イサクに割礼を施した。
:05 息子イサクが生まれたとき、アブラハムは百歳であった。
06 サラは言った「神は、私に笑いをお与えになった。聞く者は皆、私と笑い(=イサク)を共にしてくれるでしょう」
07 サラは、また言った「誰がアブラハムに言いえたでしょう サラは子に乳を含ませるだろうと。しかし、私は子を産みました。年老いた夫のために」

【サライはハガルとその子を嫌う】

08 やがて、子供は育って乳離れをした。アブラハムは、イサクの乳離れの日に盛大な祝宴を開いた。
09 アブラハムとエジプト女ハガルとの間に産まれた子が、イサクをからかっていた。
10 それを見たサラは、アブラハムに訴えた「あの女と、あの子を追い出してください。あの女の息子を、私の子イサクと同じ跡継ぎにはしたくありません」

11 このことは、アブラハムを非常に苦しめた。その子も、自分の子であったからである。
12 神は、アブラハムに言った〈あの子供とあの女のことで、苦しまなくてもよい。サラが言うことに、聞き従いなさい。あなたの子孫は、イサクによって伝えられる。
13 しかし、あの女の息子も、一つの国民の父とする。彼も、あなたの子であるからだ〉

【神がハガルと子供を助ける】

14 アブラハムは、次の朝早く起き、パンと水の革袋を取ってハガルに与え、背中に負わせて子供を連れ去らせた。ハガルは立ち去り、ベエル=シバの荒野をさまよった。
15 革袋の水が無くなると、彼女は子供を一本の潅木の下に寝かせた。
16 「私は、子供が死ぬのを見るに忍びない」と言って、矢の届くほどの距離に行って、子供の方を向いて座り込んだ。彼女は座ると、声をあげて泣いた。
17 神は、子供の泣き声を聞いた。そして、天使がハガルに呼びかけた「ハガルよ、どうしたのか。恐れることはない。神は、あそこにいる子供の泣き声を聞いた。
18 立って行き、あの子を抱き上げ、お前の腕でしっかり抱き締めなさい。神は、必ずあの子を大きな国民とする」

19 神がハガルの目を開いたので、彼女は水のある井戸を見つけた。彼女は行って革袋に水を満たし、子供に飲ませた。
20 神がその子と共にいたので、その子は成長し、荒野に住んで弓を射る者となった。

21 ハガルの子が、パランの荒野に住んでいたとき、母は子の妻をエジプトの国から迎えた。

【アブラハムとアビメレク】

22 そのころ、アビメレクとその軍隊長ピコルは、アブラハムに言った「神は、あなたが何をなさっても、あなたと共におられます。
:23 どうか今ここで、私と私の子、私の孫を欺かないと、神にかけて誓って(=シャバ)ください。私が、あなたに友好的な態度をとってきたように、あなたも寄留しているこの国と私に、友好的な態度をとってください」
24 アブラハムは、答えた「よろしい、誓いましょう」

25 アブラハムは、アビメレクの部下たちが井戸を奪ったことについて、アビメレクを責めた。
26 アビメレクは、言った「そんなことをした者がいたとは、知りませんでした。あなたも告げなかったし、私も今日まで聞いていなかったのです」
27 アブラハムは、羊と牛の群れを連れて来て、アビメレクに贈り、二人は契約を結んだ。

【ベエル=シバ】

28 アブラハムは、さらに羊の群れの中から七匹(=シェバ)の雌の小羊を別にした。
29 アビメレクは、アブラハムに尋ねた「この七匹の雌の小羊を別にしたのは、何のためですか?」
30 アブラハムは、答えた「私の手からこの七匹の雌の小羊を受け取って、私がこの井戸(=ベエル)を掘ったことの証拠としてください」
31 それで、この場所をベエル=シバと呼ぶようになった。二人が、そこで誓いを交わしたからである。
32 二人はベエル=シバで契約を結び、アビメレクと、その軍隊長ピコルはペリシテの国に帰って行った。

33 アブラハムは、ベエル=シバに一本の御柳(ぎょりゅう)の木を植え、永遠の神、主の名を呼んだ。
34 その後アブラハムは、長い間、ペリシテの国に寄留した。


第二十二章


【神の試み=イサクの犠牲】

01 これらのことの後で、神はアブラハムを試そうとした。神が〈アブラハムよ〉と呼びかけると、彼は「はい」と答えた。
02 そこで、神は命じた〈あなたの息子、あなたの愛する独り子イサクを連れて、モリヤの地に行きなさい。私が命じる山の一つに登り、彼を全焼の供え物としなさい〉
03 次の朝早く、アブラハムはろばに鞍を置き、供え物に用いる薪を割り、二人の若者と息子イサクを連れて、神の命じた所に向かって行った。

04 三日目になって、アブラハムが目をあげると、遠くにその場所が見えた。
05 アブラハムは、若者たちに言った「お前たちは、ろばと一緒にここで待っていなさい。私は、息子とあそこへ行って、礼拝をしてくる」
06 アブラハムは、全焼の供え物に用いる薪を取って、息子イサクに背負わせた。自分は、火と刃物を手に持った。親子は、一緒に歩いて行った。
07 イサクは、父アブラハムに「お父さん」と呼びかけた。彼が「ここにいる。私の子よ」と答えると、イサクは言った「火と薪はここにありますが、全焼の供え物にする小羊はどこにいるのですか」

08 アブラハムは、答えた「私の子よ、全焼の供え物の小羊は、きっと神が備えてくださる」 二人は、一緒に歩いて行った。
09 神が命じた場所に着くと、アブラハムはそこに祭壇を築き、薪を並べ、息子イサクを縛って薪の上に載せた。
10 そしてアブラハムは、手を伸ばして刃物を取り、息子を屠(ほふ)ろうとした。

11 そのときである。天使が「アブラハム、アブラハム」と呼びかけた。彼は「はい」と答えた。
12 天使は言った「その子に手を下してはいけない。何もするな。あなたが神を畏れる者であることが、いま分かったからだ。あなたは、自分の独り子である息子すら、神に捧げることを惜しまなかった」
13 アブラハムは、目を上げて見回した。すると、後ろの木の茂みに一匹の雄羊が角をとられていた。アブラハムは行って、その雄羊を捕まえた。そして、息子の代わりに全焼の供え物として捧げたのである。
14 アブラハムは、その場所をヤーウェ=イルエ(=主は備えてくださる)と名付けた。そこで、人々は今日でも「主の山に、備えあり(=イエラエ)」と言っている。

【神の誓いを天使が伝える】

15 天使は、再び天からアブラハムに呼びかけた。
16 「『私は、自らにかけて誓う』と神は言っている。あなたは、自分の独り子である息子すら惜しまなかった。
17 だから、あなたを豊かに祝福し、あなたの子孫を天の星のように、海辺の砂のように増やそう。あなたの子孫は、敵の城門を勝ち取る。
18 地上の諸国民は、すべてあなたの子孫によって祝福を得るのだ。あなたが、私の声に聞き従ったからである」
19 アブラハムは若者たちのいるところへ戻り、共にベエル=シバへ向かった。アブラハムは、ベエル=シバに住んだ。

【ナホルの子孫】

20 これらの後に、アブラハムに知らせが届いた。 「ミルカもまた、あなたの兄弟ナホルとの間に子供を産みました。
21 長男はウツ、その弟はブズ、次はアラムの父ケムエル。
22 それから、ケセド・ハゾ・ピルダシュ・イドラフ・ベトエルです」

23 ベトエルは、リベカの父となった。ミルカは、アブラハムの兄弟ナホルとの間にこれら八人の子供を産んだ。
24 ナホルの側女で、レウマという女性もまた、テバ・ガハム・タハシュ・マアカを産んだ。


第二十三章


【サラの死】

:01 サラの生涯は、百二十七年。これが、サラの生きた年数である。
02 サラは、カナン地方のキルヤト=アルバ、すなわちヘブロンで死んだ。アブラハムは、サラのために胸を打って嘆き悲しんだ。

03 アブラハムは遺体の傍らから立ち上がり、ヘトの人々に頼んだ。
04 「私は、あなたがたのところに一時滞在する寄留者ですが、あなたがたが所有する墓地を譲ってくださいませんか。亡くなった妻を葬ってやりたいのです」
05 ヘトの人々は、アブラハムに答えた。
06 ご主人、お聞きください。あなたは、私どもの中で神に選ばれた人です。どうぞ、私どもの最良の墓地を選んで、亡くなられた方を葬ってください。私どもの中には墓地を提供しないと言って、亡くなられた方を葬らせない者など、一人もいません」

07 アブラハムは、姿勢を正して国の民であるヘトの人々に挨拶をした。
08 そして、頼んだ「もしも、死んだ妻を葬ることをお許しいただけるなら、ぜひ、私の願いを聞いてください。ツォハルの子エフロンにお願いをして、
09 あの方の畑の端にあるマクペラの洞穴を譲っていただきたいのです。十分な銀を支払いますから、皆様方の間に墓地を所有させてください」
10 エフロンは、ヘトの人々の間に座っていた。エフロンは、町の門の広場に集まっているヘト人々が聞いているところで、アブラハムに答えた。
11 「どうか、ご主人、お聞きください。あの畑を差し上げます。あそこにある洞穴も差し上げます。一族が立ち会っているところで、あなたに差し上げますから、すぐに、亡くなられた方を葬ってください」

12 アブラハムは、国の民の前で挨拶をした。
13 そして、国の民の聞いているところで、エフロンに頼んだ「私の願いを聞き入れてくださるなら、どうか畑の代金を払わせてください。どうぞ、受け取ってください。そうすれば、死んだ妻をあそこに葬ってやれます」

【先祖の墓を作る】

14 エフロンは、アブラハムに答えた。
15 ご主人、お聞きください。あの土地は、銀四百シェケルのものです。それがあなたと私の間で、どれほどのことでしょう。すぐに、亡くなられた方を葬ってください」
16 アブラハムは、このエフロンの言葉を聞き入れた。エフロンが、ヘト人々たちが聞いているところで言った値段、その銀四百シェケルを商人の通用銀の重さで量り、エフロンに渡した。

17 こうして、マムレの前のマクペラにあるエフロンの畑は、土地とそこの洞穴と、その周囲の境界内に生えている木を含めて、
18 町の門の広場に来ていたすべてのヘト人の立ち会いのもとに、アブラハムのものとなった。

19 その後、アブラハムは、カナン地方のヘブロンにあるマムレの前のマクペラの畑の洞穴に、妻のサラを葬ったのである。
20 その畑とそこの洞穴は、このようにして、ヘトの人々からアブラハムが買い取り、墓地として所有することになった。


第二十四章


【アブラハムはイサクの嫁探しに僕を遣わす】

01 アブラハムは、多くの日を重ねて老人になり、神は何事においてもアブラハムに祝福を与えた。
02 アブラハムは、家の全財産を任せている年寄りの僕(しもべ)に言った「手を私の腿の間に入れなさい。
03 そして、天の神、地の神である主にかけて誓いなさい。あなたは、私の息子の嫁を私が今住んでいるカナンの娘から取るのではなく、
04 私の一族のいる故郷へ行って、嫁を息子イサクのために連れて来るように」

05 僕(しもべ)は尋ねた「もしかすると、その娘が私に従ってこの土地へ来たくないと言うかもしれません。その場合には、ご子息をあなたの故郷にお連れしてよいでしょうか?」
06 アブラハムは、答えた「決して、息子をあちらへ行かせてはならない。
07 天の神である主は、私を父の家、生まれ故郷から連れ出し『あなたの子孫に、この土地を与える』と言って、私に約束をしてくださった。その方が、お前の行く手に天使を遣わして、そこから息子に嫁を連れて来ることができるようにしてくださる。
08 もし女が、お前に従ってこちらへ来たくないと言うならば、お前は、この誓いを解かれる。ただ私の息子をあちらへ行かせることだけは、してはならない」

09 そこで、僕(しもべ)は主人アブラハムの腿の間に手を入れ、このことを彼に誓った。
10 僕(しもべ)は主人のらくだの中から十頭を選び、主人から預かった高価な贈り物をたくさん携え、アラム=ナハライムのナホルの町に向かって出発した。

【僕はリベカと出会う】

11 女たちが水汲みに来る夕方、彼は、らくだを町外れの井戸の傍らに休ませた。
12 そして、祈った「主人アブラハムの神、主よ。どうか、今日、私を顧みて、主人アブラハムに慈しみを示してください。
13 私は今、ご覧のように、泉の傍らに立っています。この町に住む人の娘たちが水をくみに来たときに、
14 その一人に『どうか、水がめを傾けて、飲ませてください』と頼んでみます。その娘が『どうぞ、お飲みください。らくだにも飲ませてあげましょう』と答えれば、彼女こそ、あなたがあなたの僕イサクの嫁としてお決めになったものとさせてください。そのことによって私は、あなたが主人に慈しみを示されたのを知るでしょう」

15 僕がまだ祈り終わらないうちに、リベカが水がめを肩に載せてやって来た。彼女は、アブラハムの兄弟ナホルとその妻ミルカの息子ベトエルの娘である。
16 際立って美しく、男を知らない処女であった。彼女は泉に下りて行き、水がめに水を満たして上がって来た。

17 僕は駆け寄り、彼女に向かい合って語りかけた「水がめの水を少し飲ませてください」
18 すると、彼女は「どうぞ、お飲みください」と答え、すぐに水がめを下ろして手に抱え、彼に飲ませた。
19 彼が飲み終わると、彼女は「らくだにも水をくんで来て、たっぷり飲ませてあげましょう」と言った。
20 すぐにかめの水を水槽に空け、また水をくみに井戸に走って行った。こうして、彼女はすべてのらくだに水をくんでやった。

21 その間、僕(しもべ)は主(しゅ)がこの旅の目的をかなえてくださるかどうかを知ろうとして、黙って彼女を見つめていた。
22 らくだが水を飲み終わると、彼は重さ半シェケルの金の鼻輪一つと十シェケルの金の腕輪二つを取り出しながら、
23 「あなたは、どなたの娘さんですか。教えてください。お父さまの家には、私どもが泊めていただける場所があるでしょうか?」と尋ねた。

24 すると、彼女は「私は、ナホルとその妻ミルカの子ベトエルの娘です」と答えた。
25 さらに、続けて「私どもの所には、わらも餌もたくさんあります。お泊まりになる場所もございます」と言った。

26 彼はひざまずいて、神を伏し拝んだ。
27 「主人アブラハムの神、主はた讃えられますように。神の慈しみとまことが私の主人を離れず、神は私の旅路を導き、主人の一族の家にたどりつかせてくださいました」と祈った。

【リベカの兄が来て案内をする】

28 娘は走って行き、母の家の者に出来事を告げた。
29 リベカには、ラバンという兄がいた。ラバンは、すぐに町の外れの泉の傍らにいるその人のところへ走った。
30 妹が着けている鼻輪と腕輪を見、妹リベカが「その人がこう言いました」と話しているのを聞いたためである。彼が行ってみると、確かに泉のほとりのらくだのそばに、その人が立っていた。
31 そこで、ラバンは言った「おいでください。神に祝福されたお方。なぜ、町の外に立っておられるのですか。私が、お泊まりになる部屋もらくだの休む場所も整えました」

【食卓で僕は事情を話す】

32 その人は家に来て、らくだの鞍をはずした。らくだには藁(わら)と餌が与えられ、その人と従者たちには足を洗う水が運ばれた。
33 やがて食事が並べられたが、その人は言った「用件をお話しするまでは、食事をいただくわけにはまいりません」 「お話しください」とラバンが答えると、
34 その人は、語り始めた「私はアブラハムの僕(しもべ)でございます。
35 神が私の主人を大層祝福して、羊や牛の群れ・金銀・男女の奴隷・らくだ・ろばなどを与えたので、主人は裕福になりました。
36 奥様のサラは、年をとっていましたのに、私の主人との間に男の子を産みました。その子に、私の主人は全財産をお譲りになったのです。

37 主人は、私に誓いを立てさせ『あなたは私の息子の嫁を、私が今住んでいるカナンの土地の娘から選び取ってはいけない。
38 私の父の家、私の親族のところへ行って、息子の嫁を連れて来るように』と命じました。
39 私は、主人に『もしかすると、相手の女が私に従って来たくないと言うかもしれません』と申しました。
40 すると、主人は『私は今まで、神の導きに従って歩んできた。神は天使を遣わしてお前に伴わせ、旅の目的をかなえてくださる。お前は、私の親族、父の家から息子のために嫁を連れて来ることができよう。
41 そのとき初めて、お前は私に対する誓いを解かれる。またもしも、私の親族のところに行って娘をもらえない場合には、お前はこの誓いを解かれる』と言いました。

42 こういうわけで、私は、泉の傍らで祈っておりました『主人アブラハムの神、神よ。私がたどってきたこの旅の目的を、もしあなたが本当にかなえてくださるおつもりなら、
43 私はいま、ご覧のように、泉の傍らに立っています。どうか、乙女が水を汲みに来るようにしてください。彼女に、水がめの水を少し飲ませてください、と頼んでみます。
44 そして、どうぞお飲みください、らくだにも水をくんであげましょう、と彼女が答えましたなら、その娘こそ神が主人の息子のためにお決めになった方であるといたします』

45 私がまだ心に言い終わらないうちに、リベカさまが水がめを肩に載せて来たではありませんか。そして、泉に下りて行き水をお汲みになりました。私は『どうか、水を飲ませてください』と頼みました。
46 すると、リベカさまはすぐに水がめを肩から下ろして『どうぞお飲みください。らくだにも飲ませてあげましょう』と答えてくださいました。私も飲み、らくだも飲ませていただいたのです。

47 『あなたは、どなたの娘さんですか』とお尋ねしたところ『ナホルとミルカの子ベトエルの娘です』と答えられましたので、私は鼻輪を鼻に、腕輪を腕に着けて差し上げたのです。
48 私はひざまずいて神を伏し拝み、主人アブラハムの神、主を誉め讃えました。神は、主人の子息のために、他ならぬ主人の一族のお嬢さまを迎えることができるように、私の旅路をまことをもって導いてくださいました。
49 あなたがたが、私の主人に慈しみとまことを示してくださるおつもりならば、そうおっしゃってください。そうでなければ、そうとおっしゃってください。それによって、私は進退を決めたいと存じます」

【イサクの嫁の話がまとまる】

50 ラバンとベトエルは答えた「このことは神の御意志ですから、私どもが善し悪しを申すことはできません。
51 リベカは、ここにおります。どうぞお連れください。神がお決めになったとおり、御主人の御子息の妻になさってください」
52 アブラハムの僕はこの言葉を聞くと、地に伏して神を拝んだ。
53 そして、金銀の装身具や衣装を取り出してリベカに贈り、その兄と母にも高価な品物を贈った。
54 僕と従者たちは酒食のもてなしを受け、そこに泊まった。

【リベカは僕と出発をする】

-- 次の朝、皆が起きたとき、僕(しもべ)が「主人のところへ帰らせてください」と言った。
55 リベカの兄と母は「娘をもうしばらく、十日ほど、私たちの手もとに置いて、それから行かせるようにしたいのです」と頼んだ。
56 しかし、僕は言った「私を、お引き止めにならないでください。この旅の目的をかなえてくださったのは神なのですから。私を帰らせてください。主人のところへ参ります」
57 「娘を呼んで、その口から聞いてみましょう」と彼らは言った。
58 リベカを呼んで「お前は、この人と一緒に行きますか」と尋ねた。すると「はい、参ります」と、彼女は答えた。
59 彼らは、リベカとその乳母をアブラハムの僕とその従者たちと一緒に出立させることにした。

60 リベカを祝福して言った。
 「私たちの妹よ、あなたが幾千万の民となるように。あなたの子孫が敵の門を勝ち取るように!」
61 リベカは、侍女たちと共に立ち上がり、らくだに乗り、その人の後ろに従った。このようにして、僕はリベカを連れて行った。

【イサクはリベカを迎える】

62 イサクは、ネゲブ地方に住んでいた。そのころ、ベエル=ラハイ=ロイから帰ったところであった。
63 夕方暗くなるころ、野原を散策していた。目を上げて眺めると、らくだがやって来るのが見えた。
64 リベカも目を上げて眺め、イサクを見た。リベカは、らくだから下りた。
65 「野原を歩いて、私たちを迎えに来るあの人は誰ですか?」と僕に尋ねた。 僕は「あの方が、私の主人です」と答えると、リベカはベールを取り出してかぶった。

66 僕(しもべ)は、自分が成し遂げたことをすべてイサクに報告した。
67 イサクは、母サラの天幕に彼女を案内した。彼はリベカを迎えて妻とした。イサクは、リベカを愛して、亡くなった母に代わる慰めを得た。


第二十五章


【ケトラの子孫】

01 アブラハムは、再び妻を娶った。その名は、ケトラといった。
02 彼女は、アブラハムとの間にジムラン・ヨクシャン・メダン・ミディアン・イシュバク・シュアを産んだ。
03 ヨクシャンにはシェバとデダンが生まれた。デダンの子孫は、アシュル人・レトシム人・レウミム人であった。
04 ミディアンの子孫は、エファ・エフェル・ハノク・アビダ・エルダアであった。これらは皆、ケトラの子孫であった。

【アブラハムはイサクに財産を譲る】

05 アブラハムは、全財産をイサクに譲った。
06 側女の子供たちには贈り物を与え、自分が生きている間に、東の方ケデム地方へ移住させ、息子イサクから遠ざけた。

【アブラハムの死】

:07 アブラハムの生涯は、百七十五年だった。
08 アブラハムは長寿を全うして息を引き取り、満ち足りて死に、先祖の列に加えられた。
09 息子イサクとイスマエルは、マクペラの洞穴に父を葬った。その洞穴は、マムレの前のヘト人ツォハルの子エフロンの畑の中にあった。
10 その畑は、アブラハムがヘトの人々から買い取ったものである。そこに、アブラハムは妻サラと共に葬られた。
11 アブラハムが死んだ後、神は息子のイサクを祝福した。イサクは、ベエル=ラハイ=ロイの近くに住んだ。

【イスマエルの子孫】

12 サラの女奴隷であったエジプト人ハガルが、アブラハムとの間に産んだ息子イスマエルの系図は次のとおり。
13 イスマエルの息子たちの名前は、生まれた順に長男がネバヨト、次はケダル、そしてアドベエル・ミブサム・
14 ミシュマ・ドマ・マサ・
15 ハダド・テマ・エトル・ナフィシュ・ケデマである。
16 以上が、イスマエルの息子たちで、村落や宿営地に従って付けられた名前である。彼らは、それぞれの部族の十二人の首長であった。

17 イスマエルの生涯は、百三十七年であった。彼は息を引き取り、死んで先祖の列に加えられた。
18 イスマエルの子孫は、エジプトに近いシュルに接したハビラからアシュル方面に向かう道筋に沿って宿営し、互いに敵対しつつ生活をしていた。

【エサウとヤコブの誕生】

19 アブラハムの息子、イサクの系図は次のとおり。アブラハムには、イサクが生まれた。
20 イサクは、リベカと結婚したとき四十歳であった。リベカは、パダン=アラムのアラム人ベトエルの娘で、アラム人ラバンの妹であった。
21 イサクは、妻に子供ができなかったので、妻のために神に祈った。その祈りは神に聞き入れられ、妻リベカは身ごもった。

22 ところが、胎内で子供たちが押し合うので、リベカは「これでは、私はどうなるのでしょう」と言って、神の御心を尋ねるために出かけた。
23 神は、彼女に言った。
 「二つの国民が、あなたの胎内に宿っている。二つの民が、あなたの腹の内で分かれ争っている。一つの民が他の民より強くなり、兄が弟に仕えるだろう」

24 月が満ちて出産の時が来ると、胎内にはまさしく双子がいた。
25 先に出てきた子は赤くて、全身が毛皮の衣のようであったので、エサウと名付けた。
26 その後で弟が出てきたが、その手がエサウの踵(かかと=アケブ)を掴(つか)んでいたので、ヤコブと名付けた。リベカが二人を産んだとき、イサクは六十歳であった。

【エサウは長子権を手放す】

27 二人の子供は成長して、エサウは巧みな狩人で野の人となった。ヤコブは、穏やかな人で天幕の周りで働くのを常とした。
28 イサクは、エサウを愛した。狩りの獲物が、好物だったからである。しかし、リベカはヤコブを愛した。

29 ある日のこと、ヤコブが煮物をしていると、エサウが疲れきって野原から帰って来た。
30 エサウは、ヤコブに言った「お願いだ、その赤いもの(=アドム)を食べさせてほしい。私は疲れきっているんだ」 彼が名をエドムとも呼ばれたのは、このためである。
31 ヤコブは、言った「まず、お兄さんの長子の権利を譲ってください」
32 「ああ、もう死にそうだ。長子の権利などどうでもよい」とエサウは答えた。
33 すると、ヤコブは言った「では、今すぐ誓ってください」 エサウは誓い、長子の権利をヤコブに譲った。
34 ヤコブは、エサウにパンとレンズ豆の煮物を与えた。エサウは飲み食いしたあげく、立ち去って行った。こうしてエサウは、長子の権利を軽んじた。


第二十六章


【ゲラルにおけるイサク】

01 アブラハムの時代にあった飢饉とは別に、この地方にまた飢饉があった。そこで、イサクはゲラルにいるペリシテ人の王アビメレクのところへ行った。
02 そのとき、神がイサクに現れて言った〈エジプトへ下って行ってはならない。私が命じる土地に滞在しなさい。
03 あなたがこの土地に寄留するならば、私はあなたと共にいてあなたを祝福し、これらの土地をすべてあなたとその子孫に与える。そして、あなたの父アブラハムとした私の誓いを成就する。
04 私は、あなたの子孫を天の星のように増やし、これらの土地をすべてあなたの子孫に与える。地上の諸国民はすべて、あなたの子孫によって祝福を得る。
05 アブラハムが私の声に聞き従い、私の戒めや命令、掟や教えを守ったからである〉
06 そこで、イサクはゲラルに住んだ。

【イサクはリベカを妹と偽る】

:07 その土地の人たちがイサクの妻のことを尋ねたとき、彼はリベカが自分の妻だと言うのを恐れて「私の妹です」と答えた。リベカが美しかったので、土地の者たちがリベカのゆえに自分を殺すのではないかと恐れたからである。

08 イサクは長く滞在していたが、あるとき、ペリシテ人の王アビメレクが窓から下を眺めると、イサクが妻のリベカと戯れていた。
09 アビメレクは、イサクを呼びつけて言った「あの女は、本当はあなたの妻ではないか。それなのになぜ『私の妹です』などと言ったのか?」 イサクは「彼女のゆえに、私は死ぬことになるかもしれないと思ったからです」と答えた。
10 アビメレクは言った「あなたは、何ということをしたのだ。民の誰かがあなたの妻と寝たら、あなたは私たちを罪に陥れるところであった」
11 アビメレクは、すべての民に命令を下した「この人、またはその妻に危害を加える者は、必ず死刑に処せられる」

12 イサクがその土地に穀物の種を蒔くと、その年のうちに百倍もの収穫があった。イサクは、神の祝福を受けた。
13 豊かになり、ますます富み栄えた。
14 多くの羊や牛の群れ、それに多くの召し使いを持つようになると、ペリシテ人はイサクを妬むようになった。

【ゲラルとベエル=シバの間にある井戸】

15 ペリシテ人は、かつてイサクの父アブラハムが僕(しもべ)たちに掘らせた井戸をことごとく塞(ふさ)いで土で埋めた。
16 アビメレクは、イサクに言った「あなたは私たちと比べて、あまりに強くなった。どうか、ここから出て行っていただきたい」

17 そこで、イサクはそこを去り、ゲラルの谷に天幕を張って住んだ。
18 そこにも、父アブラハムの時代に掘った井戸が幾つかあった。やはり、ペリシテ人がそれらを塞いでいた。イサクはそれらの井戸を掘り直し、父が付けたとおりの名前を付けた。
19 イサクの僕たちが谷で井戸を掘り、水が豊かに湧き出ると、
20 ゲラルの羊飼いは「この水は、私たちのものだ」と言って、イサクの羊飼いと争った。そこで、イサクはその井戸をエセク(=争い)と名付けた。彼らが、イサクと争ったからである。

21 イサクの僕たちが、もう一つの井戸を掘り当てると、それについても争いが生じた。そこで、イサクはその井戸をシトナ(=敵意)と名付けた。
22 イサクはそこから移り、さらにもう一つの井戸を掘り当てた。それについては、もはや争いは起こらなかった。イサクは、その井戸をレホボト(=広い場所)と名付け「とうとう、神は私たちの繁栄のために、この広い場所を与えてくれた」と言った。

【イサクに神が現れる】

23 イサクはさらに、そこからベエル=シバに行った。
24 その夜、神が現れて言った。
 〈私は、あなたの父アブラハムの神である。恐れてはならない。私は、あなたと共にいる。私はあなたを祝福し、子孫を増やす。わが僕アブラハムのゆえに〉
25 イサクは、そこに祭壇を築いて、神の名を呼んで礼拝した。そして天幕を張り、イサクの僕たちは井戸を掘った。

【アビメレクとの同盟】

26 アビメレクは、参謀アフザトと軍隊長ピコルと共に、ゲラルからイサクのところに来た。
27 イサクは、彼らに尋ねた「あなたたちは、私を憎んで追い出したのに、なぜここに来たのですか?」
28 彼らは答えた「神があなたと共にいることが、よく分かったからです。そこで考えたのですが、私たちはお互いに、つまり私たちとあなたとの間で誓約を交わし、あなたと契約を結びたいのです。

29 以前、私たちはあなたに何ら危害を加えず、むしろあなたのためになるよう計り、あなたを無事に送り出しました。そのようにあなたも、私たちにいかなる害も与えないでください。あなたは確かに、神に祝福された方です」
30 そこで、イサクは彼らのために祝宴を催し、共に飲み食いをした。
31 次の朝早く、互いに誓いを交わした後、イサクは彼らを送り出し、彼らは安らかに帰って行った。

32 その日に、井戸を掘っていたイサクの僕たちが戻って来て「水が出ました」と報告した。
33 そこで、イサクはその井戸をシブア(=誓い)と名付けた。そこで、その町の名は、今日に至るまで、ベエル=シバ(誓いの井戸)といわれている。

【エサウのヘト人の妻たち】

34 エサウは四十歳のとき、ヘト人ベエリの娘ユディトとヘト人エロンの娘バセマトを妻として迎えた。
35 彼女たちは、イサクとリベカにとって悩みの種となった。


第二十七章


【祝福を騙し取ったヤコブ】

01 イサクは年をとり、目がかすんで見えなくなってきた。そこで、上の息子エサウを呼び寄せて「息子よ」と言った。エサウが「はい」と答えると、
02 イサクは、言った「こんなに年をとったので、私はいつ死ぬか分からない。
03 今すぐに、弓と矢筒など、狩りの道具を持って野に行き、獲物を取って来なさい。
04 そして、私の好きなおいしい料理を作り、ここへ持って来てほしい。死ぬ前にそれを食べて、私自身の祝福をお前に与えたい」

05 リベカは、イサクが息子エサウに話しているのを聞いていた。エサウが獲物を取りに野に行くと、
06 リベカは息子ヤコブに言った「今、お父さんが兄さんのエサウにこう言っているのを耳にしました。
07 『獲物を取って来て、あのおいしい料理を作ってほしい。私は死ぬ前にそれを食べて、神の御前でお前を祝福したい』と。

08 私の子よ。今、私が言うことをよく聞いて、そのとおりにしなさい。
09 家畜の群れのところへ行って、よく肥えた子山羊(こやぎ)を二匹取っておいで。私が、それでお父さんの好きな料理を作ります。
10 それをお父さんのところへ持って行きなさい。お父さんは召し上がって、亡くなる前にお前を祝福してくれるでしょう」

11 しかし、ヤコブは母リベカに言った「でも、エサウ兄さんはとても毛深いのに、私の肌は滑らかです。
12 お父さんが私に触れれば、騙(だま)しているのが分かります。そうしたら、私は祝福どころか、反対に呪いを受けてしまいます」
13 母は言った「私の子よ。そのときには、お母さんがその呪いを引き受けます。ただ、私の言うとおりに、行ってしなさい」

14 ヤコブは子山羊を取りに行き、母のところに持って来た。母は、父の好きなおいしい料理を作った。
15 リベカは、家にしまっておいた上の息子エサウの晴れ着を取り出して、ヤコブに着せた。
16 さらに、子山羊の毛皮を彼の腕や滑らかな首に巻きつけた。
17 そうして、自分が作ったおいしい料理とパンを息子ヤコブに渡した。

18 ヤコブは、父のもとへ行き「お父さん」と呼んだ。父は「ここにいる。私の子よ。誰だ、お前は?」と尋ねた。
19 ヤコブは、言った「長男のエサウです。お父さんの言ったとおりにしてきました。さあ、どうぞ起きて、私の獲物を召し上がり、お父さんの祝福を私に与えてください」
20 「私の子よ。どうしてまた、こんなに早く獲物をしとめられたのか?」とイサクは、息子に尋ねた。ヤコブは「あなたの神、主が私のために計らってくださいました」と答えた。

21 イサクは、ヤコブに言った「近寄りなさい。触ってみて、本当にお前が息子エサウかどうか、確かめたい」
22 ヤコブが父イサクに近寄ると、イサクは彼に触りながら言った「声はヤコブだが、腕はエサウだ」
23 イサクは、ヤコブの腕が兄エサウの腕のように毛深くなっていたので、見破ることができなかった。そこで、彼は祝福しようとした。
24 そして、言った「お前は、本当に私の子エサウなのだな」 ヤコブは「もちろんです」と答えた。
25 イサクは、言った「では、お前の獲物をここへ持って来なさい。それを食べて、私自身の祝福をお前に与えよう」 ヤコブが料理を差し出すと、イサクは食べ、ぶどう酒をつぐと、それを飲んだ。

26 それから、父イサクは彼に言った「私の子よ、近寄って私に口づけをしなさい」
27 ヤコブが近寄って口づけをすると、イサクは、ヤコブの着物の匂いをかいで、祝福して言った。
 「ああ、私の子の香りは、神が祝福された野の香りのようだ。
28 どうか神が、天の露と地の産み出す豊かなもの、穀物とぶどう酒を、お前に与えてくださるように。
29 多くの民がお前に仕え 多くの国民がお前にひれ伏すように。
 お前は兄弟たちの主人となり、母の子らもお前にひれ伏す。お前を呪う者は呪われ お前を祝福する者は 祝福されるように」

【エサウは帰宅して事実を知る】

30 イサクがヤコブを祝福し終えて、ヤコブは父イサクの前から立ち去った。するとすぐに、エサウが狩りから帰って来た。
31 彼もおいしい料理を作り、父のところへ持って来た「お父さん。起きて、息子の獲物を食べてください。そして、あなた自身の祝福を私に与えてください」
32 父イサクが「お前は誰なのか」と聞くと「私です。あなたの息子、長男のエサウです」と答えが返ってきたのである。

33 イサクは、激しく体を震わせて言った「では、あれは、一体誰だったのだ。さっき獲物を取って私のところに持って来たのは。実は、お前が来る前に私は料理を食べて、彼を祝福してしまった。だから、彼が祝福されたものになっている」
34 エサウはこの父の言葉を聞くと、悲痛な叫びをあげて激しく泣き、父に向かって言った「お父さん。私も、この私も祝福してください!」

35 イサクは、言った「お前の弟が来て策略を使い、お前の祝福を奪ってしまった」
36 エサウは叫んだ「彼をヤコブとは、よくも名付けたものだ。これで二度も、私の足を引っ張り(=アーカブ)欺いた。あのときは私の長子の権利を奪い、今度は私の祝福を奪ってしまった」 エサウは、続けて言った「お父さんは、私のために祝福を残しておいてくれなかったのですか?」
37 イサクは、エサウに答えた「すでに私は、ヤコブをお前の主人とし、親族をすべて彼の僕(しもべ)とし、穀物もぶどう酒も彼のものにしてしまった。私の子よ。今となっては、お前のために何をしてやれようか」

【エサウの嘆きと憤り】

38 エサウは、父に叫んだ「お父さん。祝福はたった一つしかないのですか。私も、この私も祝福してください、私のお父さん」 エサウは、声をあげて泣いた。
39 父イサクは、言った。
 「地の産み出す豊かなものから遠く離れた所、この後、お前はそこに住む。天の露からも遠く隔てられて。
40 お前は、剣に頼って生きていく。しかし、お前は弟に仕える。いつの日にか、お前は反抗を企て、自分の首から軛(くびき)を振り落とす」

41 エサウは、父がヤコブを祝福したことを根に持って、ヤコブを憎むようになった。そして、心の中で言った「父の喪の日も遠くない。そのときがきたら、必ず弟のヤコブを殺してやる」

【ヤコブの逃亡】

42 ところが、上の息子エサウのこの言葉が母リベカの耳に入った。彼女は人をやって、下の息子ヤコブを呼び寄せて言った「大変です。エサウ兄さんがお前を殺して、恨みを晴らそうとしています。
43 私の子よ。今、私の言うことをよく聞き、急いでハランに、私の兄ラバンの所へ逃げなさい。
44 そして、お兄さんの怒りが治まるまで、しばらく伯父さんの所に置いてもらいなさい。
45 そのうちに、お兄さんの憤りも治まり、お前のしたことを忘れてくれるでしょう。そのときには、人をやってお前を呼び戻します。一日のうちにお前たち二人を失うことなど、どうしてできましょう」

46 リベカは、夫イサクに言った「私は、ヘト人の娘たちのことで、生きているのが嫌になりました。もしヤコブまでも、この土地の娘の中から、あのようなヘト人の娘をめとったら、私は生きている甲斐がありません」


第二十八章


【メソポタミアに逃れたヤコブ】

01 イサクは、ヤコブを呼び寄せて祝福し、命じた「お前は、カナンの娘の中から妻を迎えてはいけない。
02 ここを発って、パダン=アラムのベトエルおじいさんの家に行き、そこでラバン伯父さんの娘の中から、結婚相手を見つけなさい。
03 どうか、全能の神がお前を祝福し、繁栄させ、お前を増やして、多くの民の群れとしてくださるように。
04 どうか、アブラハムの祝福がお前とその子孫に及び、神がアブラハムに与えられた土地、お前が寄留しているこの土地を受け継ぐことができるように」
05 ヤコブはイサクに送り出されて、パダン=アラムのラバンの所へ旅立った。ラバンは、アラム人ベトエルの息子で、ヤコブとエサウの母リベカの兄であった。

【エサウの妻】

06 エサウは、知った。つまり、イサクがヤコブを祝福し、パダン=アラムへ送り出したこと。そこから妻を迎えさせようとしたこと。彼を祝福したときに「カナンの娘の中から妻を迎えてはいけない」と命じたこと。
07 さらに、ヤコブが父と母の命令に従ってパダン=アラムへ旅立ったことなど。
08 エサウは、それらのことを知って、カナンの娘たちが父イサクの気に入らないことも知った。
09 そこで、イスマエルのところへ行った。そこで、すでにいる妻の他にもう一人、アブラハムの息子イスマエルの娘で、ネバヨトの妹に当たるマハラトを妻とした。

:【ヤコブの夢】

10 ヤコブは、ベエル=シバを立ってハランへ向かった。
11 その途中で、日が沈んでしまったので、その場所で一夜を過ごすことにした。ヤコブは、その場所にあった石を一つ取って枕にして、そこに横たわった。
12 すると、彼は夢を見たのである。先端が天まで達する階段が、地に向かって伸びている。しかも、天使たちがそれを上ったり下ったりしていた。
13 神が傍らに立って、言った〈私は、あなたの父祖アブラハムの神・イサクの神・主である。あなたが今横たわっているこの土地を、あなたとあなたの子孫に与える。
14 あなたの子孫は、大地の砂粒のように多くなり、西・東・北・南へと広がっていくであろう。地上の氏族はすべて、あなたとあなたの子孫によって祝福される。
15 私は、あなたと共にいる。あなたがどこへ行っても、私はあなたを守り、必ずこの土地に連れ帰る。私は、あなたと約束したことを果たすまでは、決して見捨てない〉

16 ヤコブは、眠りから覚めて言った「まことに神が、この場所にいることを私は知らなかった」
17 そして、恐れおののいて言った「ここは、なんと畏れ多い場所だろう。ここは、まさしく神の家である。そうだ、ここは天の門だ」

18 ヤコブは、次の朝早く起きた。そして、枕にしていた石を取り、それを記念碑として立て、先端に油を注いだ。
19 そして、その場所をベテル(=神の家)と名付けた。かつては、その町はルズと呼ばれていた。

20 ヤコブはまた、誓願を立てて言った「神が私と共におられ、私が歩むこの旅路を守り、食べ物、着る物を与え、
21 無事に、父の家に帰らせてくださり、主が私の神となられるなら、
22 私が記念碑として立てたこの石を神の家とし、すべて、あなたが私に与えたものの十分の一を捧げます」


第二十九章


【ラバンのところへ行ったヤコブ】

01 ヤコブは旅を続けて、東方の人々の土地へ行った。
02 ふと見ると、野原に井戸があって、そのそばに羊が三つの群れになって伏していた。その井戸から、羊の群れに水を飲ませるのを待っていた。井戸の口の上には、大きな石が載せてあった。
03 すべての羊の群れを集め、石を井戸の口から転がして羊の群れに水を飲ませ、また石を元の所に戻しておくことになっていたからである。

04 ヤコブは、そこにいた人たちに尋ねた「皆さんは、どちらの方ですか?」 「私たちはハランの者です」と答えた。
05 そこで、ヤコブは尋ねた「では、ナホルの息子のラバンを知っていますか?」 「ええ、知っています」と、彼らは答えた。
06 ヤコブは、さらに尋ねた「元気でしょうか?」 「元気です。もうすぐ、娘のラケルも羊の群れを連れてやって来ます」
07 ヤコブは、言った「まだこんなに日は高いし、家畜を集める時でもない。羊に水を飲ませて、もう一度草を食べさせに行ったらどうですか?」
08 すると、彼らは答えた「そうはできないのです。羊の群れを全部ここに集め、あの石を井戸の口から転がして羊に水を飲ませるのですから」

09 ヤコブが彼らと話しているうちに、ラケルが父の羊の群れを連れてやって来た。彼女も、羊を飼っていたからである。
10 ヤコブは、伯父ラバンの娘ラケルと羊の群れを見るとすぐに、井戸の口へ近寄り石を転がして、伯父ラバンの羊に水を飲ませた。
11 ヤコブはラケルに口づけし、声をあげて泣いた。
12 ヤコブはラケルに、自分が彼女の父の甥に当たり、リベカの息子であることを打ち明けた。ラケルは走って行って、父に知らせた。

13 ラバンは、妹の息子ヤコブの事を聞くと、走って迎えに行き、ヤコブを抱き締めて口づけした。それから、ヤコブを自分の家に案内した。ヤコブが、ラバンに事の次第をすべて話した。
14 ラバンは、彼に言った「お前は、本当に私の骨肉の者だ」 ヤコブが、ラバンのもとにひと月ほど滞在したある日のことである。

【ラバンとヤコブとの約束】

15 ラバンは、ヤコブに言った「お前は、身内の者だからといって、ただで働くことはない。どんな報酬が欲しいか、言ってみなさい」
16 ところで、ラバンには二人の娘がいた。姉はレア、妹はラケルである。
17 姉のレアは、優しい目をしていた。妹のラケルは顔も美しく、容姿も優れていた。
18 ヤコブは、ラケルを愛していた。そこで「下の娘ラケルをくださるなら、私は七年間あなたの所で働きます」と言った。
19 ラバンは答えた「あの娘は、他の人に嫁がせるより、お前に嫁がせる方が良い。私の所にいなさい」

20 ヤコブは、ラケルのために七年間働いた。彼女を愛していたので、それはほんの数日のように思われた。
21 ヤコブはラバンに言った「約束の年月が満ちました。私の許嫁(いいなずけ)と一緒にならせてください」

【ヤコブは姉妹二人と結婚する】

22 ラバンは、土地の人たちをすべて集め、祝宴を開いた。
23 夜になると、娘のレアをヤコブのもとに連れて行ったので、ヤコブは彼女のところに入った。
24 ラバンはまた、女奴隷ジルパを娘レアに召し使いとして付けてやった。

25 ところが、朝になってヤコブが気づくと、レアであった。ヤコブが、ラバンに「どうして、こんなことをしたのですか。私が働いたのは、ラケルのためではありませんか。なぜ、私をだましたのですか?」と言った。
26 ラバンは、答えた「私たちの所では、妹を姉より先に嫁がせることはしません。
27 とにかく、一週間の婚礼の祝いを済ませなさい。そうすれば、妹の方もお前に嫁がせよう。だがもう七年間、うちで働いてもらわねばならない」
28 ヤコブが、言われたとおり一週間の婚礼の祝いを済ませると、ラバンは下の娘のラケルもヤコブに妻として与えた。

29 ラバンはまた、女奴隷ビルハを娘ラケルに召し使いとして付けてやった。
30 こうして、ヤコブはラケルをめとった。ヤコブはレアよりもラケルを愛した。そして、さらにもう七年ラバンのもとで働いた。

【ヤコブとレアの子どもたち】

31 神は、レアが疎んじられているのを見て、彼女の胎を開かれた。しかし、ラケルには子供ができなかった。
32 レアは身ごもって男の子を産み、ルベンと名付けた。それは、彼女が「神は私の苦しみを顧みて(=ラア)くださった。これからは、夫も私を愛してくれるにちがいない」と言ったからである。
33 レアは、また身ごもって男の子を産み「神は、私が疎んじられていることを耳にされ(=シャマ)、またこの子をも授けてくださった」と言って、シメオンと名付けた。
34 レアは、さらに身ごもって男の子を産み「これからはきっと、夫は私に結び付いて(=ラベ)くれるだろう。夫のために三人も男の子を産んだのだから」と言った。そこで、その子をレビと名付けた。
35 レアは、またまた身ごもって四人目の男の子を産み「今度こそ主をほめ讃え(=ヤダ)よう」と言った。そこで、その子をユダと名付けた。そしてしばらく、彼女は子を産まなくなった。


第三十章


【ラケルの召し使いによる子どもたち】

01 ラケルは、ヤコブとの間に子供ができないことが分かると、姉を妬むようになった。そして、ヤコブに向かって「私にも、ぜひ子供を与えてください。与えてくださらなければ、私は死にます」と言った。
02 ヤコブは、激しく怒って言った「私が、神に代われると言うのか。お前の胎に子供を宿らせないのは、神なのだ!」
03 ラケルは「私の召し使いビルハがいます。彼女のところに入ってください。彼女が子供を産み、私がその子を膝の上に迎えれば、彼女によって私も子供を持つことができます」と言った。

04 ラケルは、ヤコブに召し使いビルハを側女として与えたので、ヤコブは彼女のところに入った。
05 やがて、ビルハは身ごもってヤコブとの間に男の子を産んだ。
06 そのとき、ラケルは「神が私の訴えを正しくお裁き(=ディン)になり、私の願いを聞き入れ、男の子を与えてくれた」と言った。彼女は、その子をダンと名付けた。
07 ラケルの召し使いビルハは、また身ごもってヤコブとの間に二人目の男の子を産んだ。
08 ラケルは「姉と死に物狂いの争いをして(=ニフタル)、ついに勝った」と言って、ナフタリと名付けた。

【レアの召し使いによる子どもたち】

09 レアも、自分に子供ができなくなったのを知ると、自分の召し使いジルパをヤコブに側女とした。
10 レアの召し使いジルパは、ヤコブとの間に男の子を産んだ。
11 そのときレアは「なんと幸運な(=ガド)!」と言って、その子をガドと名付けた。
12 レアの召し使いジルパは、ヤコブとの間に二人目の男の子を産んだ。
;13 そのとき、レアは「なんと幸せなこと(=アシェル)か。娘たちは、私を幸せ者と言うにちがいない」と言って、その子をアシェルと名付けた。

;14 小麦の刈り入れのころ、ルベンは野原で恋なすびを見つけ、母レアのところへ持って来た。ラケルは、レアに「あなたの子供が取って来た恋なすびを、私にも分けてください」と頼んだ。
15 すると、レアは言った「あなたは、私の夫を取っただけでは気が済まず、私の息子の恋なすびまで取ろうとするのですか?」 ラケルは「それでは、あなたの子供の恋なすびの代わりに、今夜あの人があなたと床を共にするようにしましょう」と答えた。

【レアの子どもたち】

16 夕方になり、ヤコブが野原から帰って来た。レアは、出迎えて言った「あなたは、私のところに来なければなりません。私は、息子の恋なすびであなたを雇ったのですから」 その夜、ヤコブはレアと寝た。
17 神がレアの願いを聞き入れたので、レアは身ごもってヤコブとの間に五人目の男の子を産んだ。
18 そのとき、レアは「私が召し使いを夫に与えたので、神はその報酬(=サカル)をくださった」と言って、その子をイサカルと名付けた。

19 レアはまた身ごもって、ヤコブとの間に六人目の男の子を産んだ。
20 レアは「神がすばらしい贈り物を私にくださった。今度こそ、夫は私を尊敬してくれる(=ザバル)でしょう。夫のために、六人も男の子を産んだのだから」と言って、その子をゼブルンと名付けた。
21 その後、レアは女の子を産み、その子をディナと名付けた。

【ラケルの子ども】

22 しかし、神はラケルも心に留め、彼女の願いを聞き入れて、その胎を開いた。
23 ラケルは、身ごもって男の子を産んだ。そのときラケルは「神が私の恥をすすいでくださった」と言った。
24 彼女は「神が、私にもう一人男の子を加えてくださいますように(=ヨセフ)」と願ったので、その子をヨセフと名付けた。

【ヤコブの家畜の群】

25 ラケルがヨセフを産んだころ、ヤコブはラバンに言った「私を独り立ちさせて、生まれ故郷へ帰らせてください。
26 私は今まで、妻を得るためにあなたのところで働いてきたのですから、妻子と共に帰らせてください。あなたのために、私がどんなに尽くしたか、よくご存じのはずです」
27 ラバンは「お前さえ良ければ、もっといてほしいのだ。実は占いで、私がお前のお陰で神から祝福をいただいていることが分かった」と言った。
28 さらに続けて「お前の望む報酬を言いなさい。必ず支払うから」

29 ヤコブは、言った「私が、どんなにあなたのために尽くし、家畜の世話をしてきたかをご存じのはずです。
30 私が来るまでは、わずかだった家畜が、今ではこんなに多くなっています。私が来てからは、神があなたを祝福しています。しかし、今のままでは、いつになったら私は自分の家を持つことができるのでしょうか?」
31 「何をお前に支払えばよいのか」と、ラバンが尋ねた。ヤコブは、答えた「何もくださるには及びません。ただこういう条件なら、もう一度あなたの群れを飼い、世話をいたしましょう。

32 今日、私はあなたの群れを全部見回って、その中から、ぶちとまだらの羊をすべて、黒みがかった羊をすべて、それからまだらとぶちの山羊を取り出しておきます。だから、それを私の報酬にしてください。
33 明日、あなたが来て私の報酬をよく調べれば、私の正しいことは証明されるでしょう。山羊の中に、ぶちとまだらでないものや、羊の中に黒みがかっていないものがあったら、私が盗んだものと見なして結構です」
34 ラバンは、言った「よろしい。お前の言うとおりにしよう」

35 ところが、その日、ラバンは縞やまだらの雄山羊とぶちやまだらの雌山羊全部、つまり白いところが混じっているもの全部とそれに黒みがかった羊をみな取り出して、自分の息子たちの手に渡した。
36 ヤコブは、ラバンの残りの群れを飼っている場所との間に、歩いて三日かかるほどの距離をおいた。

37 そして、ヤコブはポプラ・アーモンド・プラタナスの木の若枝を取って来て、皮をはぎ、枝に白い木肌の縞を作った。
38 家畜の群れがやって来たときに、それが群れの目につくように、家畜の水飲み場の水槽の中に入れた。そして、家畜の群れが水を飲みにやって来たときに、盛りがつくようにしたのである。
39 家畜の群れは、その枝の前で交尾をした。そして、縞やぶちやまだらのものを産んだ。

40 また、ヤコブは羊を二手に分けて、一方の群れをラバンの群れの中の縞のものと全体が黒みがかったものとに向かわせた。彼は、自分の群れだけにそうしたが、ラバンの群れにはそうしなかった。
41 また、丈夫な羊が交尾する時期になると、ヤコブは皮をはいだ枝をいつも水ぶねの中に入れて、群れの前に置き、枝のそばで交尾をさせた。
42 しかし、弱い羊のときには枝を置かなかった。そこで、弱いのはラバンのものとなり、丈夫なのはヤコブのものとなった。
43 こうして、ヤコブはますます豊かになり、多くの家畜や男女の奴隷、それにらくだやろばなどを持った。


第三十一章


【逃げ出したヤコブ】

01 ヤコブは、ラバンの息子たちが「ヤコブは、私たちの父のものを全部奪ってしまった。父のものをごまかして、あの富を築き上げたのだ」と言っているのを耳にした。
02 また、ラバンの態度を見ると、確かに以前とは変わっていた。

03 神は、ヤコブに言った〈あなたは、故郷である先祖の土地に帰りなさい。私は、あなたと共にいる〉
04 ヤコブは人をやって、ラケルとレアを家畜の群れがいる野原に呼び寄せた。
05 そして、言った「最近、気づいたのだが、あなたたちのお父さんは、私に対して以前とは態度が変わった。しかし、私の神は、ずっと私と共にいてくださった。
06 あなたたちも知っているように、私は全力を尽くして、お父さんのもとで働いてきた。
07 しかし、お父さんは私をだまして、私の報酬を十回も変えた。それでも、神は私に害を加えることをお許しにならなかった。

08 お父さんが『ぶちのものが、お前の報酬だ』と言えば、群れはみなぶちのものを産むし『縞のものが、お前の報酬だ』と言えば、群れはみな縞のものを産んだ。
09 神は、あなたたちのお父さんの家畜を取り上げて、私にお与えになったのだ。
10 群れの発情期のころのことだが、夢の中で私が目を上げて見ると、雌山羊の群れとつがっている雄山羊は、縞とぶちとまだらのものばかりだった。

11 そのとき、夢の中で天使が『ヤコブよ』と言ったので『はい』と答えた。
12 すると、こう言った『目を上げて見なさい。雌山羊の群れとつがっている雄山羊はみな、縞とぶちとまだらのものだけだ。ラバンのあなたに対する仕打ちは、すべて私には分かっている。
13 私は、ベテルの神である。かつてあなたは、そこに記念碑を立てて油を注ぎ、私に誓願を立てたではないか。さあ、今すぐこの土地を出て、あなたの故郷に帰りなさい』」

14 ラケルとレアは、ヤコブに答えた「父の家に、私たちへの嗣業の割り当て分がまだあるでしょうか?
15 私たちはもう、父にとっては他人と同じではありませんか。父は私たちを売って、しかもそのお金を使い果たしてしまったのです。
16 神が、父から取り上げられた財産は、確かに全部私たちと子供たちのものです。ですから、どうか今すぐ、神があなたに告げられたとおりになさってください」

17 ヤコブは直ちに、子供たちと妻たちをらくだに乗せた。
18 パダン=アラムで得たすべての財産である家畜を駆り立てて、父イサクのいるカナン地方へ向かって出発した。
19 そのとき、ラバンは羊の毛を刈りに出かけていたので、ラケルは父の家の守り神の像を盗んだ。
20 ヤコブもアラム人ラバンを欺いて、自分が逃げ去ることを悟られないようにした。
21 ヤコブはこうして、すべての財産を持って逃げ出し、川を渡ってギレアドの山地へ向かった。

【ラバンはヤコブを追う】

22 ヤコブの逃げたことがラバンに知れたのは、三日目であった。
23 ラバンは一族を率いて、七日の道のりを追いかけて行き、ギレアドの山地でヤコブに追いついた。
24 その夜、夢の中で神はアラム人ラバンに言った〈ヤコブを一切非難せぬよう、よく心に留めておきなさい〉

25 ラバンがヤコブに追いついたとき、ヤコブは山の上に天幕を張っていた。ラバンも一族と共に、ギレアド山に天幕を張った。
26 ラバンは、ヤコブに言った「一体何ということをしたのか。私を欺き、しかも娘たちを戦争の捕虜のように駆り立てて行くとは。
27 なぜ、こっそり逃げ出したりして、私をだましたのか? ひとこと言ってくれれば、私は太鼓や竪琴で喜び歌って、送り出したものを。

28 孫や娘たちに別れの口づけもさせないとは、愚かなことをしたものだ。
29 私は、お前たちをひどい目に遭わせることもできるが、夕べお前たちの父の神が『ヤコブを一切非難せぬよう、よく心に留めておきなさい』と私に告げた。
30 父の家が恋しくて去るのなら、去ってもよい。しかし、なぜ私の守り神を盗んだのか?」
31 ヤコブは、ラバンに答えた「私は、あなたが娘たちを私から奪い取るのではないかと思って恐れただけです。
32 もしも、あなたの守り神が誰かのところで見つかれば、その者を生かしてはおきません。私たち一同の前で、私のところにあなたのものがあるかどうか調べて、取り戻してください」 ヤコブは、ラケルがそれを盗んでいたことを知らなかったのである。

【ラバンが盗まれた守り神を探す】

33 そこで、ラバンはヤコブの天幕に入り、さらにレアの天幕や二人の召し使いの天幕にも入って捜してみたが、見つからなかった。そこで、ラバンがレアの天幕を出て、ラケルの天幕に入った。
34 ラケルは、すでに守り神の像を取って、らくだの鞍の下に入れ、その上に座っていた。したがって、ラバンは天幕の中をくまなく調べたが見つけることはできなかった。
35 ラケルは、父に言った「お父さん、どうか悪く思わないでください。私は今、月のものがあるので立てません」 ラバンは、なおも捜したが、そんなわけで守り神の像を見つけることはできなかった。

【ヤコブの反駁】

36 ヤコブは怒ってラバンを責め、言い返した「私に何の背反、何の罪があって、私の後を追って来たのですか?
37 あなたは、私の物を一つ残らず調べましたが、あなたの家の物が一つでも見つかりましたか。それをここに出して、私の一族とあなたの一族の前に置き、私たち二人の間を、皆に裁いてもらおうではありませんか?
38 この二十年間というもの、私はあなたのもとにいましたが、あなたの雌羊や雌山羊が子を産み損ねたことはありません。私は、あなたの群れの雄羊を食べたこともありません。
39 野獣に噛み裂かれたものがあっても、あなたのところへ持って行かないで、自分で償いました。昼であろうと夜であろうと、盗まれたものはみな弁償するように、あなたは要求しましたからです。

40 しかも、私はしばしば昼は猛暑に、夜は極寒に悩まされ、眠ることもできませんでした。
41 この二十年間というもの、私はあなたの家で過ごしましたが、そのうち十四年はあなたの二人の娘のため、六年はあなたの家畜の群れのために働きました。しかも、あなたは私の報酬を十回も変えました。
42 もしも、私の父の神、アブラハム・イサクの畏れ敬う神が私の味方でなかったなら、あなたはきっと何も持たせずに、私を追い出したことでしょう。神は、私の労苦と悩みを目に留められ、昨夜、あなたを諭されたのです」

【ヤコブとラバンの契約】

43 ラバンは、ヤコブに答えた「この娘たちは私の娘だ。この孫たちも私の孫だ。この家畜の群れも私の群れ、いや、お前の目の前にあるものはみな私のものだ。しかし、娘たちや娘たちが産んだ孫たちのために、もはや、手出しはしない。
44 さあ、これから、お前と私は契約を結ぼうではないか。そして、お前と私の間に何か証拠となるものを立てよう」
45 ヤコブは一つの石を取り、それを記念碑として立てた。
46 そして、一族の者に「石を集めてきてくれ」と言った。彼らは石を取ってきて石塚を築き、その石塚の傍らで食事を共にした。

47 ラバンはそれをエガル=サハドタと呼び、ヤコブはガルエドと呼んだ。
48 ラバンは、また「この石塚(=ガル)は、今日からお前と私の間の証拠(=エド)となる」とも言った。そこで、その名はガルエドと呼ばれるようになった。
49 そこはまた、ミツパ(=見張り所)とも呼ばれた 「私たちが互いに離れているときも、神がお前と私の間を見張ってくださるように。
50 もしも、お前が私の娘たちを苦しめたり、私の娘たち以外に他の女性を娶ったりするならば、たとえ、他に誰もいなくても、神がお前と私の証人であることを忘れるな」とラバンが言ったからである。

51 ラバンはさらに、ヤコブに言った「ここに、石塚がある。またここに、私がお前との間に立てた記念碑がある。
52 この石塚は証拠であり、記念碑は証人だ。敵意をもって、私がこの石塚を越えてお前の方に侵入したり、お前がこの石塚とこの記念碑を越えて私の方に侵入したりすることがないようにしよう。
53 どうか、アブラハムの神とナホルの神、彼らの先祖の神が私たちの間を正しく裁いてくださいますように」 ヤコブも、父イサクの畏れ敬う方にかけて誓った。

54 ヤコブは山の上で生け贄を捧げ、一族を招いて食事を共にした。食事の後、彼らは山で一夜を過ごした。


第三十二章


【ラバンは帰っていった】

01 次の朝早く、ラバンは孫や娘たちに口づけして祝福を与え、そこを去って自分の家へ帰って行った。
02 ヤコブが旅を続けていると、突然、天使が現れた。
03 ヤコブは、彼らを見たとき「ここは神の陣営だ」と言い、その場所をマハナイム(=二組の陣営)と名付けた。

【ヤコブはエサウとの出会いに備える】

04 ヤコブは、あらかじめ、セイル地方すなわちエドムの野にいる兄エサウのもとに、使いの者を遣わすことにした。
05 お前たちは、私の主人エサウに「あなたの僕(しもべ)ヤコブは、申しております。私はラバンのもとに滞在して、今日に至りました。
06 そして、牛・ろば・羊・男女の奴隷を所有するようになりました。そこで、使いをご主人さまのもとに送って報告し、ご機嫌を伺います」と、言いなさいと命じた

07 使いの者は、ヤコブのところに戻って来て「兄上エサウさまのところへ行って参りました。兄上さまの方でも、あなたを迎えるため、四百人のお供を連れてこちらへお出でになる途中です」と報告した。
08 ヤコブは非常に恐れ、思い悩んだ末、連れている人々を羊・牛・らくだなどと共に二組に分けた。
09 エサウがやって来て、一方の組に攻撃を仕掛けても、残りの組が助かると思ったからである。

10 ヤコブは、祈った「私の父アブラハムの神、私の父イサクの神、主よ、あなたは私にこう言われました『生まれ故郷に帰りなさい。私はあなたに幸いを与える』と。
11 私は、あなたが僕(しもべ)に示してくださった慈しみとまことを受けるに足りない者です。かつて私は、一本の杖を頼りにこのヨルダン川を渡りましたが、今は二組の陣営を持つまでになりました。
12 どうか、兄エサウの手から救ってください。私は、兄が恐ろしいのです。兄が攻めて来て、私をはじめ母も子供も殺すかもしれません。
13 あなたは、かつて言われました『私は、必ずあなたに幸いを与え、あなたの子孫を海辺の砂のように、数えきれないほど多くする』と」

14 その夜、ヤコブはそこに野宿して、自分の持ち物の中から兄エサウへの贈り物を選んだ。
15 それは、雌山羊二百匹・雄山羊二十匹・雌羊二百匹・雄羊二十匹・
16 乳らくだ三十頭・その子供・雌牛四十頭・雄牛十頭・雌ろば二十頭・雄ろば十頭であった。
17 それを群れごとに分け、召し使いたちの手に渡して言った「群れと群れとの間に距離を置き、私の先に立って行きなさい」

18 また、先頭を行く者には、次のように命じた「兄のエサウがお前に出会って『お前の主人は誰だ。どこへ行くのか。ここにいる家畜は誰のものだ』と尋ねたら、
19 こう言いなさい『これは、あなたさまの僕(しもべ)ヤコブのもので、ご主人のエサウさまに差し上げる贈り物です。ヤコブも後から参ります』と」

20 ヤコブは、二番目の者にも、三番目の者にも、群れの後について行くすべての者に命じて言った「エサウに出会ったら、これと同じことを述べ、
21 『あなたさまの僕(しもべ)ヤコブも後から参ります』と言いなさい」 ヤコブは、贈り物を先に行かせて兄をなだめ、その後で顔を合わせれば、恐らく快く迎えてくれるだろうと思ったのである。
22 こうして、贈り物を先に行かせ、ヤコブ自身は、その夜は野営地に止まった。

【神の使者とヤコブの格闘】

23 その夜、ヤコブは起きて、二人の妻と二人の側女、それに十一人の子供を連れてヤボクの渡しを渡った。
24 皆を導いて川を渡らせ、持ち物も渡してしまった。

25 ヤコブは、独り後に残った。そのとき、何者かが夜明けまでヤコブと格闘をした。
26 ところが、その人はヤコブに勝てないとみて、ヤコブの腿の関節を打ったので、格闘をしているうちにヤコブの腿の関節がはずれた。
27 その人は〈もう去らせてくれ。夜が明けてしまうから〉と言った。ヤコブは答えた「いいえ、祝福をしてくださるまでは、離しません」
28 〈お前の名は、何というのか〉とその人が尋ねた。彼は「ヤコブです」と答えた。

:【ヤコブがイスラエルと呼ばれるという予言】

29 その人は、言った〈お前の名は、もうヤコブではなく、これからはイスラエルと呼ばれる。お前は、神と闘って勝ったからだ〉

30 「どうか、あなたのお名前を教えてください」とヤコブが尋ねた。すると〈どうして、私の名を尋ねるのか?〉と言って、ヤコブをその場で祝福した。
31 ヤコブは「私は、顔と顔とを合わせて神を見た。なのに、なお生きている」と言って、その場所をペヌエル(=神の顔)と名付けた。
32 ヤコブがペヌエルを過ぎたとき、太陽は彼の上に昇った。ヤコブは、腿を痛めて足を引きずっていた。
33 こういうわけで、イスラエルの人々は今でも、家畜の腿の関節の上にある腰の筋を食べない。神がヤコブの腿の関節、つまり腰の筋のところを打ったからである。


第三十三章


【ヤコブとエサウとの再会】

01 ヤコブが目を上げると、エサウが四百人の者を引き連れて来るのが見えた。ヤコブは、子供たちをそれぞれレアとラケルと二人の側女とに分けた。
02 側女とその子供たちを前に、レアとその子供たちをその後に、ラケルとヨセフを最後に置いた。
03 ヤコブはそれから、先頭に進み出て、兄のもとに着くまでに七度地にひれ伏した。

04 エサウは走って来てヤコブを迎え、抱き締め、首を抱えて口づけし、共に泣いた。
05 やがて、エサウは顔を上げ、女たちや子供たちを見回して尋ねた「一緒にいるこの人々は、誰なのか?」 ヤコブは「あなたの僕(しもべ)である私に、神が恵んでくれた子供たちです」と答えた。
06 そして、側女たちも子供たちと共に進み出て、ひれ伏した。
07 次に、レアが子供たちと共に進み出てひれ伏し、最後に、ヨセフとラケルが進み出てひれ伏した。

【エサウは贈り物を受け取る】

08 エサウは尋ねた「今、私が出会ったあの多くの家畜は何のつもりか?」 ヤコブが「ご主人さまの好意を得るためです」と答えた。
09 エサウは、言った「弟よ、私のところには何でも十分ある。お前のものは、お前が持っていなさい」
10 ヤコブは、言った「いいえ。もし御好意をいただけるのであれば、どうぞ贈り物をお受け取りください。兄上のお顔は、私には神の顔のように見えます。この私を、温かく迎えてくださったのですから。
11 どうか、持参した贈り物をお納めください。神が私に恵みを与えたので、私は何でも持っていますから」 ヤコブがしきりに勧めたので、エサウは受け取った。

12 それから、エサウは言った「さあ、一緒に出かけよう。私が先導するから」
13 「ご主人さま。ご存じのように、子供たちはか弱く、私も羊や牛の子に乳を飲ませる世話をしなければなりません。群れは、一日でも無理に追い立てると死んでしまいます。
14 どうかご主人さま、僕(しもべ)におかまいなく先にお進みください。私は、ここにいる家畜や子供たちの歩みに合わせてゆっくり進み、セイルのご人様さまのもとへ参りましょう」とヤコブは答えた。
15 そこで、エサウは言った「では、私が連れている者を何人か、お前のところに残しておくことにしよう」 ヤコブは「いいえ。それには及びません。御好意だけで十分です」と答えた。

16 エサウは、そんなわけでセイルへの道を先に帰って行った。
17 ヤコブはスコトへ行き、自分の家を建て、家畜の小屋を作った。そこで、その場所の名はスコト(=小屋)と呼ばれている。
18 ヤコブはこうして、パダン=アラムから無事にカナン地方にあるシケムの町に着き、町のそばに宿営した。
19 ヤコブは、天幕を張った土地の一部を、シケムの父ハモルの息子たちから百ケシタで買い取った。
20 そして、そこに祭壇を建てて、それをエル=エロヘ=イスラエルと呼んだ。


第三十四章


シケムがディナを辱める】

01 あるとき、レアとヤコブとの間に生まれた娘のディナが、土地の娘たちに会いに出かけた。
02 その土地の首長であるヒビ人ハモルの息子シケムが、彼女を見かけて捕らえ、共に寝て辱めた。
03 シケムは、ヤコブの娘ディナに心を奪われ、この若い娘を愛し、言い寄った。
04 さらにシケムは、父ハモルに言った「どうか、この娘と結婚させてください」
05 ヤコブは、娘のディナが汚されたことを聞いたが、息子たちは家畜を連れて野に出ていたので、彼らが帰るまで黙っていた。

06 シケムの父ハモルが、ヤコブと話し合うためにやって来た。
07 ヤコブの息子たちが野から帰って来てこのことを聞いて、互いに嘆き、また激しく憤った。シケムがヤコブの娘と寝て、イスラエルに対して恥ずべきことを行ったからである。それは、してはならないことであった。

08 ハモルは、彼らと話した「息子のシケムは、あなたがたの娘さんを恋い慕っています。どうか、娘さんを息子の嫁にしてください。
09 お互いに姻戚関係を結び、あなたがたの娘さんを私どもにくださり、私どもの娘を嫁にしてくださいませんか。
10 そして、私どもと一緒に住んでください。あなたがたのための土地も、十分あります。どうか、ここに移り住んで、自由に使ってください」

11 シケムも、ディナの父や兄弟たちに言った「ぜひとも、よろしくお願いします。お申し出があれば、何でも差し上げます。
12 どんなに高い結納金でも贈り物でも、お望みどおりにします。ですから、ぜひあの方を私の妻にください」

:【提案に対する割礼の陰謀】

13 しかし、シケムが妹のディナを汚したので、ヤコブの息子たちは、シケムとその父ハモルを騙(だま)してこう答えた。
14 「割礼を受けていない男に、妹を妻として与えることはできません。そのようなことは、私たちの恥とするところです。
15 ただ、次の条件がかなえられれば、あなたたちに同意しましょう。それは、あなたたちの男性が皆、割礼を受けて私たちと同じようになることです。
16 そうすれば、私たちの娘らをあなたたちに与え、あなたたちの娘を私たちが娶(めと)ります。そして私たちは、あなたたちと一緒に住んで一つの民となりましょう。
17 しかし、もしも割礼を受けることに同意しないなら、私たちは娘を連れてここを立ち去ります」

18 ハモルとその息子シケムは、この条件なら受け入れてもよいと思った。
19 とくにシケムは、ヤコブの娘を愛していたので、ためらわず実行することにした。彼は、ハモル家の中では、最も尊敬されていた。
20 ハモルと息子シケムは、町の門のところへ行き町の人々に提案した。
21 「あの人たちは、私たちと仲良くやっていける人たちだ。彼らをここに住まわせ、この土地を自由に使ってもらうことにしようではないか。土地はご覧のとおり十分広いから、彼らが来ても大丈夫だ。そして、彼らの娘たちを私たちの嫁として迎え、私たちの娘たちを彼らに与えようではないか。

22 ただ、次の条件がかなえられれば、あの人たちは私たちと一緒に住み、一つの民となることに同意するというのだ。それは、彼らが割礼を受けているように、私たちも男性は皆、割礼を受けることだ。
23 そうすれば、彼らの家畜の群れも財産も動物もみな、私たちのものになるではないか。それには、ただ彼らの条件に同意さえすれば、彼らは私たちと一緒に住むことができるのだ」

24 町の門のところに集まっていた人々は皆、ハモルと息子シケムの提案を受け入れた。町の門のところに集まっていた男性はこうして、すべて割礼を受けた。

【割礼後の虐殺】

25 三日目になって、男たちがまだ傷の痛みに苦しんでいたとき、ヤコブの二人の息子、つまりディナの兄のシメオンとレビは、めいめい剣を取って難なく町に入り、男たちをことごとく殺した。
26 ハモルと息子シケムも剣にかけて殺し、シケムの家からディナを連れ出した。
27 ヤコブの息子たちは、倒れている者たちに襲いかかり、さらに町中を略奪した。自分たちの妹を汚したからである。
28 そして、羊や牛やろばなど、町の中のものも野にあるものも奪い取った。
29 さらに、家の中にあるものもみな奪い、女も子供もすべて捕虜にした。

30 「困ったことをしてくれたものだ。私はこの土地に住むカナン人やペリジ人の憎まれ者になり、のけ者になってしまった。こちらは少人数なのだから、彼らが集まって攻撃してきたら、私も家族も滅ぼされてしまうではないか」と、ヤコブがシメオンとレビに言った。
31 二人は、こう言い返した「私たちの妹が、娼婦のように扱われてもかまわないのですか?」


第三十五章


【ベテルでのヤコブ】

01 神は、ヤコブに言った〈さあ、ベテルに行って、そこに住みなさい。その地に、あなたが兄エサウを避けて逃げたとき、あなたに現れた神のための祭壇を造りなさい〉
02 ヤコブは、家族の者や一緒にいるすべての人々に言った「お前たちが身に着けている外国の神々を取り去り、身を清めて衣服を着替えなさい。
03 さあ、これからベテルに行こう。私はその地に、苦難のとき私に答え、旅の間は私と共にいた神のために祭壇を造る」
04 人々は、持っていた外国のすべての神々と、着けていた耳飾りをヤコブに渡したので、ヤコブはそれらをシケムの近くにある樫の木の下に埋めた。

05 こうして一同は出発したが、神が周囲の町々を恐れさせたので、ヤコブの息子たちを追跡する者はなかった。

【ヤコブはイスラエルとなる】

06 ヤコブは、やがて一族の者すべてと共に、カナン地方のルズ、すなわちベテルに着いた。
07 そこに祭壇を築いて、その場所をエル=ベテルと名付けた。兄を避けて逃げたとき、神がそこでヤコブに現れたからである。

08 リベカの乳母デボラが死に、ベテルの下手にある樫の木の下に葬られた。そこで、その名はアロン=バクト(=嘆きの樫の木)と呼ばれるようになった。
09 ヤコブが、パダン=アラムから帰ったとき、神は再びヤコブに現れて祝福をした。
10 神は、彼に言った。
: 〈あなたの名は、ヤコブである。しかし、あなたの名はもはやヤコブと呼ばれずに、イスラエルがあなたの名となる〉
 神はこうして、彼をイスラエルと名付けられた。

11 神は、また彼に言った。
 〈私は、全能の神である。産めよ、増えよ。あなたから一つの国民、いや多くの国民の群れが起こり、多くの王たちが出る。
12 私は、アブラハム・イサクに与えた土地を、あなたに与える。また、あなたに続く子孫に与える」

13 神はヤコブと語った場所を離れて、昇って行かれた。
14 ヤコブは、神が自分と語った場所に記念碑を立てた。それは石の柱で、彼はその上にぶどう酒を注ぎかけ、また油を注いだ。
15 そしてヤコブは、神が自分と語った場所をベテルと名付けた。

【ベニヤミンの誕生とラケルの死】

16 一同がベテルを出発し、まだエフラタまで着くにはかなりの所で、ラケルが産気づいた。しかし、難産であった。
17 ラケルが産みの苦しみをしているとき、助産婦は彼女に「心配ありません。今度も男の子ですよ」と言った。
18 ラケルが、最後の息を引き取ろうとするとき、その子をベン=オニ(=私の苦しみの子)と名付けたが、父はこれをベニヤミン(=幸いの子)と呼んだ。
19 ラケルは死んで、エフラタ、すなわち今日のベツレヘムへ向かう道の傍らに葬られた。
20 ヤコブは、彼女の葬られた所に記念碑を立てた。それは、ラケルの葬りの碑として今でも残っている。

【ルベンの近親相姦】

21 イスラエルは、さらに旅を続けて、ミグダル=エデルを過ぎた所に天幕を張った。
:22 イスラエルがそこに滞在していたとき、ルベンは父の側女ビルハのところへ入って寝た。このことは、イスラエルの耳にも入った。

:【ヤコブの十二人の子たち】


-- ヤコブの息子は、十二人であった。
23 レアとの間の息子が、ヤコブの長男ルベン・それからシメオン・レビ・ユダ・イサカル・ゼブルン。
24 ラケルとの息子が、ヨセフ・ベニヤミン。
25 ラケルの召し使いビルハとの息子が、ダン・ナフタリ。
26 レアの召し使いジルパとの息子が、ガド・アシェルである。これらは、パダン=アラムで生まれたヤコブの息子たちである。

【イサクの死】

27 ヤコブは、キルヤト=アルバ、すなわちヘブロンのマムレにいる父イサクのところへ行った。そこは、イサクだけでなく、アブラハムも滞在していた所である。
:28 イサクの生涯は、百八十年であった。
29 イサクは息を引き取り、高齢のうちに満ち足りて死に、先祖の列に加えられた。息子のエサウとヤコブが、彼を葬った。


第三十六章


【エサウの家系】

01 エサウ、すなわちエドムの系図は次のとおり。
02 エサウは、カナンの娘たちの中から妻を迎えた。ヘト人エロンの娘アダ、ヒビ人ツィブオンの孫娘でアナの娘オホリバマ。
03 それに、ネバヨトの姉妹でイスマエルの娘バセマトである。
04 アダは、エサウとの間にエリファズを産み、バセマトはレウエルを産んだ。
05 オホリバマは、エウシュ・ヤラム・コラを産んだ。これらは、カナン地方で生まれたエサウの息子たちである。

【エサウの移動】

06 エサウは、妻・息子・娘・家で働くすべての人々・家畜の群れ・すべての動物を連れ、カナンの土地で手に入れた全財産を携えて、弟ヤコブのところから離れて、他の土地へ出て行った。
07 彼らの所有物は、二人が一緒に住むにはあまりにも多く、滞在していた土地は彼らの家畜を養うには狭すぎたからである。
08 エサウはこうして、セイルの山地に住むようになった。エサウとは、エドムのことである。

【エサウの子孫】

09 セイルの山地に住んでいるエドム人の先祖、エサウの系図は次のとおり。
10 まず、エサウの息子たちの名前を挙げると、エリファズはエサウの妻アダの子で、レウエルはエサウの妻バセマトの子である。
11 エリファズの息子たちは、テマン・オマル・ツェフォ・ガタム・ケナズ。
12 エサウの息子エリファズの側女ティムナは、エリファズとの間にアマレクを産んだ。以上が、エサウの妻アダの子孫である。

13 レウエルの息子たちは、ナハト・ゼラ・シャンマ・ミザである。以上が、エサウの妻バセマトの子孫。
14 ツィブオンの孫娘で、アナの娘であるエサウの妻オホリバマの息子たちは、次のとおり。彼女は、エサウとの間にエウシュ・ヤラム・コラを産んだ。

【エドム人の首長】

15 エサウの子孫である首長は次のとおり。まず、エサウの長男エリファズの息子たちについていえば、首長テマン・首長オマル・首長ツェフォ・首長ケナズ・
16 首長コラ・首長ガタム・首長アマレク。これらは、エドム地方に住むエリファズ系の首長で、アダの子孫である。

17 次に、エサウの子レウエルの息子たちについていえば、首長ナハト・首長ゼラ・首長シャンマ・首長ミザ。これらは、エドム地方に住むレウエル系の首長で、エサウの妻バセマトの子孫である。

18 エサウの妻オホリバマの息子たちについていえば、首長エウシュ・首長ヤラム・首長コラ。これらは、アナの娘であるエサウの妻オホリバマから生まれた首長である。
19 以上が、エサウ、すなわちエドムの子孫である首長たちである。

【セイル地方の子たち】

20 この土地に住むフリ人セイルの息子たちは、ロタン・ショバル・ツィブオン・アナ・
21 ディション・エツェル・ディシャン。これらは、エドム地方に住むセイルの息子で、フリ人の首長たちである。
22 ロタンの息子たちは、ホリとヘマムであり、ロタンの妹がティムナである。
23 ショバルの息子たちは、アルワン・マナハト・エバル・シェフォ・オナム。
24 ツィブオンの息子たちは、アヤとアナ。アナは父ツィブオンのろばを飼っていたとき、荒野で泉を発見した人である。
25 アナの子供たちは、ディションとアナの娘オホリバマである。

26 ディションの息子たちは、ヘムダン・エシュバン・イトラン・ケラン。
27 エツェルの息子たちは、ビルハン・ザアワン・アカン。
28 ディシャンの息子たちは、ウツ・アラン。
29 フリ人の首長は次のとおり。首長ロタン・首長ショバル・首長ツィブオン・首長アナ・
30 首長ディション・首長エツェル・首長ディシャン。以上がフリ人の首長であり、セイル地方に住むそれぞれの首長であった。

【エドムの王たち】

31 イスラエルの人々を治める王がまだいなかった時代、エドム地方を治めていた王たちは次のとおり。
32 エドムで治めていたのは、ベオルの息子ベラであり、その町の名はディンハバといった。

33 ベラが死んで、代わりに王となったのは、ボツラ出身でゼラの息子ヨバブ。
34 ヨバブが死んで、代わりに王となったのは、テマン人の土地から出たフシャム。
35 フシャムが死んで、代わりに王となったのは、ベダドの息子ハダドであり、モアブの野でミディアン人を撃退した人である。その町の名はアビト。
36 ハダドが死んで、代わりに王となったのは、マスレカ出身のサムラ。
37 サムラが死んで、代わりに王となったのは、ユーフラテス川のレホボト出身のシャウル。
38 シャウルが死んで、代わりに王となったのは、アクボルの息子バアル=ハナン。
39 アクボルの息子バアル=ハナンが死んで、代わりに王となったのは、ハダドである。その町の名はパウといい、その妻の名はメヘタブエルといった。彼女は、マトレドの娘でメ=ザハブの孫娘である。

【エドムの首長たち】

40 エサウ系の首長たちの名前は、氏族と場所の名に従って挙げれば、首長ティムナ・首長アルワ・首長エテト・
41 首長オホリバマ・首長エラ・首長ピノン・
42 首長ケナズ・首長テマン・首長ミブツァル・
43 首長マグディエル・首長イラムである。以上がエドムの首長であって、彼らが所有した領地に従って挙げたものである。エサウは、エドム人の先祖である。


第三十七章


:【ヨセフの夢】

01 ヤコブは、父がかつて滞在していたカナン地方に住んでいた。
02 ヤコブの家族の由来は、次のとおり。ヨセフは十七歳のとき、兄たちと羊の群れを飼っていた。まだ若く、父の側女ビルハやジルパの子供たちと一緒にいた。ヨセフは兄たちのことを父に告げ口した。
03 イスラエルは、ヨセフが年寄り子であったので、どの息子よりもかわいがった。そして、彼には裾の長い晴れ着を作ってやった。
04 兄たちは、父がどの兄弟よりもヨセフをかわいがるのを見て、ヨセフを憎み、穏やかに話すこともできなかった。

05 ヨセフは夢を見て、それを兄たちに語った。それで、彼らはヨセフをますます憎むようになった。
06 ヨセフは、言った「聞いてください。私はこんな夢を見ました。
07 畑で、私たちが束を結わえていると、いきなり私の束が起き上がり、まっすぐに立ったのです。すると、兄さんたちの束が周りに集まって来て、私の束にひれ伏しました」
08 兄たちは、ヨセフに言った「何、お前が私たちの王になるというのか。お前が、私たちを支配するというのか?」 兄たちは、その夢のために、ヨセフをますます憎んだ。

09 ヨセフは、また別の夢を見て、それを兄たちに話した「私は、また夢を見ました。太陽と月と十一の星が、私にひれ伏しているのです」
10 今度は兄たちだけでなく、父にも話した。父は、ヨセフを叱った「一体、どういうことだ。お前が見たその夢は。私も、お母さんも、兄さんたちも、お前の前で、地面にひれ伏すというのか?」
11 兄たちはヨセフを妬(ねた)んだが、父はこのことを心に留めた。

【兄たちはヨセフを襲う】

12 兄たちは出かけて行き、シケムで父の羊の群れを飼っていた。
13 イスラエルは、ヨセフに言った「兄さんたちは、シケムで羊を飼っているはずだ。お前を彼らのところへやりたいのだが」 「はい、分かりました」とヨセフが答えた。
14 さらに、言った「では、早速出かけて、兄さんたちが元気にやっているか、羊の群れが無事かを見届けて、様子を知らせてくれ」 父は、ヨセフをヘブロンの谷から送り出した。ヨセフは、シケムに着いた。

15 野原をさまよっていると、一人の男に出会った。その人は、ヨセフに尋ねた「何を探しているのかね?」
16 「兄たちを探しているのです。どこで羊の群れを飼っているか、教えてください」と、ヨセフは言った。
17 その人は、答えた「もうここを発ってしまった。ドタンへ行こう、と言っていたようだ」 ヨセフは、兄たちの後を追って行き、ドタンで一行を見つけた。

18 兄たちは、はるか遠くの方にヨセフの姿を認めると、まだ近づいて来ないうちに、ヨセフを殺してしまおうと企(たくら)んだ。
19 そして、相談をした「おい、向こうから夢見るお方がやって来る。
20 さあ、今だ。あれを殺して、穴の一つに投げ込もう。後は、野獣に食われたと言えばよい。あれの夢がどうなるか、見てやろう」

21 ルベンはこれを聞き、ヨセフを彼らの手から助け出そうとした「命まで、取るのはよそう」
22 ルベンは、続けて言った「血を流してはならない。荒野のこの穴に投げ入れよう。手を下してはならない」 ルベンは、後でヨセフを彼らの手から助け出し、父のもとへ帰したかったのである。

23 ヨセフがやって来ると、兄たちはヨセフが着ていた着物、裾の長い晴れ着をはぎ取った。
24 彼を捕らえて、穴に投げ込んだ。幸いその穴は空で、水はなかった。
25 彼らはそれから、腰を下ろして食事を始めた。

【ヨセフを隊商に売る】

-- ふと目を上げると、イスマエル人の隊商がギレアドの方からやって来た。らくだに、樹脂・乳香・没薬を積んで、エジプトに下って行こうとしているところであった。
:26 ユダは、兄弟たちに言った「弟を殺して、その血を覆っても、何の得にもならない。
27 それより、あのイスマエル人に売ろうではないか。弟に手をかけるのは、よそう。あれだって、肉親の弟だから」 兄弟たちは、賛成した。

:28 その間に、ミディアン人の商人たちが通りかかった。そこで、兄弟たちはヨセフを穴から引き上げ、銀二十枚でイスマエル人に売った。商人たちは、ヨセフをエジプトに連れて行ってしまった。
29 ルベンが穴のところに行くと、すでに穴の中にはヨセフがいなかった。ルベンは、自分の衣を引き裂いた。
30 兄弟たちのところへ戻り「あの子がいない。私は、この私は、どうしたらいいのか」と嘆いた。

31 それでも、兄弟たちはヨセフの着物を拾い上げ、雄山羊を殺してその血を着物に塗った。
32 彼らは、裾の長い晴れ着を父のもとへ送り届け「これを見つけました。あなたの息子の着物かどうか、お調べになってください」と言わせた。
33 父は、それを調べて言った「あの子の着物だ。野獣に、食われたのだ。ああ、ヨセフは噛み裂かれてしまったのだ」

34 ヤコブは、自分の衣を引き裂いて、粗布を腰にまとい、幾日もその子のために嘆き悲しんだ。
35 息子や娘たちが、皆やって来て、慰めようとした。しかし、ヤコブは慰められることを拒んだ「ああ、私もあの子のところへ、嘆きながらあの世を下って行こう」 父はこう言って、ヨセフのために泣いた。

36 一方、メダンの人たちがエジプトへ売ったヨセフは、ファラオの宮廷役人で侍従長であったポティファルのものとなった。


第三十八章


【神の怒りによるエルとオナンの死】

01 ユダは兄弟たちと別れて、アドラム人のヒラという人の近くに天幕を張った。
02 ユダはそこで、カナン人のシュアという人の娘を見初めて結婚し、彼女のところに入った。
03 彼女は身ごもり、男の子を産んだ。ユダは、その子をエルと名付けた。
:04 彼女はまた身ごもり、男の子を産み、その子をオナンと名付けた。
05 彼女はさらにまた男の子を産み、その子をシェラと名付けた。彼女がシェラを産んだとき、ユダはケジブにいた。

06 ユダは長男のエルに、タマルという嫁を迎えた。
07 ユダの長男エルは、神の意に反したので、神は彼を殺した。
08 ユダは、オナンに言った「兄嫁のところに入り、兄弟の義務を果たし、兄のために子孫を残しなさい」

:09 オナンは、その子孫が自分のものとならないのを知っていた。そこで、兄に子孫を与えないように、兄嫁のところに入る度に子種を地面に流した。
10 彼のしたことは、神の意に反することであったので、彼もまた神に殺された。
11 ユダは、嫁のタマルに言った「私の息子のシェラが成人するまで、あなたは父上の家で、寡婦(やもめ)のまま暮らしていなさい」 それは、シェラもまた兄たちのように死んではいけないと思ったからである。タマルは、自分の父の家に帰って暮らした。

【ユダに対するタマルのもくろみ】

12 かなりの年月が経って、シュアの娘であったユダの妻が死んだ。ユダは喪に服した後、友人のアドラム人ヒラと一緒に、ティムナの羊の毛を切る者のところへ行った。
13 ある人がタマルに「あなたのしゅうとが、羊の毛を切るために、ティムナへやって来ます」と知らせた。
14 タマルは寡婦(やもめ)の着物を脱ぎ、ベールをかぶって身なりを変えた。そして、ティムナへ行く途中のエナイムの入り口に座った。シェラが成人したのに、自分がその妻にしてもらえない、と分かったからである。

15 ユダは、顔を隠している彼女を見て、娼婦だと思った。
16 ユダは、路傍にいる彼女に近寄って「さあ、あなたの所に入らせてくれ」と言った。彼女が、自分の嫁だとは気づかなかったからである。彼女は「私の所にお入りになるのなら、何をくださいますか」と言った。
17 ユダは「群れの中から子山羊を一匹、送り届けよう」と答えた。しかし、彼女は言った「でも、それを送り届けてくださるまで、保証の品をください」
18 「どんな保証が、いいのか?」と言うと、彼女は答えた「あなたの紐の付いた印章と、持っていらっしゃるその杖です」 ユダはそれを渡し、彼女の所に入った。彼女はこうして、ユダによって身ごもった。
19 彼女はそこを立ち去り、ベールを脱いで、再び寡婦の着物を着た。

20 ユダは、子山羊を友人ヒラの手に託して送り届け、女から保証の品を取り戻そうとした。しかし、その女は見つからなかった。
21 友人が土地の人々に「エナイムの路傍にいた神殿娼婦は、どこにいるでしょうか?」と尋ねると、人々は「ここには、神殿娼婦などはいません」と答えた。
22 友人は、ユダのところに戻って言った「女は、見つかりませんでした。土地の人々も『ここには、神殿娼婦などいません』と言うのです」
23 ユダは、言った「では、あの品はあの女にそのままやっておこう。さもないと、私たちが物笑いの種になるから。とにかく、私は子山羊を届けたのだが、女が見つからなかったのだから」

【ユダに対するタマルの発言】

24 三か月ほど経って「あなたの嫁タマルは姦淫をし、しかも姦淫によって身ごもりました」とユダに告げる者があった。ユダは言った「あの女を引きずり出して、焼き殺してしまえ」
25 ところが、引きずり出されようとしたとき、タマルは舅(しゅうと)に使いをやって言った「私は、この品々の持ち主によって身ごもったのです」 彼女は、続けて言った「どうか、この紐の付いた印章と、この杖とが誰のものか調べてください」
26 ユダは、調べて言った「私よりも、彼女の方が正しい。私が、彼女を息子のシェラに与えなかったからだ」 しかしユダは、再びタマルを知ることはなかった。

【タマルの双子出産】

27 タマルの出産のときが来た。胎内には、双子がいた。
28 生まれるときに一人の子が手を出したので、助産婦は「これが先に出た」と言い、真っ赤な糸をその子の手に結んだ。
29 ところが、その子は手を引っ込めてしまい、もう一人の方が出てきた。助産婦は、言った「なんとまあ、この子は人を出し抜いたりして」 そこで、その子はペレツ(=出し抜き)と名付けられた。
30 その後から、手に真っ赤な糸を結んだ方の子が出てきたので、この子はゼラ(=真っ赤)となった。


第三十九章


【主人はすべてヨセフに任す】

01 ヨセフは、エジプトに連れて来られた。そして、ヨセフをエジプトへ連れて来たイスマエル人から買い取ったのは、ファラオの宮廷役人で、侍従長のエジプト人ポティファルであった。
02 神が、ヨセフと共におられたので、事はうまく進んだ。彼は、エジプト人の主人の家にいた。

03 神がヨセフのすることを、すべてうまく計るのを見た主人は、
04 ヨセフに目をかけた。そして、身近に仕えさせ、家の管理を委(ゆだ)ね、財産をすべて彼の手に任せた。
05 主人が、家の管理やすべての財産をヨセフに任せてから、神はヨセフゆえにそのエジプト人の家を祝福した。神の祝福は、家の中にも農地にも、すべての財産に及んだ。
06 主人は、全財産をヨセフの手に委ねてしまい、自分が食べるもの以外には、まったく気を遣わなかった。ヨセフは顔も美しく、体つきも優れていた。

【主人の妻の悪だくみ】

07 しかし、主人の妻はヨセフに目を注ぎながら言った「私の床に入りなさい」
08 ヨセフは拒んで、主人の妻に言った「ご存じのように、ご主人は私を側に置き、家の中のことには気をお遣いになりません。財産も、すべて私の手に委ねてくださいました。
09 この家では、私の上に立つ者はいませんから、私の意のままにならないものもありません。ただ、あなたは別です。あなたは、ご主人の妻ですから。私は、どうしてそのように大きな悪を働いて、神に罪を犯すことができましょう」
10 彼女は、毎日ヨセフに言い寄ったが、ヨセフは耳を貸さず、彼女の傍らに寝ることも、共にいることもしなかった。

11 ある日、ヨセフが仕事をしようと家に入ると、家の者は誰もいなかった。
12 彼女は、ヨセフの着物をつかんで言った「私の床に入りなさい」 ヨセフは、着物を彼女の手に残したまま、逃げて外へ出た。
13 着物を残したまま、ヨセフが外へ逃げたのを見ると、
14 彼女は家の者たちを呼び寄せて言った「見てごらん。ヘブライ人を私たちの所に連れて来たから、私たちはいたずらをされる。彼が私の所に来て、私と寝ようとしたから、大声で叫びました。
15 私が、大声をあげて叫んだのを聞いて、私の傍らに着物を残したまま外へ逃げて行きました」

【ヨセフの入牢】

16 彼女は、主人が家に帰って来るまで、その着物を傍らに置いていた。
17 そして、主人に同じことを語った「あなたが私たちの所に連れて来た、あのヘブライ人の奴隷は私の所に来て、いたずらをしようとしたのです。
18 私が大声をあげて叫んだものですから、着物を私の傍らに残したまま、外へ逃げて行きました」
19 「あなたの奴隷が、私にこんなことをしたのです」と訴える妻の言葉を聞いて、主人は怒った。
20 ヨセフを捕らえて、王の囚人をつなぐ監獄に入れた。ヨセフはこうして、監獄にいた。

21 しかし、神がヨセフと共にいて、恵みを施し、監守長の目にかなうように導いた。
22 監守長は監獄にいる囚人を皆、ヨセフの手に委ねた。それで、獄中の人のすることは、すべてヨセフが取りしきるようになった。
23 監守長は、ヨセフの手に委ねたことに関しては、いっさい目を配らなくてもよかった。神がヨセフと共にいて、ヨセフがすることをうまく計らったからである。


第四十章


【給仕役と料理役の入牢】

01 エジプト王の給仕役と料理役が、主君であるエジプト王に過ちを犯した。
02 ファラオは怒って、この二人の宮廷役人、給仕役と料理役を、
03 侍従長の家にある牢獄、つまりヨセフが繋(つながれ)ている監獄に引き渡した。
04 侍従長は彼らをヨセフに預け、身辺の世話をさせた。牢獄の中で、幾日かが過ぎた。
05 監獄につながれていたエジプト王の給仕役と料理役は、二人とも同じ夜にそれぞれ夢を見た。その夢には、それぞれ意味が隠されていた。

06 朝になって、ヨセフが二人のところへ行ってみると、二人ともふさぎ込んでいた。
07 ヨセフは、主人の家の牢獄に自分と一緒に入れられているファラオの宮廷役人に尋ねた「今日は、どうしてそんなに憂鬱な顔をしているのですか?」
08 「私たちは夢を見たのだが、それを解き明かしてくれる人がいない」と二人は答えた。ヨセフは「解き明かしは、神がなさることではありませんか。どうか私に話してみてください」と言った。

【給仕役の夢】

09 給仕役は、ヨセフに自分の見た夢を話した「私が夢を見ていると、一本のぶどうの木が目の前に現れたのです。
10 そのぶどうの木には、三本の蔓(つる)がありました。それが、見る見るうちに芽を出したかと思うと、すぐに花が咲き、ふさふさとしたぶどうが熟しました。
11 ファラオの杯を手にしていた私は、そのぶどうを取って、ファラオの杯に搾り、その杯をファラオに捧げました」

12 ヨセフは、言った「その解き明かしはこうです。三本の蔓は三日です。
13 三日経てば、ファラオがあなたの頭を上げて、元の職務に復帰させてくださいます。あなたは以前、給仕役であったときのように、ファラオに杯を捧げる役目をするようになります。
14 ついては、あなたがそのように幸せになったときには、どうか私のことを思い出してください。私のために、ファラオに私の身の上を話し、この家から出られるように取り計らってください。
15 私は、ヘブライ人の国から無理やり連れて来られたのです。また、ここでも、牢屋に入れられるような悪いことは、何もしていないのです」

【料理役の夢】

16 料理役は、ヨセフが巧みに解き明かすのを見て、言った「私も夢を見ていると、編んだ篭が三個私の頭の上にありました。
17 いちばん上の篭には、料理役がファラオのために調えたいろいろな料理が入っていましたが、鳥が私の頭の上の篭からそれを食べているのです」
18 ヨセフは、答えた「その解き明かしはこうです。三個の篭は三日です。
19 三日たてば、ファラオがあなたの頭を上げて切り離し、あなたを木にかけます。そして、鳥があなたの肉をついばみます」

【二人の夢の結果】

20 三日目は、ファラオの誕生日であった。ファラオは家来たちを招いて、祝宴を催した。そして、家来たちの居並ぶところで例の給仕役の頭と料理役の頭を上げて調べた。
21 ファラオは、給仕役を給仕の職に復帰させたので、彼はファラオに杯を捧げる役目をするようになった。
22 料理役は、ヨセフが解き明かしたとおり木にかけられた。
23 ところが、給仕役はヨセフのことを思い出さず、忘れてしまった。


第四十一章


【ファラオの夢】

01 その二年後、ファラオは夢を見た。夢の中で、ナイル川の畔(ほとり)に立っていた。
02 すると突然、つややかな、よく肥えた七頭の雌牛が川から上がって来て、葦辺で草を食べ始めた。
03 その後から、今度は醜い、やせ細った七頭の雌牛が川から上がって来て、岸辺にいる雌牛のそばに立った。
04 そして、醜いやせ細った雌牛が、つややかな、よく肥えた七頭の雌牛を食い尽くした。ファラオは、そこで目が覚めた。

05 ファラオがまた眠ると、再び夢を見た。今度は、太って、よく実った七つの穂が、一本の茎から出てきた。
06 すると、その後から、実が入っていない、東風で干からびた七つの穂が生えてきた。
07 今度は、実の入っていない穂が、太って実の入った七つの穂を飲み込んでしまった。ファラオは、そこで目が覚めた。そんな夢であった。

08 朝になって、ファラオはひどく心が騒ぎ、エジプト中の魔術師と賢者をすべて呼び集めた。そして、自分の見た夢を彼らに話した。しかし、その夢を解き明かすことができる者はいなかった。

【ヨセフの招聘】

09 そのとき、例の給仕役がファラオに申し出た「私は、今日になって自分の過ちを思い出しました。
10 かつて、ファラオが僕(しもべ)どもについて憤られて、侍従長の家にある牢獄に私と料理役を入れたときのことです。
11 同じ夜に、私たちはそれぞれ夢を見たのですが、そのどちらにも意味が隠されていました。
12 そこには、侍従長に仕えていたヘブライ人の若者がいて、彼に話をしたところ、私たちの夢を解き明かしたのです。
13 そしてまさしく、解き明かしたとおりになって、私は元の職務に復帰することを許され、彼は木にかけられました」

14 そこで、ファラオはヨセフを呼びにやった。ヨセフは直ちに牢屋から出され、散髪をして着物を着替えてから、ファラオの前に出た。
15 ファラオは、ヨセフに言った「私は夢を見たのだが、それを解き明かす者がいない。聞くところによれば、お前は夢の話を聞いて、解き明かすことができるそうだが」
16 ヨセフは、ファラオに答えた「私ではありません。神が、ファラオの幸いについて告げられるのです」

【ファラオの夢の説明】

17 ファラオは、ヨセフに話した「夢の中で、私がナイル川の岸に立っていた。
18 すると突然、よく肥えて、つややかな七頭の雌牛が川から上がって来て、葦辺で草を食べ始めた。
19 その後から、今度は貧弱で、とても醜い、痩せた七頭の雌牛が上がって来た。あれほどひどいのは、エジプトでは見たことがない。
20 そして、その痩せた、醜い雌牛が、初めのよく肥えた七頭の雌牛を食い尽くしてしまった。
21 ところが、確かに腹の中に入れたのに、腹の中に入れたことがまるで分からないほど、最初と同じように醜いままなのだ。私は、そこで目が覚めた。

22 それからまた、夢の中で私は見たのだが、今度は、とてもよく実の入った七つの穂が一本の茎から出てきた。
23 すると、その後から、やせ細り、実が入っておらず、東風で干からびた七つの穂が生えてきた。
24 そして、実の入っていないその穂が、よく実った七つの穂を飲み込んでしまった。私は魔術師たちに話したが、その意味を告げる者は一人もいなかった」

【ヨセフの夢解き】

25 ヨセフは、ファラオに言った「その夢は、どちらも同じ意味です。神が、これからなさろうとしていることを、ファラオに告げたのです。
26 七頭のよく育った雌牛は、七年のことです。七つのよく実った穂も、七年のことです。どちらの夢も、同じ意味なのです。
27 その後から上がって来た七頭の痩せた、醜い雌牛も七年のことです。また、やせて、東風で干からびた七つの穂も同じで、これらは七年の飢饉です。
28 これは、先程ファラオに申し上げましたように、神がこれからしようとしていることを、ファラオに示したのです。

29 今から七年間、エジプトの国全体に大豊作が訪れます。
30 しかし、その後七年間、飢饉が続き、エジプトの国に豊作があったことなど、すっかり忘れられてしまうでしょう。飢饉が、国を滅ぼしてしまうのです。
31 この国に豊作があったことは、その後に続く飢饉のために、まったく忘れられてしまうでしょう。飢饉は、それほどひどいのです。
32 ファラオが夢を二度も重ねて見たのは、神がこのことをすでに決定していて、間もなく実行されようとしているからです。

33 このような次第ですから、ファラオは今すぐ、聡明で知恵のある人物を見つて、エジプトの国を治めさせ、
34 国中に監督官を立てて、豊作の七年の間、エジプトの国の産物の五分の一を徴収なさいますように。
35 そうして、これから訪れる豊年の間に食糧をできるかぎり集めさせ、町々の食糧となる穀物をファラオの管理の下に蓄え、保管させるのです。
36 そうすれば、その食糧がエジプトの国を襲う七年の飢饉に対する国の備蓄となり、飢饉によって国が滅びることはないでしょう」

【ヨセフは副王となる】

37 ファラオと家来たちは皆、ヨセフの言葉に感心した。
38 ファラオは、家来たちに「このように神の霊が宿っている人が、他にあるだろうか」と言った。
39 ヨセフの方を向いて、ファラオは言った「神がそういうことをみな示されたからには、お前ほど聡明で知恵のある者は、他にないであろう。
40 お前を宮廷の責任者とする。国民は皆、お前の命に従うであろう。ただ王位にあるということでだけ、私はお前の上に立つ」
41 ファラオは、ヨセフに向かって「私は今、お前をエジプト全国の上に立てる」と言った。
42 印章のついた指輪を自分の指から外し、ヨセフの指にはめた。亜麻布の衣服を着せ、金の首飾りをヨセフの首にかけた。
43 ヨセフを王の第二の車に乗せると、人々はヨセフの前で「アブレク(=敬礼)」と叫んだ。ファラオはこうして、ヨセフをエジプト全国の上に立てた。

44 また、ファラオは、ヨセフに言った「ファラオは、私である。しかし、お前の許しなしには、このエジプト全国で誰も手足を上げることはあるまい」
45 ファラオはさらに、ヨセフにザフナト=パネアという名を与え、オンの祭司ポティ=フェラの娘アセナトを妻として与えた。ヨセフの威光は、エジプトの国にあまねく及んだ。
46 ヨセフは、エジプトの王ファラオの前に立ったとき三十歳であった。ヨセフは、ファラオの前を立ち、エジプト全国を巡回した。
47 豊作の七年間、大地は豊かな実りに満ち溢れた。
48 ヨセフは、その七年間に、エジプト国中の食糧をできるかぎり集め、その食糧を町々に蓄えさせた。町の周囲の畑にできた食糧を、その町の中に蓄えたのである。
49 ヨセフは、海辺の砂のように多くの穀物を蓄え、ついに量りきれなくなった。そこで、量るのをやめた。

【ヨセフに二人の息子ができる】

50 飢饉の年がやって来る前に、ヨセフに二人の息子が生まれた。この子供を産んだのは、オンの祭司ポティ=フェラの娘アセナトである。
51 ヨセフは長男をマナセ(=忘れさせる)と名付けて、言った「神が、私の苦労と父の家のことを、すべて忘れさせてくださった」
52 また、次男をエフライム(=増やす)と名付けて、言った「神は、悩みの地で、私に子孫を増やしてくださった」

【飢饉が始まる】

53 エジプトの国に、七年間の大豊作が終わった。
54 ヨセフが言ったとおり、七年の飢饉が始まった。その飢饉は、すべての国々を襲ったが、エジプト全土だけは食物があった。
55 やがて、エジプト全土にも飢饉が広がり、民がファラオに食物を叫び求めた。ファラオは、すべてのエジプト人に「ヨセフのもとに行って、ヨセフの言うとおりにせよ」と命じた。

56 飢饉は、世界各地に及んだ。ヨセフはすべての穀倉を開いて、エジプト人に穀物を売った。エジプトの国の飢饉も、激しくなっていった。
57 また、世界各地の人々も、穀物を買いにエジプトのヨセフのもとにやって来るようになった。世界各地の飢饉が、激しくなったからである。


第四十二章


【ヤコブの子たちがエジプトに買い出しに行く】

01 ヤコブは、エジプトには穀物があるということを知った。そして、息子たちに「どうしてお前たちは、顔を見合わせてばかりいるのだ」と言った。
02 続けて「聞くところでは、エジプトには穀物があるそうではないか。エジプトへ行って、穀物を買ってきなさい。そうすれば、私たちは死なずに生き延びることができるではないか?」と言った。
03 そこで、ヨセフの十人の兄たちは、エジプトへ穀物を買うために出かけて行った。
04 ヤコブは、ヨセフの弟ベニヤミンを兄たちには同行させなかった。何か不幸なことが、身に起こるといけないと思ったからである。
05 イスラエルの息子たちは、他の人々に混じって穀物を買いに出かけた。カナン地方にも、激しい飢饉が襲っていた。

【兄弟たちを閲見したヨセフ】

06 ヨセフは、エジプトの司政者として、国民に穀物を売る監督をしていた。ヨセフの兄たちは来て、地面にひれ伏し、ヨセフを拝した。
07 ヨセフは、一目で兄たちだと気づいた。しかし、素知らぬ振りをして、厳しい口調で「お前たちは、どこからやって来たのか?」と問いかけた。彼らは、答えた「食糧を買うために、カナン地方からやって参りました」
08 ヨセフは兄たちだと気づいていたが、兄たちはヨセフとは気づかなかった。

09 ヨセフは、そのとき、かつて兄たちについて見た夢を思い出した。ヨセフは、彼らに言った「お前たちは回し者だ。この国の手薄な所を探りに来たにちがいない」
10 彼らは、答えた「いいえ、ご主君さま。僕(しもべ)どもは食糧を買いに来ただけです。
11 私どもは皆、ある男の息子で、正直な人間です。僕(しもべ)どもは、決して回し者などではありません」
12 しかし、ヨセフが「いや、お前たちはこの国の手薄な所を探りに来たにちがいない」と繰り返した。
13 彼らは、答えた「僕(しもべ)どもは、本当に十二人兄弟で、カナン地方に住む男の息子たちです。末の弟はいま父のもとにおりますが、もう一人は失いました」

【ヨセフの厳しい処置】

14 すると、ヨセフは言った「私が、お前たちは回し者だと言ったのは、そのことだ。
15 その点について、お前たちを試すことにする。ファラオの命(めい)にかけて言う。いちばん末の弟を、ここに来させよ。それまでは、お前たちをここから出すわけにはいかない。
16 お前たちのうち、誰か一人を行かせて、弟を連れて来い。それまでは、お前たちを監禁し、お前たちの言うことが本当かどうかを試す。もしも、そのとおりでなかったら、ファラオの命にかけて言う。お前たちは、間違いなく回し者だ」
17 ヨセフは、こうして彼らを三日間、牢獄に監禁した。

18 三日目になって、ヨセフは彼らに言った「こうすれば、お前たちの命を助けてやろう。私は、神を畏れる者だ。
19 お前たちが本当に正直な人間だというのなら、兄弟のうち一人だけを牢獄に監禁するから、他の者は皆、飢えているお前たちの家族のために穀物を持って帰り、
20 末の弟をここへ連れて来い。そうして、お前たちの言い分が確かめられたら、殺されはしない」 彼らは、同意をした。
21 そして、互いに言い合った「ああ、私たちは弟ヨセフのことで罰を受けているのだ。弟が私たちに助けを求めたとき、あれほどの苦しみを見ながら、耳を貸そうともしなかった。それで、この苦しみが私たちに降りかかったのだ」
22 すると、ルベンが答えた「あのとき、私は『あの子に、悪いことをするな』と言ったではないか。お前たちは、耳を貸そうともしなかった。だから、あの子の血の報いを受けるのだ」

23 彼らは、ヨセフが聞いているのを知らなかった。ヨセフと兄弟たちの間に、通訳がいたからである。
24 ヨセフは、彼らから遠ざかって泣いた。それからまた戻って来て、話をしたうえでシメオンを選び出し、彼らの見ている前で縛り上げた。

【道中で銀が戻されていることに驚く】

25 ヨセフは執事に命じて、兄たちの袋に穀物を詰め、支払った銀を各々の袋に戻し、道中の食糧を与えるように言った。命令は、そのとおりに実行された。
26 彼らは、穀物をろばに積んで、そこを立ち去った。
27 途中の宿で、一人がろばに餌をやろうとして、自分の袋を開けてみた。すると、袋の口のところに、自分の銀があるではないか。
28 驚いて、他の兄弟たちに言った「戻されているぞ、私の銀が。ほら、私の袋の中に」 皆も驚き、互いに震えながら言った「これは一体、どういうことだ。神が、私たちにしたことは」

【ヤコブの子たちはカナンに帰り父に報告をする】

29 一行は、カナン地方にいる父ヤコブのところへ帰って来て、自分たちの身に起こったことをすべて報告した。
30 「あの国の主君である人が、私たちを厳しい口調で問い詰めて、国を探りに来た回し者に違いないと言うのです。
31 もちろん、私たちは正直な人間で、決して回し者などではないと答えました。

32 私たちが十二人兄弟で、一人の父の息子であり、一人は失いましたが、末の弟は今、カナンの地方に住む父のもとにいると言いました。
33 すると、あの国の主君である人が言いました『では、お前たちが本当に正直な人間かどうかを、こうして確かめることにする。お前たち兄弟のうち、一人だけここに残し、飢えているお前たちの家族のために、穀物を持ち帰るがいい。
34 帰ったら、末の弟をここへ連れて来るのだ。そうすれば、お前たちが回し者ではなく、正直な人間であることが分かる。そして、お前たちに兄弟を返し、自由にこの国に出入りできるようにしてやろう』」

35 それから、彼らが袋を開けてみると、各々の袋の中にもそれぞれ自分の銀の包みが入っていた。彼らも父も、銀の包みを見て恐ろしくなった。

【父ヤコブの嘆き】

36 父ヤコブは、息子たちに言った「お前たちは、私から次々と子供を奪ってしまった。ヨセフを失い、シメオンも失った。その上、ベニヤミンまでも取り上げるのか。みんな私を苦しめることばかりだ!」
37 ルベンは、父に言った「もしも、お父さんのところにベニヤミンを連れ帰らないようなことがあれば、私の二人の息子を殺してもかまいません。どうか、彼を私に任せてください。私が、必ずお父さんのところに連れ帰りますから」
38 しかし、ヤコブは言った「いや、この子だけは、お前たちと一緒に行かせるわけにはいかない。この子の兄は死んでしまい、残っているのは、この子だけではないか。お前たちの旅の途中で、何か不幸なことがこの子の身に起こりでもしたら、お前たちは、この白髪の父を悲嘆のうちに、あの世に下らせることになるのだ」


第四十三章


【父は買い出しにベニヤミンが行くことに躊躇する】

01 この地方の飢饉は、ひどくなる一方であった。
02 エジプトから持ち帰った穀物を食べ尽くすと、父は息子たちに言った「もう一度行って、私たちの食糧を少し買って来なさい」
03 ユダは、答えた「あの人は『弟が一緒でないかぎり、私の顔を見ることは許さぬ』と、厳しく私たちに言い渡しました。
04 もし弟を一緒に行かせてくださるなら、私たちは行って食糧を買ってきます。
05 しかし、一緒に行かせてくださらないのなら、行くわけにはいきません。あの人が『弟が一緒でないかぎり、私の顔を見ることは許さぬ』と言ったのですから」

06 父イスラエルは「なぜお前たちは、その人にもう一人弟がいるなどと言って、私を苦しめるようなことをしたのか」と言った。
07 彼らは、答えた「あの人が、私たちのことや家族のことについて『お前たちの父親は、まだ生きているのか?』とか『お前たちには、まだ他に弟がいるのか?』などと、しきりに尋ねるものですから、尋ねられるままに答えただけです。まさか『弟を連れて来い』などと言うとは、思いも寄りませんでした」
08 ユダは、父イスラエルに言った「あの子を、ぜひ私と一緒に行かせてください。それなら、すぐにでも行ってきます。そうすれば、あなたも私たちも、子供たちも死なずに生き延びることができます。
09 あの子のことは、私が保障します。その責任を私に負わせてください。もしも、あの子をお父さんのもとに連れ帰ることができず、無事な姿をお目にかけられないようなことにでもなれば、私があなたに対して生涯その罪を負います。
10 こんなに躊躇していなければ、今ごろはもう二度も行って来たはずです」

【兄弟たちの二回目の買い出し旅行】

11 とうとう、イスラエルは息子たちに言った「どうしてもそうしなければならないのなら、こうしなさい。この土地の名産の品を袋に入れて、その人への贈り物として持って行くのだ。乳香と蜜を少し、樹脂と没薬、ピスタチオやアーモンドの実。
12 それから、銀を二倍用意して行きなさい。袋の口に戻されていた銀も持って行って、お返しするのだ。たぶん、何かの間違いだったのだろうから。
13 では、弟を連れて、早速その人のところへ行きなさい。
14 どうか、全能の神がその人の前で、お前たちに憐れみを施し、もう一人の兄弟と、このベニヤミンを返してくださいますように! 私は、自分の子供を失ったらば、二度と立ち上がれない」

15 息子たちは、贈り物と二倍の銀を用意すると、ベニヤミンを連れててエジプトへ行った。そして一行は、ヨセフの前に進み出た。
16 すると、ヨセフはベニヤミンが一緒なのを見て、自分の家を任せている執事に言った「この人たちを家へお連れしなさい。それから、家畜を屠って、料理を調えなさい。昼の食事をこの人たちと一緒にするから」

【ヨセフの屋敷に行った兄弟たち】

17 執事は、ヨセフに言われたとおりにした。一同は、ヨセフの屋敷へ連れて行かれた。
18 彼らは、ヨセフの屋敷へ連れて来られたので「これはきっと、前に来たとき私たちの袋に戻されていた銀のせいだ。それで、ここに連れ込まれたのだ。今に、ろばもろとも捕らえられ、ひどい目に遭い、奴隷にされてしまうにちがいない」と恐ろしがった。

19 彼らは、屋敷の入り口のところで、ヨセフの執事の前に進み出て話しかけた。
20 「ああ、ご主人さま。実は、私どもは前に一度、食糧を買うためにここへ来たことがございます。
21 ところが、帰りに宿で袋を開けてみると、一人一人の袋の口のところにそれぞれ自分の銀が入っておりました。しかも、銀の重さは元のままでした。それで、それをお返ししなければ、と持って参りました。
22 もちろん、食糧を買うための銀は、別に用意してきております。誰が、私どもの袋に銀を入れたのか分かりません」
23 執事は「ご安心なさい。心配することはありません。きっと、あなたたちの神が、その宝を袋に入れてくださったのでしょう。あなたたちの銀は、この私が確かに受け取ったのですから」と答えた。そして、シメオンを兄弟たちのところへ連れて来た。

24 執事は、一同をヨセフの屋敷に入れ、水を与えて足を洗わせ、ろばにも餌を与えた。
25 彼らは贈り物を調えて、昼にヨセフが帰宅するのを待った。一緒に食事をすることになっていると聞いたからである。

【ヨセフと兄弟たちとの食事】

26 ヨセフが帰宅すると、一同は持って来た贈り物を差し出して、地にひれ伏してヨセフを拝した。
27 ヨセフは、一同の安否を尋ねた後に、言った「前に話していた、年をとった父上は元気か。まだ生きておられるか?」
28 「あなたさまの僕(しもべ)である父は元気で、まだ生きております」と彼らは答え、ひざまずいてヨセフを拝した。

29 ヨセフは、同じ母から生まれた弟ベニヤミンをじっと見つめて「前に話していた末の弟はこれか?」と尋ね「私の子よ。神の恵みがお前にあるように」と言った。
30 ヨセフは、急いで席を外した。弟懐かしさに、胸が熱くなり、涙が落ちそうになったからである。ヨセフは奥の部屋に入ると、泣いた。
31 やがて、ヨセフは顔を洗って出て来ると、平静を装い「さあ、食事を出しなさい」と言った。
32 食事は、ヨセフにはヨセフの、兄弟たちには兄弟たちの、相伴するエジプト人にはエジプト人のものと、別々に用意された。当時、エジプト人はヘブライ人と共に食事をすることはできなかったからである。それは、エジプト人の厭(いと)うことであった。

33 兄弟たちは、いちばん上の兄から末の弟まで、ヨセフに向かって年齢順に座らされたので、驚いて互いに顔を見合わせた。
34 そして、料理がヨセフの前からみんなのところへ配られた。ベニヤミンの分は、他の誰の分より五倍も多かった。一同はぶどう酒を飲み、ヨセフと共に酒宴を楽しんだ。


第四十四章


【ヨセフが行なった兄弟たちへの試練】

01 ヨセフは執事に命じた「あの人たちの袋を、運べるかぎり多くの食糧でいっぱいにし、めいめいの銀をそれぞれの袋の口のところへ入れておけ。
02 それから、私の銀の杯を、いちばん年下の者の袋の口に、穀物の代金の銀と一緒に入れておきなさい」 執事は、ヨセフが命じたとおりにした。

03 次の朝、辺りが明るくなったころ、一行は見送りを受け、ろばと共に出発した。
04 ところが、町を出て、まだ遠くへ行かないうちに、ヨセフは執事に命じた「すぐに、あの人たちを追いかけ、追いついたら彼らに言いなさい『どうして、お前たちは悪をもって善に報いるのだ。
05 あの銀の杯は、私の主人が飲むときや占いのときに、使うものではないか。よくもこんな悪いことができたものだ』」

06 執事は、彼らに追いつくと、そのとおりに言った。
07 すると、彼らは言った「ご主人さま。どうしてそのようなことをおっしゃるのですか。僕(しもべ)どもが、そんなことをするなどとは、とんでもないことです。
08 袋の口で見つけた銀でさえ、私どもはカナンの地から持ち帰って、ご主人様にお返ししたではありませんか。その私どもがどうして、あなたのご主君のお屋敷から銀や金を盗んだりするでしょうか。
09 僕(しもべ)どもの中の誰からでも杯が見つかれば、その者は死罪に、他の私どもも皆、ご主人様の奴隷になります」

【ベニヤミンの袋から杯が見つかる】

10 すると、執事は言った「今度も、お前たちが言うとおりならよいが。誰であっても、杯が見つかれば、その者は奴隷にならねばならない。他の者には、罪は無い」
11 彼らは、急いで自分の袋を地面に降ろし、めいめいで袋を開けた。
12 執事は、年上の者から念入りに調べ始め、いちばん最後に年下の者になったとき、ベニヤミンの袋の中から杯が見つかった。
13 彼らは衣を引き裂き、めいめい自分のろばに荷を積むと、町へ引き返した。

14 ユダと兄弟たちがヨセフの屋敷に入って行くと、ヨセフはまだそこにいた。一同は、彼の前で地にひれ伏した。
15 「お前たちのした仕業は何事か。私のような者は、占い当てることを知らないのか」とヨセフは言った。
16 ユダが答えた「ご主君に何と申し開きできましょう。今更どう言っても、私どもの身の証しを立てることはできません。神が、僕(しもべ)どもの罪を暴かれたのです。この上は、私どもも、杯が見つかった者と共に、ご主君の奴隷になります」

17 ヨセフは、言った「そんなことは、全く考えていない。ただ、杯を見つけられた者だけが、奴隷になればよい。他のお前たちは皆、安心して父親のもとへ帰るがよい」

【ユダの弁解と懇願】

18 ユダは、ヨセフの前に進み出て言った「ああ、ご主君さま。何とぞお怒りにならず、僕(しもべ)の申し上げますことに耳を傾けてください。あなたはファラオに等しいお方でいらっしゃいますから。
19 ご主君は僕(しもべ)どもに向かって『父や兄弟がいるのか』とお尋ねになりました。
20 そのとき、ご主君に『年とった父と、それに父の年寄り子である末の弟がおります。その兄は亡くなり、同じ母の子で残っているのはその子だけですから、父は彼をかわいがっております』と申し上げました。
21 すると、あなたさまは『その子をここへ連れて来い。自分の目で確かめることにする』と僕(しもべ)どもに命じました。

22 私どもは、ご主君に『あの子は、父親のもとから離れるわけにはまいりません。あの子が父親のもとを離れれば、父は死んでしまいます』と申しました。
23 あなたさまは『その末の弟が一緒に来なければ、再び私の顔を見ることは許さぬ』と僕(しもべ)どもにおっしゃいました。
24 私どもは、あなたさまの僕(しもべ)である父のところへ帰り、ご主君のお言葉を伝えました。
25 そして父が『もう一度行って、食糧を少し買って来い』と申しました折にも、
26 『行くことはできません。もし、末の弟が一緒なら、行って参ります。末の弟が一緒でないかぎり、あの方の顔を見ることはできないのです』と答えました。
27 すると、あなたさまの僕(しもべ)である父は『お前たちも知っているように、私の妻は二人の息子を産んだ。
28 ところが、そのうちの一人は私のところから出て行ったきりだ。きっと野獣に噛み裂かれてしまったと思うが、それ以来、会っていない。

29 それなのに、お前たちはこの子までも、私から取り上げようとする。もしも、何か不幸なことがこの子の身に起こりでもしたら、お前たちはこの白髪の父を、苦しめてあの世に下らせることになるのだ』と申しました。
30 いま私が、この子を一緒に連れずに、あなたさまの僕(しもべ)である父のところへ帰れば、父の魂はこの子の魂と堅く結ばれていますから、
31 この子がいないことを知って、父は死んでしまうでしょう。そして、僕(しもべ)どもは白髪の父を、悲嘆のうちにあの世に下らせることになるのです。
32 実は、この僕(しもべ)が父にこの子の安全を保障して『もしも、この子をあなたのもとに連れて帰らないようなことがあれば、私が父に対して生涯その罪を負い続けます』と言ったのです。

33 何とぞ、この子の代わりに、この僕(しもべ)をご主君の奴隷としてここに残し、この子は他の兄弟たちと一緒に帰らせてください。
34 この子を一緒に連れずに、どうして私は父のもとへ帰ることができましょう。父に襲いかかる苦悶を見るに忍びません」


第四十五章


【兄弟たちへのヨセフの名乗り】

01 ヨセフは、側(そば)で仕えている者の前で、もはや平静を装っていることができなくなった。そして「みんな、ここから出て行ってくれ」と叫んだ。誰も側にいなくなってから、ヨセフは兄弟たちに自分の身を明かした。
02 ヨセフが声をあげて泣いたので、エジプト人はそれを聞き、ファラオの宮廷にも伝わった。
03 ヨセフは、兄弟たちに言った「私は、ヨセフです。お父さんはまだ生きておられますか?」 兄弟たちはヨセフの前で、驚きのあまり答えることができなかった。

04 「どうか、もっと近寄ってください」 兄弟たちが側へ近づくと、ヨセフはまた言った「私は、あなたたちがエジプトへ売った弟のヨセフです。
05 しかし、私をここへ売ったことを誰も悔やんだり、責め合ったりする必要はありません。命を救うために、神が私をあなたたちより先にお遣わしになったのです。
06 この二年の間、世界中に飢饉が襲っていますが、まだこれから五年間は、耕すこともなく、収穫もないでしょう。

【ヨセフは父や兄弟たちをエジプトに呼ぶ】

07 神が、私をあなたたちより先にお遣わしになったのは、この国であなたたちの命を保証して、あなたたちを生き残らせ、大いなる救いに至らせるためです。
08 私をここへ遣わしたのは、あなたたちではなく、神なのです。神が、私をファラオの顧問、宮廷全体の主、エジプト全国を治める者としてくれたのです。
09 急いで父上のもとへ帰って、伝えてください『息子のヨセフが、こう言っています。神が、私を全エジプトの主としてくださいました。すぐに、私のところへお出でください。
10 そして、ゴシェンの地域に住んでください。そうすればあなたも、息子も孫も、羊や牛の群れも、その他すべてのものも、私の近くで暮らすことができます。

11 そこでのお世話は、私が引き受けます。まだ五年間も飢饉が続くのですから、父上も家族も、その他すべてのものも、困ることのないようにしなければいけません』
12 さあ、お兄さんたちも、弟のベニヤミンも、自分の目で見てください。他ならぬ私が、あなたたちに言っているのです。
13 エジプトで私が受けている栄誉と、あなたたちが見たことをすべて父上に話してください。そして、急いで父上をここへ連れて来てください」

14 ヨセフは、弟ベニヤミンの首を抱いて泣いた。ベニヤミンも、ヨセフの首を抱いて泣いた。
15 ヨセフは、兄弟たち皆に口づけして、彼らを抱いて泣いた。その後、兄弟たちはヨセフと語り合った。

【ファラオの好意】

16 ヨセフの兄弟たちがやって来たという知らせが、ファラオの宮廷に伝わると、ファラオも家来たちも喜んだ。
17 ファラオは、ヨセフに言った「兄弟たちに、こうするように言いなさい『家畜に荷を積んでカナンの地に行き、
18 父上と家族をここへ連れて来なさい。私は、エジプトの国の最良のものを与えよう。あなたたちは、この国の最上の産物を食べるがよい』
19 また、こうするよう命じなさい『エジプトの国から、あなたたちの子供や妻たちを乗せる馬車を引いて行き、父上もそれに乗せて来るがよい。
20 家財道具などには未練を残さないように。エジプトの国中で最良のものが、あなたたちのものになるのだから』」

21 イスラエルの息子たちは、そのとおりにした。ヨセフは、ファラオの命令に従って彼らに馬車を与え、また道中の食糧を与えた。
22 ヨセフは、さらにそれぞれ晴れ着を与えた。中でもベニヤミンには、銀三百枚と晴れ着五枚を与えた。
23 父にも、エジプトの最良のものを積んだろば十頭と、穀物やパン、それに父の道中に必要な食糧を積んだ雌ろば十頭を贈った。
24 いよいよ兄弟たちを送り出すとき、出発にあたってヨセフは「途中で、争わないでください」と言った。

【兄弟たちは父のもとに帰って報告をする】

25 兄弟たちは、エジプトからカナン地方へ向かって行き、父ヤコブのもとへ帰った。
26 そして、直ちに報告した「ヨセフが、まだ生きています。しかも、エジプト全国を治める者になっています」 父は、気が遠くなった。彼らの言うことが、なかなか信じられなかったからである。
27 彼らは、ヨセフが話したとおりのことを残らず父に語り、ヨセフが父を乗せるために遣わした馬車を見せた。すると父ヤコブは、元気を取り戻した。
:28 ヤコブつまりイスラエルは、言った「よかった。息子ヨセフがまだ生きていたとは。私は行こう。死ぬ前に、どうしても会いたい!」


第四十六章


【ヤコブつまりイスラエル一家はエジプトへ行く】

01 イスラエルは、一家を挙げて旅立った。そして、ベエル=シバに着くと、父イサクの神に生け贄を捧げた。
02 その夜、幻の中で神がイスラエルに〈ヤコブ、ヤコブ〉と呼びかけた。彼は「はい」と答えた。
03 神は、言った〈私は神、あなたの父の神である。エジプトへ下ることを恐れてはならない。私は、あなたをそこで大いなる国民にする。
04 私があなたと共にエジプトへ下り、私があなたを必ず連れ戻す。ヨセフが、あなたのまぶたを閉じてくれるであろう〉

05 ヤコブは、ベエル=シバを出発した。息子たちは、ファラオが遣わした馬車に父ヤコブと子供や妻たちを乗せた。
06 ヤコブとその子孫は皆、カナン地方で得た家畜や財産を携えてエジプトへ向かった。
07 こうしてヤコブは、息子や孫、娘や孫娘など、子孫を皆連れてエジプトへ行った。

【ヤコブの子孫】

08 エジプトへ行ったイスラエルの人々、すなわちヤコブとその子らの名前は次のとおり。ヤコブの長男ルベン。
09 ルベンの息子のハノク・パル・ヘツロン・カルミ。
10 シメオンの息子のエムエル・ヤミン・オハド・ヤキン・ツォハル、およびカナンの女による息子シャウル。
11 レビの息子のゲルション・ケハト・メラリ。
12 ユダの息子のエル・オナン・シェラ・ペレツ・ゼラ。ただし、エルとオナンはカナンの土地で死んだ。ペレツの息子のヘツロン・ハムル。

13 イサカルの息子のトラ・プワ・ヨブ・シムロン。
14 ゼブルンの息子のセレド・エロン・ヤフレエル。
15 これらは、レアがパダン=アラムでヤコブとの間に産んだ子らである。ヤコブの娘ディナも含め、男女の総数は三十三名である。

16 ガドの息子のツィフヨン・ハギ・シュニ・エツボン・エリ・アロディ・アルエリ。
17 アシェルの息子のイムナ・イシュワ・イシュビ・ベリア、および妹セラ。ベリアの息子はヘベル・マルキエル。
18 これらは、ラバンが娘レアに与えたジルパの子らである。ジルパがヤコブとの間に産んだのは十六名である。

19 ヤコブの妻ラケルの息子のヨセフ・ベニヤミン。
20 ヨセフには、エジプトの国で息子が生まれた。それは、オンの祭司のポティ=フェラの娘アセナトが彼との間に産んだマナセとエフライムである。
21 ベニヤミンの息子のベラ・ベケル・アシュベル・ゲラ・ナアマン・エヒ・ロシュ・ムピム・フピム・アルド。
22 これらは、ヤコブとの間に生まれたラケルの子らで、その総数は十四名である。
23 ダンの息子のフシム。

24 ナフタリの息子のヤフツェエル・グニ・イエツェル・シレム。
25 これらは、ラバンが娘ラケルに与えたビルハの子らである。ビルハがヤコブとの間に産んだ者の総数は七名である。

26 ヤコブから出た者で、ヤコブと共にエジプトへ行った者は、ヤコブの息子の妻たちを除けば、総数六十六名である。
:27 エジプトで生まれたヨセフの息子は二人である。従って、エジプトへ行ったヤコブの家族は総数七十名であった。

【イスラエル・ヨセフ親子の再会】

28 ヤコブは、ヨセフをゴシェンに連れて来るために、ユダを一足先にヨセフのところへ遣わした。そして、一行はゴシェンの地に到着した。
29 ヨセフは車を用意させると、父イスラエルに会いにゴシェンへやって来た。ヨセフは父を見るやいなや、父の首に抱きつき、その首にすがったまま、しばらく泣き続けた。
30 イスラエルは、ヨセフに言った「私はもう死んでもよい。お前がまだ生きていて、お前の顔を見ることができたのだから」

31 ヨセフは、兄弟や父の家族の者たちに言った「私は、ファラオのところへ報告のため参上し『カナン地方にいた私の兄弟と父の家族の者たちが、私のところに参りました。
32 この人たちは羊飼いで、家畜の群れを飼っていたのですが、羊や牛をはじめ、すべての財産を携えてやって来ました』と申します。
33 ですから、ファラオがあなたたちをお召しになって『仕事は何か』と言ったら、
34 『あなたの僕(しもべ)である私どもは、先祖代々、幼い時から今日まで家畜の群れを飼う者です』と答えてください。そうすれば、あなたたちはゴシェンの地域に住むことができるでしょう」 羊飼いはすべて、エジプト人のい厭うものであったからである。


第四十七章


【ファラオに面会をした兄弟たち】

01 ヨセフは、ファラオのところへ行き「私の父と兄弟たちが、羊や牛をはじめ、すべての財産を携えて、カナン地方からやって来ました。そして、今、ゴシェンの地におります」と報告をした。
02 そのときヨセフは、兄弟の中から五人を選んで、ファラオの前に連れて行った。
03 ファラオは、ヨセフの兄弟たちに言った「お前たちの仕事は何か?」 兄弟たちが「あなたの僕(しもべ)である私どもは、先祖代々、羊飼いです」と答えた。
04 さらに続けて、兄弟たちはファラオに言った「私どもは、この国に寄留させていただきたいと思って来ました。カナン地方では飢饉がひどく、僕(しもべ)たちの羊を飼うための牧草さえありません。僕(しもべ)たちをゴシェンの地に住まわせてください」

05 ファラオは、ヨセフに向かって言った「父上と兄弟たちが、お前のところにやって来たのだ。
06 エジプトの国のことは、お前に任せてあるのだから、最も良い土地に父上と兄弟たちを住まわせるがよい。ゴシェンの地に住まわせるのもよかろう。もし、一族の中に有能な者がいるなら、私の家畜の監督をさせるがよい」

【ファラオに面会したヤコブ】

07 それから、ヨセフは父ヤコブを連れて来て、ファラオの前に立たせた。ヤコブは、ファラオに祝福の言葉を述べた。
08 ファラオが「あなたは、何歳におなりですか」とヤコブに語りかけた。
:09 ヤコブは、ファラオに答えた「私の旅路の年月は、百三十年です。私の生涯の年月は短く、苦しみ多く、私の先祖たちの生涯や旅路の年月には及びません」
10 ヤコブは、別れの挨拶をして、ファラオの前から退出した。

11 ヨセフは、ファラオが命じたように、父と兄弟たちの住まいを定め、エジプトの国に所有地を与えた。そこは、ラメセス地方の最も良い土地であった。
12 ヨセフはまた、父と兄弟たちと家族の者すべてを養い、扶養すべき者の数に従って食糧を与えた。

【ヨセフの農業政策】

13 飢饉が非常に激しく、世界中に食糧がなくなった。エジプトの国でも、カナン地方でも、人々は飢饉のために苦しみあえいだ。
14 ヨセフは、エジプトの国とカナン地方の人々が穀物の代金として支払った銀をすべて集め、それをファラオの宮廷に納めた。

15 エジプトの国にもカナン地方にも、銀が尽き果てた。それでも、エジプト人はすべて、ヨセフのところにやって来て「食べる物をください。あなたさまは、私どもを見殺しになさるおつもりですか。銀はなくなってしまいました」と言った。
16 ヨセフは、答えた「家畜を連れて来なさい。もし銀がなくなったのなら、家畜と引き換えに与えよう」
17 人々が、家畜をヨセフのところに連れて来ると、ヨセフは、馬・羊・牛の群れ・ろばと引き換えに、食糧を与えた。ヨセフはこうして、その年、すべての家畜と引き換えて人々に食糧を分け与えた。

18 その年も終わり、次の年になると、人々はまたヨセフのところに来て言った「ご主君には、何もかも隠さずに申し上げます。銀はすっかりなくなり、家畜の群れもご主君のものとなって、ご覧のように残っているのは、私どもの体と農地だけです。
19 どうしてあなたさまの前で、私どもと農地が滅んでしまってよいでしょうか。食糧と引き換えに、私どもと土地を買い上げてください。私どもは農地とともに、ファラオの奴隷になります。種をお与えください。そうすれば、私どもは死なずに生きることができ、農地も荒れ果てないでしょう」

20 ヨセフは、エジプト中のすべての農地をファラオのために買い上げた。飢饉が激しくなったので、エジプト人はすべて自分の畑を売った。土地はこうして、ファラオのものとなった。
21 また民については、エジプト領の端から端まで、ヨセフが彼らを奴隷にした。
22 ただし、祭司の農地だけは買い上げなかった。祭司にはファラオからの給与があって、ファラオが与える給与で生活をしていたので、農地を売らなかったからである。

23 ヨセフは、民に言った「よいか、お前たちは今日、農地とともにファラオに買い取られたのだ。さあ、ここに種があるから、畑に蒔きなさい。
24 収穫の時には、五分の一をファラオに納め、五分の四はお前たちのものとするがよい。それを次に畑に蒔く種にしたり、お前たちや家族の食糧とし、子供たちの食糧としなさい」
25 彼らは言った「あなたさまは、私どもの命の恩人です。ご主君のご好意によって、私どもはファラオの奴隷にさせていただきます」
26 ヨセフはこのように、収穫の五分の一をファラオに納めることを、エジプトの農業の定めとした。それは、今日まで続いている。ただし、祭司の農地だけはファラオのものにならなかった。

【ヤコブの最後の望み】

27 イスラエルは、エジプトのゴシェン地域に住み、そこに土地を得て、子を産み、大いに数を増した。
:28 彼は、エジプトの国で十七年生きた。彼の生涯は、百四十七年であった。
29 イスラエルは、自分の死ぬ日が近づいたときに、息子ヨセフを呼び寄せて言った「もし、お前が私の願いを聞いてくれるなら、お前の手を私の腿の間に入れ、私のために慈しみとまことをもって実行すると、誓ってほしい。どうか、私をこのエジプトには葬らないでくれ。
30 私が死んだら、私をエジプトから運び出して、先祖たちの墓に葬ってほしい」 ヨセフは「必ず、おっしゃるとおりにします」と答えた。
31 「では、誓ってくれ」と父が言ったので、ヨセフは誓った。イスラエルは、寝台の枕もとで感謝を表した。


第四十八章


【養子になったエフライムとマナセ】

01 その後、ヨセフに「お父上が、ご病気です」との知らせが入った。そこで、ヨセフは二人の息子マナセ・エフライムを連れて行った。
02 ある人がイスラエルに「ご子息のヨセフさまが、ただいまお見えになりました」と知らせると、彼は力を奮い起こして、寝台の上に座った。
03 そして、ヨセフに言った「全能の神が、カナン地方のルズで私に現れて、私を祝福してくださった。
04 そのとき、こう言った『あなたの子孫を繁栄させ、数を増やし あなたを諸国民の群れとしよう。この土地をあなたに続く子孫に 永遠の所有地として与えよう』
05 いま、私がエジプトのお前のところに来る前に、エジプトの国で生まれたお前の二人の息子を私の子供にしたい。エフライムとマナセは、ルベンやシメオンと同じように、私の子となる。
06 しかし、その後に生まれる者はお前のものとしてよい。彼らの嗣業の土地は、兄たちの名で呼ばれるであろう。

07 私はパダンから帰る途中、ラケルに死なれてしまった。あれはカナン地方で、エフラトまで行くには、まだかなりの道のりがある途中でのことだった。私はラケルを、エフラトつまり今のベツレヘムへ向かう道のほとりに葬った」

08 イスラエルは、ヨセフの息子たちを見ながら「これは誰か?」と尋ねた。
09 ヨセフが、父に「神が、ここで授けてくれた私の息子です」と答えると、父は「ここへ連れて来なさい。彼らを祝福しよう」と言った。
:10 イスラエルの目は、老齢のためかすんでよく見えなかった。ヨセフが、二人の息子を父のもとに近寄らせると、父は彼らに口づけをして抱き締めた。
11 イスラエルは、ヨセフに言った「お前の顔さえ見ることができるとは思わなかったのに、なんと、神はお前の子供たちをも見させてくださった」
12 ヨセフは、彼らを父の膝から離し、地にひれ伏して拝した。

13 ヨセフは二人の息子のうち、エフライムを自分の右手でイスラエルの左手に向かわせ、マナセを自分の左手でイスラエルの右手に向かわせ、二人を近寄らせた。
14 イスラエルは右手を伸ばして、弟であるエフライムの頭の上に置き、左手をマナセの頭の上に置いた。つまり、マナセが長男であるのに、彼は両手を交差して置いたのである。
15 そして、ヨセフを祝福して言った「私の先祖アブラハムとイサクが、その前に歩んだ神よ。私の生涯を今日まで 導かれた牧者なる神よ。
16 私をあらゆる苦しみから 贖われた天使よ。どうか、この子供たちの上に祝福をお与えください。どうか、私の名と私の先祖アブラハム・イサクの名が、彼らによって覚えられますように。どうか、彼らがこの地上に数多く増え続けますように」

17 ヨセフは、父が右手をエフライムの頭の上に置いているのを見て、不満に思い、父の手を取ってエフライムの頭からマナセの頭へ移そうとした。
18 そして、ヨセフは父に言った「父上、そうではありません。これが長男ですから、右手をこれの頭の上に置いてください」
19 ところが、父はそれを拒んで言った「いや、分かっている。私の子よ、私には分かっている。この子も一つの民となり、大きくなるであろう。しかし、弟の方が彼よりも大きくなり、その子孫は国々に満ちるものとなる」
20 その日、父は彼らを祝福して言った「あなたによって、イスラエルは人を祝福して言うであろう『どうか、神があなたをエフライムとマナセのようにしてくださるように』」
 彼はこのように、エフライムをマナセの上に立てたのである。

【イスラエルは自分の死を予言する】

21 イスラエルは、ヨセフに言った「間もなく、私は死ぬ。だが、神がお前たちと共にいてくださり、きっとお前たちを先祖の国に導き帰らせてくださる。
22 私は、お前に兄弟たちよりも多く、私が剣と弓をもってアモリ人の手から取った一つの分け前(=シェケム)を与えることにする」


第四十九章


【イスラエルの祝福】

01 イスラエルは、息子たちを呼び寄せて言った「集まりなさい。私は後の日に、お前たちに起こることを語っておきたい。
02 息子たちよ、集まって耳を傾けよ。お前たちの父イスラエルに耳を傾けよ。
03 ルベンよ、お前は私の長子。私の勢い、命の力の初穂。気位が高く、力も強い。
04 お前は水のように奔放で 長子の誉れを失う。お前は、父の寝台に上った。あのとき、私の寝台に上り、それを汚した。

05 シメオンとレビは似た兄弟。彼らの剣は暴力の道具。
06 私の魂よ、彼らの謀議に加わるな。私の心よ、彼らの仲間に連なるな。彼らは怒りのままに人を殺し、思うがままに雄牛の足の筋を切った。
07 呪われよ、彼らの怒りは激しく、憤りは甚だしいゆえに。私は、彼らをヤコブの間に分け、イスラエルの間に散らす。

08 ユダよ、あなたは兄弟たちに讃えられる。あなたの手は敵の首を押さえ、父の子たちはあなたを伏し拝む。
09 ユダは獅子の子。 私の子よ、あなたは獲物を取って上って来る。 彼は雄獅子のようにうずくまり 雌獅子のように身を伏せる。 誰が、これを起こすことができようか。
10 王笏はユダから離れず 統治の杖は足の間から離れない。ついにシロが来て、諸国の民は彼に従う。
11 彼は、ろばをぶどうの木に、雌ろばの子を良いぶどうの木につなぐ。彼は、自分の衣をぶどう酒で、着物をぶどうの汁で洗う。
12 彼の目は、ぶどう酒によって輝き、歯は乳によって白くなる。

13 ゼブルンは海辺に住む。そこは、舟の出入りする港となり、その境はシドンに及ぶ。
14 イサカルは骨太のろば、二つの革袋の間に身を伏せる。
15 彼には、その土地が快く、好ましい休息の場となった。彼は、そこで背をかがめて荷を担い、苦役の奴隷に身を落とす。

16 ダンは、自分の民を裁く、イスラエルの他の部族のように。
17 ダンは、道端の蛇、小道のほとりに潜む蝮。馬のかかとを噛むと、乗り手はあおむけに落ちる。
18 神よ、私はあなたの救いを待ち望む。

19 ガドは、略奪者に襲われる。しかし彼は、彼らの踵(かかと)を襲う。
20 アシェルには豊かな食物があり、王の食卓に美味を供える。
21 ナフタリは解き放たれた雌鹿、美しい子鹿を産む。

22 ヨセフは、実を結ぶ若木、泉のほとりの実を結ぶ若木。その枝は、石垣を越えて伸びる。
23 弓を射る者たちは、彼に敵意を抱き、矢を放ち、追いかけてくる。
24 しかし、彼の弓はたるむことなく、彼の腕と手は素早く動く。ヤコブの勇者の御手により、それによって、イスラエルの石となり牧者となった。
25 どうか、あなたの父の神があなたを助け 全能者によってあなたは祝福を受けるように。上は天の祝福、下は横たわる淵の祝福。乳房と母の胎の祝福をもって。
26 あなたの父の祝福は、永遠の山の祝福に勝り、永久の丘の賜物に勝る。これらの祝福がヨセフの頭の上にあり、兄弟たちから選ばれた者の頭にあるように。

27 ベニヤミンは噛み裂く狼、朝には獲物に食らいつき、夕には奪ったものを分け合う」

28 これらはすべて、イスラエルの部族で、その数は十二である。これは、彼らの父が語り、祝福した言葉である。父は彼らを、おのおのにふさわしい祝福をもって祝福したのである。

【イスラエルつまりヤコブの死】

29 イスラエルは、息子たちに命じた「間もなく私は、先祖の列に加えられる。私をヘト人エフロンの畑にある洞穴に、先祖たちと共に葬ってほしい。
30 それは、カナン地方のマムレの前のマクペラの畑にある洞穴で、アブラハムがヘト人エフロンから買い取り、墓地として所有するようになった。
31 そこに、アブラハムと妻サラが葬られている。また、イサクと妻リベカも葬られている。そしてそこに、私もレアを葬った。
32 あの畑とあそこにある洞穴は、ヘトの人たちから買い取ったものだ」

33 ヤコブは、息子たちに命じ終えると、寝床の上に足をそろえ、息を引き取り、先祖の列に加えられた。


第五十章


【イスラエルの防腐処理と喪】

01 ヨセフは、父の顔に伏して泣き、口づけした。
02 ヨセフは自分の侍医たちに、父のなきがらには薬を塗り、防腐処置をするように命じた。医者は、イスラエルにその処置をした。
03 そのために、四十日を費やした。この処置をするには、それだけの日数が必要であった。エジプト人は、七十日の間、喪に服した。

【ファラオへの願い出】

04 喪が明けると、ヨセフはファラオの宮廷に願い出た「ぜひとも、よろしくファラオにお取り次ぎください。
05 実は、父が私に誓わせて『私は間もなく死ぬ。そのときは、カナンの土地に用意してある墓に私を葬ってくれ』と申しました。ですから、どうか父を葬りに行かせてください。私は、また帰って参ります」
06 ファラオは、答えた「父上が誓わせたとおりに、葬りに行って来るがよい」

【イスラエルの葬儀をするためにゴレン=アタドに行く】

07 ヨセフは、父を葬りに行った。ヨセフと共に行ったのは、ファラオの宮廷の元老である重臣たちすべてとエジプトの国の長老たちすべて。
08 それに、ヨセフの家族全員と彼の兄弟たち、および父の一族であった。ただ幼児と、羊・牛の群れは、ゴシェンの地域に残した。
09 また、戦車も騎兵と共に行ったので、非常に盛大な行列となった。

10 一行は、ヨルダン川の東側にあるゴレン=アタドに着き、そこで非常に荘厳な葬儀を行った。父の追悼の儀式は、七日間にわたって行われた。
11 その土地に住んでいるカナン人たちは、ゴレン=アタドで行われた追悼の儀式を見て「あれは、エジプト流の盛大な追悼の儀式だ」と言った。それゆえ、その場所の名はアベル=ミツライム(=エジプト流の追悼の儀式)と呼ばれるようになった。それは、ヨルダン川の東側にある。

12 それから、イスラエルの息子たちは、父に命じられたとおりに行った。
13 すなわち、ヤコブの息子たちは、父のなきがらをカナンの土地に運び、マクペラの畑の洞穴に葬った。それは、アブラハムがマムレの前にある畑とともに、ヘト人エフロンから買い取り、墓地として所有するようになったものである。
14 ヨセフは父を葬った後、兄弟たちをはじめ、父を葬るために一緒に来たすべての人々と共にエジプトに帰った。

【兄弟たちとヨセフ】

15 ヨセフの兄弟たちは、父が死んでしまったので、ヨセフがもしかしたら自分たちをまだ恨んでいて、昔ヨセフにしたすべての悪に仕返しをするのではないかと心配をした。
16 そこで、人を介してヨセフに言った「お父さんは亡くなる前に、こう言っていました。
17 『お前たちは、ヨセフにこう言いなさい。確かに、兄たちはお前に悪いことをしたが、どうか兄たちの咎と罪を赦してやってほしい』 お願いです。どうか、あなたの父の神に仕える僕(しもべ)たちの咎を赦してください」 これを聞いて、ヨセフは涙を流した。

18 やがて、兄たち自身もやって来て、ヨセフの前にひれ伏して「このとおり、私どもはあなたの僕(しもべ)です」と言った。
19 ヨセフは、兄たちに言った「恐れることはありません。私が、神に代わることができましょうか。
20 あなたがたは、私に悪をたくらみましたが、神はそれを善に変え、多くの民の命を救うために、今日のようにしてくださったのです。
21 どうか恐れないでください。この私が、あなたたちとあなたたちの子供を養いましょう」 ヨセフはこのように、兄たちを慰め、優しく語りかけた。

22 ヨセフは父の家族と共にエジプトに住み、百十歳まで生きた。
23 そして、エフライムの三代の子孫を見ることができた。マナセの息子マキルの子供たちも生まれると、ヨセフの膝に抱かれた。

【ヨセフの死】

24 ヨセフは、兄弟たちに言った。「私は、間もなく死にます。しかし、神は必ずあなたたちを顧みて、この国からアブラハム・イサク・ヤコブに誓った土地に導いてくださいます。」
25 それから、ヨセフはイスラエルの息子たちに誓わせて言った。「神は必ず、あなたたちを顧みてくださいます。そのときには、私の骨をここから携えて行ってください。」
:26 ヨセフはこうして、百十歳で死んだ。人々はエジプトで彼のなきがらに薬を塗り、防腐処置をして柩(ひつぎ)に納めた。


Kuroda Kouta (2005.11.11/2007.08.07)