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  九つの物語



はじめに
物語(1) 人類の歴史
物語(2) タスマニア人の数
物語(3) 電話ごっこ
物語(4) 群盲象を評す
物語(5) 近い将来の社長室
物語(6) ピストル犯人の言い分
物語(7) アキレスと亀
物語(8) 朝三暮四
物語(9) 人生の持ち時間


はじめに

 物語を九つ引用して、音声読み上げソフトで朗読をしました。
 興味のある人は、原本『インターネット入門』をご覧ください。
 また、ここでの朗読の方法は「音声読上げ入門」にあります。


物語(1) 人類の歴史

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人類の歴史


 あなたは、わたくしたち人類の祖先が、いつごろからこの地球で活動をし始めたと思いますか?
 直立猿人・北京原人などといわれる原始人類が、はじめて現れた旧石器時代は気が遠くなるほど昔で、今から50万年も以前のことといわれています。
 その後、わたくしたちの祖先と考えられる現生人類が現れたのは、それでも、およそ3万年前のことです。

 ここで今、この現生人類の歴史である3万年を、仮に1年の期間に縮小して考えてみましょう。
 そうすると、正月元旦にわたくしたちの遠い祖先が、はじめてこの世に現れたことになります。新石器時代を経て長い時間が去り、エジプト、インド、メソポタミアそして中国に文明が開花し、やがてピラミッドが作られたのは11月のはじめにあたります。さらに長い時が流れ、釈迦孔子が活躍したのが11月のおわり、キリストの生まれたのが12月7日です。
 時はゆるやかに流れ、コロンブスが12月25日にアメリカ大陸を発見し、モールスは12月30日に電信機を発明します。

 世界最初の真空管回路を用いたコンピュータといわれるENIACが完成したのは、暮れの31日、お昼少し前のことです。このENIACに続いて、フォン・ノイマンが提唱したプログラム内蔵方式のコンピュータEDVACが完成したときは、すでにお昼を過ぎていました。
 とうとう大晦日も暮れ、その年もぼつぼつ終わろうとしたころに、データ通信の最初のシステムSAGEが動き始め、さらに時間は過ぎて、除夜の鐘(元日の0時から撞く)が鳴り始めようとするころに、インターネットが実用化をしたことになります。

 このように、人類の歴史というスケールで考えますと、データ通信やインターネットが行われ始めてから、まだあまり時間が過ぎていないことが分かります。そして、そのように考えると日々利用をしているインターネットが、数秒前に何とかできあがったことになり、1年の間つちかってきた遺伝子がそれに慣れるかどうかという心配が生じます。なぜならば、そのために事件や犯罪が起こる可能性が、非常に大きいからです。
 そして悪いことに、それに慣らされていなかったり、それに適応した教育を受けていない若年層までが、その事件や犯罪の犠牲者や当事者になってしまい、社会的な問題が多発する恐れがあるのです。

 因(ちなみ)に人生を80年とすると、上のスケールでは約1日となります。
 あなたは、この24時間の一生を、人類の歴史の中で長いと考えますか、それとも短いと感じますか?


物語(2) タスマニア人の数

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タスマニア人の数


 あなたは、タスマニア島がどこにあるかご存知ですか?
 タスマニア島は、オーストラリア南東部にある都市メルボルンから、さらに南方約300kmの海上にあります。面積はおよそ7万平方キロメートルあり、かつてはタスマニア人がそこに住んでいました。
 それでは現在、タスマニア人たちは、どうなったのでしょうか?

 タスマニア人たちは、物を数えるときに、
   1、2、沢山
といったそうです。1と2があって3がもう、沢山ですから、4以上を直接に表す数はありませんでした。
 したがって、たとえば4を表現するときは、
   沢山と1
といい、6は、
   沢山、沢山
と数えたわけです。

 タスマニア人たちは、生活が単調で、日常あまり多くのものを数える必要がなかったのです。彼らの経済生活は、狩猟や採集に依存していましたが、家は単に、風を凌ぐ程度の簡単なものでした。また、衣服などという概念もなく、日常は、まったくの裸で、せいぜい雨の日にカンガルーの毛皮を体にまきつけたくらいでした。
 やがて1800年代に、この島にも白人の移民が始まります。
 白人たちは、彼らの方針として、その島に住んでいる邪魔なタスマニア人の撲滅を計り、つぎつぎと殺しました。数千人いた原住民はどんどん減ってゆき、最後に近くのフリンダース島に逃げた数百人のタスマニア人も、やがて1876年には一人残らず死に絶えてしまったのです。

 したがって現在では、「1、2、沢山」と数えたタスマニア人はもう一人もいません。
 あなたは、200年前のこのことを、現在のパンダや朱鷺(とき)などの保護と比較してどのようにお考えでしょうか?


物語(3) 電話ごっこ

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電話ごっこ


 あなたは、かつて電話ごっこをして遊んだことがありますか?
 幼いころのなつかしい記憶として、覚えている方も多いと思います。ここでもう一度、そのときのことを思い出してみましょう。
 まず、直径約3cm、長さが10cmぐらいの紙筒を2コ用意します。ちょうど、トイレットペーパの芯のような形と大きさをしたものです。つぎに、その2コの紙筒とも、片側の口にセロファンを幕のように張りつけます。
 これで、一対の送信機と受信機ができあがりました。送受信機ともに、まったく同じ構造をしています。

 つぎは伝送路、すなわち信号の通り道です。
 2コの紙筒のそれぞれ片側に張ってあるセロファンの中央を、3mくらいの1本の糸でつなげば、それがもう伝送路です。実際には、その糸の両端を接着剤かセロテープで、セロファン面の中央に、しっかりと付けます。
 このようにして、2つの紙筒が1本の糸で結ばれます。
 装置は、これで完成です。

 いよいよ送受信、つまり通話を行います。通話は、紙筒をもった2人の子が、互いに離れ、糸をたるませないようにピンと張って行います。一人が、紙筒を口に当てて話すときは、もう一人は紙筒を耳に当てています。
 このようにすると、送信側の子供の声は筒を通ってセロファン紙に当たり、そこで力学的な振動に変換されます。さらに、その振動は糸を伝わって受信側の紙筒のセロファンを再び振動させます。その結果、空気振動によって音声が再生され、筒を通って受信側の子供に聞こえるわけです。

 この振動の変換の部分、すなわちセロファンを、仮に変復調装置とでもいいましょう。
 経験された方は、お分かりのことと思いますが、こんな簡単な理屈と装置で、結構音声が伝送できるものです。「データ通信」の基本的なシステムは、この電話ごっこが複雑になったものと考えてください。つまりこの電話のモデルは、送信機と受信機の間に、それぞれ変復調装置を介して伝送路があるからです。
 このように考えると、データ通信システムを理解しやすいと思います。


物語(4) 群盲象を評す

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群盲象を評す


 あなたは、「群盲象を評す」ということをご存知ですか?
 この言葉は、視野が狭いために対象としているものの全体像を認識できず、その一部分を全体と見誤ってしまうという意味なのです。
 言葉のいわれは、仏典の『六度集経』にあり、つぎのような内容だったと思います。
 むかし、インドの王様が盲人たちに象を認識させようと考えました。目が見えないのですから、彼らは手で象にさわり、どんなものかを知ろうとします。彼らが、ひととおり象に触れたあとで、王様は尋ねました。

 「おまえたちは、象をいったいどのようなものだと思うか」
 まず最初の盲人が答えました。彼は象の足の部分に触れたのです。
 「はい、象というものは、ちょうど太い柱のようです」
 しかし、鼻に触れた盲人は納得しかねる様子で答えました。
 「いや、柱とはちょっと違う。象は柱のようには太くなく、もっと細くて、ぐにゃぐにゃ動きホースみたいだ」

 また牙に触れた別の盲人が言いました。
 「ぐにゃぐにゃなんかしていないぞう。むしろ固くて刀のようだ」
 さらに、腹に触れた盲人は言いました。
 「いや、まったく違う。象というものは壁のようだ。広くて、がっしりしている」
 最後に、尻尾に触れた盲人が怒ったように言いました。
 「みんな! 何を言っているのだ。きみたちは筆を知っているだろう。象はまさしく筆を大きくしたようなものだ!」

 なぜ同じ対象物に対して、このような見解の相違が生じたのでしょうか。
 それは、盲人たちにとって認識しようとしている象が、かなり大きい物体であるため、全部を触れてみることができず、その一部分から全体を類推した結果、このようなことになってしまったのです。
 目が見えても、対象が大きい場合や、複雑な構造をしているときは、こういうことがありがちです。


物語(5) 近い将来の社長室

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近い将来の社長室


 あなたは、近い将来コンピュータ自身が人間に対して命令を出すようになると思いますか?
 つぎのようなことを、いったいどうお考えでしょう。
 SF(scientific fiction:空想科学小説)などに登場する未来のオフィスを、まず想像してください。
 ある日、あなたに社長から出頭命令が届きます。あなたは、直ちに社長室に行きます。しかし、そこには誰もおらず、ただ大きなデスクの上に、なにやらごたごたとインテリジェント端末のようなものが置いてあるだけです。
 その端末がしばらくの間、何となくあなたの様子を窺うような感じで、動作をしています。

 あなたは黙って待ちます。その間、あなたはこころの中で「ばかばかしい、機械に何ができるか」と、ぼんやり考えています。
 やがて、たどたどしい音声で、しかも重々しくメッセージが発せられます。
 「機械を、馬鹿にしては、いけない! あなたの最近の仕事の成果の統計の結果は、良くない。改善の傾向も、みられない。あなたはくびだ!」
 いったい、こんなことが近い将来に、しかも現実にあるのでしょうか? また、あってよいのでしょうか?


物語(6) ピストル犯人の言い分

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ピストル犯人の言い分


 あなたは、つぎの事実をどうお考えでしょうか?
 彼は優秀な成績で名門校を卒業し、超一流企業にエンジニアとして就職しました。あっという間に20年が過ぎ、彼はその企業の中堅社員だったのです。彼のグループは、常に他社に先がけ次々と新製品を開発・発表しました。それによって、会社は莫大の利益をあげていたのです。
 そんなある日、彼はつくづくと考えました。「毎日あくせくと働いている。しかし、私は一介のサラリーマンに過ぎない。企業という組織の、単なる一枚の歯車でしかない。そうだ、自分で事業を初めてみよう!」

 そこで彼は、長い間勤めた会社をあっさりと退職し、小さいながらも自分の会社を創立しました。
 はじめの3年間は、苦しいなりに無我夢中で過ぎ去りました。4年目からは軌道にのって事業は大きく発展し、相当な利益が生じて彼の生活も豊かになりました。
 しかし、順風満帆ばかりが人生ではなかったようです。ちょうど設立10年目を迎えた年に、輸出の失敗から大欠損を生じ、資金繰りに行き詰まりました。数回の不渡手形を出した後に、会社はあっけなく倒産してしまったのです。毎日、債権者からきびしく返済を迫られ、彼は執拗に追いかけ回されました。

 幼いときから聡明だった彼の頭脳が、次第におかしくなっていったのはそのころです。苦悩の日々が続いて何のはずみか、こともあろうに銀行強盗をはたらき、ピストルで人を殺したのです。完全犯罪を計画したものの、あっけなく捕らえられ、やがて調書をとられます。彼の論述です。
 「私はそんなに悪いことをしたとは思わない。一つ一つのことがらが連続して、私をそこへ追い込んだのだ!」
 「私こそ被害者で、そうさせた周囲の環境が悪いのだ」
 「世界の景気変動や、国の経済政策が悪い」

 さらに、彼の言い分は続きます。
 「今回のことについていえば私全体が悪いのではなく、あのときピストルを持っていた右手が悪いのだ」
 「いや、ピストルの引金を引いたのは人差指だ。指が過ちを犯したのだから指だけを処分して欲しい」
 このような支離滅裂な論理を、精力的に展開したのです。結局、彼は過度の被害妄想と、精神に異常があったということで不起訴となり、精神病院に入れられたのです。


物語(7) アキレスと亀

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アキレスと亀


 あなたは、ゼノンのパラドックスをご存知ですか?
 その1つに、有名な「アキレスと亀」があります。それは、トロヤ戦争で活躍したギリシャの英雄アキレス、そして彼の相手はなんと亀、この二者がかけっこをするというのです。
 アキレスは「アキレス腱」という弱味もありますが、とにかく足が速い。一方、亀は「兎と亀」のレースでは、兎の油断で運よく勝ったものの、めっぽうのろい。そこでハンディをつけ、亀はアキレスの100m先をスタートラインとしました。
 用意、ドンでアキレスも亀も同時に走り出します。しかし、ここに妙なことが起こります。アキレスがどうしても亀を追い越せないのです。なぜ、そんなことになってしまうのか、その理由を述べます。

 スタートの瞬間、亀はアキレスの100m前を走っていることは明白です。
 しばらくしてアキレスが、さっき亀がいた場所、すなわち彼のスタートラインから100mのところに来ると、もうそのとき亀はアキレスの何メートルか前を確実に進んでいます。つぎに、アキレスがその亀のいた位置まで来ると、亀は遅いながらも、また前に進んでいます。さらに追いかけても、亀は少しではありますが前へ出ています。
 このようなことを繰り返しますと、アキレスは亀に限りなく近づきますが、しかし亀を追い越すことは永久にできないというのです。

 いったい、こんなことがあるのでしょうか?
 アキレスが亀に対して必死に追いかけても、いつも少しずつ前を歩んでいる亀、これは「時間」という概念を無視したために起こる誤謬でしょうか? 実際にはありえないことですが、この矛盾を証明するのはなかなか困難です。
 このような、おかしな理論の組み立て方を、パラドックス(paradox:逆説)といいます。


物語(8) 朝三暮四

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朝三暮四


 あなたは、「荘子」の中にある「朝三暮四」という話をご存知ですか?
 それは、こんな内容です。
 昔、ある人が沢山の猿を飼っていました。毎日、とてもかわいがりましたから、猿たちのほうでも飼い主になついて、お互いに話が分かり、こころが通じあうほどになりました。
 しかし、猿の数が増えるにつれ、餌のどんぐりを買う費用も、馬鹿にはなりません。飼い主は、猿に嫌われてはいけないと思い、いろいろと苦労して餌の都合をつけていたのですが、とうとう日々の餌を制限しなくてはならない状態になってしまいました。そこで、おそるおそる猿たちに言いました。
 「みんな、お願いがあるのだ。聞いておくれ。これからは、どんぐりを朝に3つ、暮れに4つにして欲しいのだよ」
 たちまち猿たちは、激しく騒いで不満を示したのです。飼い主は困った顔をしてじっと考えました。猿たちは、心配そうに見ています。
 しばらくして、飼い主は猿たちに向かって静かに言いました。
 「それでは、朝4つにして、暮れは3つにしようね」
 それを聞いた猿たちは大よろこび、手を叩いて賛成したということです。

 あなたは、このことをどうお考えですか?
 この話は、わたくしたちに手順の違いによって、うまくいくときと、うまくいかないときがあることを教えています。また、日々繰り返している同じようなことでも方法を変えると、結果が違ってくるということも暗示しています。
 まさか、この猿たちのように単純ではないでしょうが、世の中のことで順序をさかさまにすると成功することがあります。処理手順がループになっているプログラムの中に、そのようなことがよく見受けられます。


物語(9) 人生の持ち時間

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人生の持ち時間


 あなたは、ご自分の人生について深く考えたことがありますか?
 またあなたは、あなた自身の一生がおよそ何時間あると思いますか?
 いまあなたの人生を、平均寿命が延びているということで、80年と仮定しましよう。この80年を、時間に換算すると700800時間となります。この時間をどのように使うかは、あなたご自身の問題で、あなたの自由です。
 しかし、もう過ぎ去ってしまった部分については、今から使いなおすというわけにはいきません。
 仮にいま、あなたが20才であるとすると、既にもう人生の4分の1を使い終わったということになります。したがって、あなたの残り時間は525600時間となります。ところで、この残り時間525600時間が、すべてあなたの自由に使えるというわけではありません。なぜならば、あなたが睡眠をしたり休養する時間、その他食事や風呂の時間などがあり、その時間は他のことに専念できません。

 このように考えてゆきますと、あなたの残り時間は、正味でこの3分の2くらいに減ってしまいます。すなわち、350400時間となり、これは14600日に相当します。この時間を、非常に長いものと考えるか、あるいは短いものと考えるかは人それぞれでしょう。
 あなたの場合、いかがなものでしょうか?
 せめて、この残り時間を有効に使っていただきたいと思います。

 このことは、将棋や碁の対局における持ち時間を思い出させます。
 将棋や碁の勝負は、ご存じのように、はじめは一つの手を打つのにも熟考して長時間を費やします。しかし、後になって時間が減ってくると、すさまじい勢いで早打ちになることがあります。早打ちではすまなく、時間切れで勝敗が決ってしまうことさえもあります。
 不思議なことですが、日々充実したときほど、時間はあっという間に過ぎてゆきます。人生も過ぎてみれば、きわめて短い一瞬の時間かもしれません。


Kuroda Kouta (2011.12.10/2011.12.11)